ハン・ガン著、井出俊作訳『少年が来る』(新しい韓国の文学15、2016年10月31日クオン発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。
『菜食主義者』でマン・ブッカー国際賞に輝いた、ハン・ガン渾身の物語
あの光州で起きた民主化運動の鎮魂曲
光州事件から約三十五年。あのとき、生を閉じた者の身に何が起きたのか。
生き残った者は、あれからどうやって生きてきたのか。
未来を奪われた者は何を思い、子どもを失った母親はどんな生を余儀なくされたのか。
三十年以上の月日を経て、初めて見えてくるものがあるーー。
丹念な取材のもと、死者と生き残った者の声にならない声を丁寧に掬いとった衝撃作。
韓国の全羅南道(チョルラナムド)の道庁所在地だった光州(クァンジュ)で1980年5月18日に光州事件(クァンジュ サコン)が起こる。全斗煥(チョン・ドゥファン)のクーデター、これに反対する学生デモ、戒厳軍の激しい暴行、反発する市民のデモへの参加。20万人にふくれあがり、武器庫を襲い銃撃戦になるが、27日に鎮圧された。
この小説は、民衆の蜂起、残虐な弾圧のルポルタージュともいうべき小説だ。光州に生れて9歳まで過ごし、事件の数カ月前にソウルに移り住んだ著者にとって、この作品は光州事件で亡くなった者、生きのびても深い傷を受けた者への鎮魂歌なのだ。エピローグにあるように、ハン・ガンは悪夢にうなされるほどこの事件の調査と現場取材に精魂を傾けながら、三十数年の時空を超えて亡くなった少年たちの魂を現代に招き寄せた。
トンホ:中学3年生。同居するチョンデを探す。下の兄さんは21歳で3浪中。上の兄さんはソウルで公務員。
チョンデ:背が小さい。16歳。トンホの家に間借りする。姉は紡績工場で働く20歳のチョンミ。
ウンスク姉さん:スピア女子高の3年生。小さな出版社で働き、指名手配中の著者の本の編集担当。
ソンジュ姉さん:裁縫師。事件後は録音とテープ起こしの仕事をする。ソンヒ姉さんは組合の指導者。
チンス兄さん:女の子みたいにきれいな顔のソウルの大学生。
人称代名詞のみで名前が書いてないことが多く、以上、少し間違っているかも。
私の評価としては、★★☆☆☆(二つ星:お勧め)(最大は五つ星)
第一章、第二章の70頁の大半は虐殺された死体に白い蛆虫が湧くなどのの描写や、取調べで子宮の奥まで30cmの物差しで数十回もほじられるなど、申し訳ないがいくら何でも読むのもうんざり。
市民に対する弾圧が描かれる。表現の容赦のなさは、現実に人々に加えられた容赦のなさに対する想像力の延長にあるものといえる。戒厳軍の銃撃、拷問、死。読んでいてつらい。
なんかそんな事件があったなあ、でもあの韓国の話だし。 日本の戦中戦後の特高を思い出す。
井手俊作(いでしゅんさく)
1948年、福岡県生まれ。1974年、早稲田大学政治経済学部卒。
新聞社勤務を経て2009年に韓国文学作品の翻訳を始める。訳書に崔仁浩の小説集『他人の部屋』と小説『夢遊桃源図』。