hiyamizu's blog

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東野圭吾『さいえんす?』を読む

2021年01月03日 | 読書2

東野圭吾著『さいえんす?』(角川文庫ひ16-3、2005年12月25日KADOKAWA発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

「こいつ、俺に気があるんじゃないか」――女性が隣に座っただけで、男はなぜこんな誤解をしてしまうのか?  男女の恋愛問題から、ダイエットブームへの提言、野球人気を復活させるための画期的な改革案、さらには図書館利用者へのお願いまで……。元エンジニアの理系作家が独自の視点で綴った、科学に関するあれこれ。思わず納得してしまう痛快エッセイ集。

                 (文庫オリジナル)

 

よく考えてみたら、デビュー以来十七年、文学性なんてものを意識したことは殆どないのだ。それらしき言葉を口にしたことはあるが、じつはその本当の意味がよくわかっていない、というのが実情である。



私の執筆方法は、まず頭の中で映画のようにシーンを思い浮かべた後、それを小説の形にするというものだ。しかし、……書きあがったものを読み直すと、頭の中のシーンとはまるで似ても似つかないということがしょっちゅうだ。女性の容姿など、特にそれが顕著である。



(書店)一店当たりの(万引きの)年間被害額は平均210万円にのぼり、これは粗利益の5~10%程度にも相当するらしい。(以下、ICタグ利用の話)



貸与権とは、著作物の貸し借りが行われようとする場合に、作者に生じる権利のことをいう。…現在それが認められているのは音楽や映像に対してのみであり、出版物については「当面適用しない」となっている。

レンタルコミック店や図書館だ。電子出版も、スキャナーによるテキストデータ化も大きな問題になる。



ダイエット食品を扱っているサイトにアクセスし、身長と体重を入力したら、次のような文章が表示された。
「標準体重ですが、もっと細いシルエットになりたいと思いませんか。2Kg減量コースをおすすめします。」
そこで実際の体重より2Kg減らして入力をやり直してみた。すると驚いたことに、さっきとまるで同じ文章が出てきた。何度か繰り返すうちに、こんな文章が出た。
「痩せすぎです。体力向上コースをおすすめします」
何のことはない。このプログラムには理想体重という概念は存在しなかった。痩せすぎエリアに入るまで痩せろ痩せろといい続けるのだ。

公共のスポーツ施設には優秀なダイエット・カウンセラーを配置すべきだ。



世界展開しているレコード販売店グループであるHMVの名前は “His Master’s Voice” (彼の主人の声)だ。

彼とはニッパー (Nipper)という犬で、亡くなった主人の声がする蓄音機に耳を傾けているところを描いた絵画『His Master's Voice』のモデルだ。この絵は、日本ビクター(現・JVCケンウッド)やHMVなどの企業のトレードマークになった。

 

 

本書は「ダイヤモンドLOOP」「本の旅人」に掲載された連載を収録した文庫オリジナル。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

多くのエッセイは科学、技術の知識をもとにしたもので、趣旨には納得できる。しかし、15年以上前のものなので、現在の技術とは若干ずれがあり、多くのエッセイが迫力不足の主張になってしまっている。

 

また、東野さんは、本のコピーや図書館利用など著作者にお金が入らないような形に読書に疑問を持っていて、以下のような主張をしている。

最後のエッセイ「本は誰が作っているのか」で以下のように主張する。

小説にかぎれば、利益と呼べるほどの黒字を生み出すものはほんの一握りだ。出版社は多くの本を赤字覚悟で出している。売れないとわかっている作家にも仕事を依頼し、原稿料や印税を支払う。なぜか。それは未来への投資なのだ。……私はたしかに赤川次郎さんや西村京太郎さんに食わせてもらっていた。あの方々がもたらす利益があるから、出版社は私のような売れない作家にも仕事をくれたのだ。

そして、最後の最後で東野さんは主張する。

せめていっておきたい。図書館やブックオフを利用することを、まかり間違っても、「賢い生活術だ」と思ってもらいたくない。そう考えることは、出版業界を支えている購買読者たちへの、とんでもない侮蔑である。

 

以上に対する私の見解は以下。
作詞作曲者へ一銭も支払わなくても、YouTubeで聞いた歌を一人で歌って楽しむことは認められている。同じように、図書館の本を読んで楽しむことは文化普及の一貫ということなのだろう、合法的で認められている。自分で読む目的なら、図書館でコピーすることさえ合法だ。ただし、東野さんの言うように、私も、貸与権を、歌と同様に本にも認めて、図書館も本の価格だけでなく、相当の金を著者に支払うべきだとは思う。


もっぱら本は図書館を利用する者としてひと言。
我が図書館では新刊本は発行後1か月ほど購入しないし、人気本は多くとも数冊しか購入しないので実質的に1年以上待たされる。それでも私が本を買わないのは2,3日で読んでしまって、取っておいて荷物になるのも、捨てるのも嫌だからだ。時期を逃すとメルカリでも売れないし、ブックオフで、数十円で売りに行くのもかったるいし、ましてや、それでは著者に金が回らないという問題の解決にはならない。

本屋さんに山と積まれた本の大部分は数週間でゴミと化すのはいかがなものか。本を書くことや、まとめて本にするのにも多くの才能、努力を必要とすることは理解しているが、もう少し絞り込んでから出版すべきだと思う。出版社は何が何でも新刊を発行しないと生き残れないという仕組みは問題だ。
エコの観点からは電子本はこの問題の一つの解決策だが、残念ながら、私には当てはまらない。電子本は紙と同等な読みやすさにはならないだろうし、紙の本の見た目、手触りにあまりにも慣らされ過ぎている。外で本を読むことのない私には電子本のメリットは少ない。アマゾンにこれ以上(?)儲けさせるのも業腹だ。

 

東野圭吾の略歴と既読本リスト

 

コメント
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