石田千著『窓辺のこと』(2019年12月25日港の人発行)を読んだ。
出版社による紹介は以下。
◎50歳になった作家の2018年、暮らしに根づいている言葉を丁寧にすくい、文章に放つ。いいことも悲しいことも書く。人気作家の新境地をひらくエッセイ集。
◎2018年の1年間、「共同通信」に連載した作品を中心に、雑誌に発表したエッセイをまとめる。大好きなオムライスのこと、民謡をたずねる話、ポルトガルから大阪へめぐる旅など、圧巻は、年の瀬の「レルビー」という作品。「レルビー、レルビー」と一心に歌い、書く。その歌声がページから聞こえてくる。
◎「共同通信」連載時の画家・牧野伊三夫による挿絵をすべて収録。一部はカラー。本書装画も牧野伊三夫が手掛けた。
石田さんが20歳の時に昭和から平成に、50歳で平成が令和になった。この本は、50歳になる1年の間に各種メディアに書いたエッセイをまとめたものだ。多くの見開きの片側に牧野伊三夫による料理などの挿絵があり、静かに豊かな雰囲気を盛り上げる。
ぼんやりした子供時代を過ごし、整理べたで、ちょっとした料理とお酒が好きで、勤めも止めて、心足りたミニマリストの生活を楽しんでいるかに見える石田さん。しかし、父親を亡くされた静かな悲しみが底の方に感じられ、透明感ある文章だ。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
何気ない日常の事柄からかすかな情緒を摘みだして、ほっこりと穏やかな気持ちに導いてくれる。大きな感動や、深い哲学的思考の香りはしないが、「これこそがエッセイなのでは」とも思えてくる。そして、すぐれたエッセイがそうであるように、読むうちに作者が浮かび上がってくる。
このようなエッセイが今の時代にもてはやされることはないであろうが、失礼な言い方になるが、生き残っていてほっとする。
須賀敦子さんの本の素晴らしさを語っている「霧のことば」に深く共感した。
石田千(いしだ・せん)
1968年福島に生まれる。女性。東京育ち。作家。東海大学文学部文芸創作学科教授。
大学在学中から16年間に渡って、嵐山光三郎の助手を務める。
2001年「大踏切書店のこと」により第1回古本小説大賞受賞。
2011年『あめりかむら』で芥川賞候補
2012年『きなりの雲』で芥川賞候補、野間文芸新人賞候補
2016年『家へ』で第3回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞、芥川賞候補。
民謡好きで、『唄めぐり』を著するなど記録にまとめている。画家・牧野伊三夫が装画を担当している著書は、本作のほかに『バスを待って』『箸もてば』がある。
著書に『ヲトメノイノリ』『もじ笑う』『からだとはなす、ことばとおどる』ほか多数。