渋谷雅一著『質草女房』(2020年10月18日角川春樹事務所発行)を読んだ。
宣伝文句は以下。
彰義隊に入った夫に、戦いの前に手元に金が必要だと質屋に預けられた妻・けい。そんな男なのに、けいはひたすらに夫を信じ、帰りを待っている。けいに興味を持った貧乏浪人・柏木宗太郎は、質屋から夫の捜索を頼まれ、動乱を目のあたりにしながら逃亡先と考えられる会津へ。その最中、新政府軍の参謀・速水興平と出会い、行を共にすることになるが……。エンターテインメント性を高く評価された時代小説の新しい波!第12回角川春樹小説賞受賞作
貧乏浪人の柏木宗太郎は、常連だった質屋の主人松ノ助から、女房けいを質に入れたまま音信が途絶えた篠田兵庫を捜し出して、十両を受取り質出しするか、質流しに了承を得るか、して欲しいと頼まれる。手間賃3両につられ、兵庫に興味を持った宗太郎は、その行方を追う。
彰義隊の残党から、大男が「お前も一緒に会津に行くのだ」と大声を出していたと聞いた柏木は、会津へ向かう。途中で敵地を偵察する新政府軍の速水興平と共に隠れ道を通って会津へ潜入する。
本書は角川春樹小説賞受賞「すっきりしたい」を改題、大幅に加筆・訂正。
渋谷雅一(しぶや・まさいち)
1960年東京生まれ。千葉県在住。出版社勤務を経た後、フリーの編集ライター、別ペンネームで漫画原作・シナリオを多数手がけ、今作で小説家デビュー。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
女房を質草にするという点を起点にして、宗太郎が兵庫の行方を敵地まで探して歩くという単純な構成で、話が分かりやすく、読みやすい。
激しく動く維新の世の中で、大義にはまったく心を動かされず、人の気持ちだけにとらわれる宗太郎のキャラがポイントになっている。
柏木宗太郎:日雇仕事で暮らす貧乏浪人の30歳。父からみっちり剣術の稽古をつけられ、抜刀術を心得る。
松ノ助:質屋・巴屋の主人。店じまいして隠居しようとしている。
篠田兵庫:彰義隊に加わるため女房を質草に10両を借りた。謎の浪人。
稲垣泰三:篠田の仲間。若い浪人。吃音。
狩野十内:篠田の仲間。へちまを思わせる面相。6尺近い長身で痩せ。
大楠虎之介:篠田の仲間。がっちり肩幅のある大男。
けい:篠田の女房。22歳の器量よし。質草だからと土蔵から出ない。
速水興平:はやみ・こうへい。新政府軍参謀。剣の達人。時に元彰義隊の栗林弥八郎を名乗る。
梶原章吾:会津藩の話好きの若い武士。大楠虎之介の泊まる所を世話したことがあった。