千葉ともこ著『震雷(しんらい)の人』」(2020年9月20日文藝春秋発行)を読んだ。
文藝春秋の作品紹介は以下。
第27回松本清張賞受賞作
運命に抗う兄妹の、ロマン香る大河小説。
「書の力で世を動かしたい」。文官を目指しながら、信念を曲げず敵陣の刃に倒れた青年・顔季明。彼の許婚の采春は、興行一座に身を隠し、得意の武術を磨きながら、季明の仇討ちを計った。
一方、采春の兄・張永は、季明の遺志を継ぎ、新皇帝のいる霊武へと向かう。いちどは袂を分けた兄妹の運命が交差するとき、唐の歴史が動き始める――。
本作品は著者のデビュー作。
史実
755年、唐の玄宗皇帝は楊貴妃を寵愛し、そのおいの楊国忠一族を重用した。将軍安禄山は反乱を起こし、長安のはるか北東の范陽からわずか1か月で洛陽を落とし、長安に迫った。安禄山は洛陽で大燕皇帝と称したが、享楽に興じ、狂暴化し、愛妾の子を後継ぎにしようとしたため、嫡子の安慶緒に暗殺された。
唐の玄宗は一時長安を逃れたが、国難の元凶として楊国忠・楊貴妃は兵士らに殺された。皇太子は四川に逃れた玄宗を上皇にまつりあげ、粛宗として即位した。粛宗はウイグル軍に支援を求め、乱は763年に鎮圧された。
本作品では、范陽と洛陽の間にある地方の平原郡と常山郡(平原郡太守の顔真卿、張永、采春、常山郡太守の息子顔季明ら)が反乱軍との激動の中で、時に敵味方に分かれて戦う波乱の時に見舞われる。
題名の「震雷の人」とは、顔季明の以下の言葉から。
「書の一字を侮るなかれ。一字、震雷の如しといいます。刀でも弓でもない。人に一時、発した一言が、人を動かし、世を動かすのです」(p20)
顔季明:常山郡太守の息子。「書の力で世を動かしたい」と文官を目指す。16歳。
采春:季明の許嫁。張永の妹。武術の達人。19歳。季明の仇討ちのため安禄山を狙い、長安をめざす。
張永:平原軍の第一大隊の隊長。季明の親友。季明の遺志を継ぎ、新皇帝のいる霊武へと向かう。
顔真卿:平原郡の太守。書の達人として有名。季明の叔父。
安禄山:唐の玄宗皇帝に重用された将軍。楊国忠と対立し反乱を起こす。
安慶緒:安禄山の息子。後継と目される。
広平王:玄宗の孫、皇太子の長男。
建寧王:玄宗の孫、皇太子の3男。兵士、庶民に人気。
志護:采春に武術を教えた和尚。
圭々:志護により張永に預けられた若僧
白泰:騎馬隊長。張永の右腕。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
講談を聞いているようで、面白いのだが、深みがなさすぎる(難しいと文句を言うくせに)。
中国の時代劇として敵味方入り乱れる様子は面白いのだが、名前、地名が覚えにくい。おまけに短期間だけ登場する人物もやたらに多く、読むのに苦労する。
ルビがふってあるとはいえ、縁遠い漢字が頻発
鬣(たてがみ)、肌理(きり)、被帛(ひはく)、裙(くん)、姱容(かよう)、……
千葉ともこ
1979年茨城県生まれ。筑波大学日本語・日本文化学類卒業。現在、水戸市在住。役所勤め。8歳の息子と6歳の娘がいる。
2020年、本作でデビューし、松本清張賞受賞
「オール読物」編集部「本の話」インタビュー、 千葉 ともこ「松本清張賞記念エッセイ 雷の呼吸 壱の型『震雷の人』」