貫井徳郎『プリズム』
裏表紙にはこうある。
小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。彼女の同僚が容疑者として浮かび上がり、事件は容易に解決を迎えるかと思われたが……。万華鏡の如く変化する事件の様相、幾重にも繰り返される推理の構築と崩壊。究極の推理ゲームの果てに広がる瞠目の地平とは? 『慟哭』の作者が本格ミステリの極限に挑んで話題を呼んだ衝撃の問題作。
小学校の女性教師で、愛くるしく、無邪気な山浦美津子が自宅で頭をトロフィーで打って死んでいた。窓が破られていたし、送られてきたチョコレートの中から睡眠薬が発見され、彼女は既に一部を食べていたので殺人事件だと思われたが、棚から落ちたトロフィーで頭を打った事故の可能性も考えられた。やがて、チョコレートの送り主は、かねて噂があった同僚の南条先生であることが分かった。
この事件を、4人の生徒たち、同僚の桜井先生、美津子と付き合っていた井筒、生徒の父親の小宮山という異なる視点から事件を推理し、それぞれの美津子像を描く。仮説の構築と崩壊を繰り返す4章からなる。
「プリズム」という題名は、一つの太陽光がプリズムで様々な色の光に分かれることから、一人の人間が他人からは異なった人間として捉えられていることを表していると思う。
「虚飾の仮面」
クラス委員で何事にも尻込みしない女子の山名、山名の後ろにいつもいる女子の村瀬、単純な男子生徒の柴野、柴野よりはちょっとだけ頭の良い小宮山真司、この小5の4人が限られた情報から事件を推理し、小宮山と山名は〇〇を犯人と断定する。なお、子どもたちから見た美津子は、子どもの心を分かってくれる楽しい先生。
「仮面の裏側」
桜井先生は、チョコレートは複数あったのではと推理し、美津子の葬式でそっくりな妹の杏子を見かけ、話を聞き、美津子が学生時代につきあっていた男性を知りたいという。このために杏子の交際している医師の佐倉を紹介してもらい、その男は現在は医師になっている井筒だと教えてもらう。井筒の現在の恋人は大峰ゆかりだという。
桜井は「あたしにとって、事件はこれで終ったのだから。」とつぶやく。
なお、桜井は無邪気で自由奔放な美津子を本当は嫌っていた。私はあなたのように純粋じゃない、濁った大人なんだから「いい加減にして!」と叫びたくなるのだ。
「裏側の感情」
美津子の日記を杏子が見つけ、桜井経由で井筒に渡り、美津子の不倫相手がKだと分かる。井筒は興信所でKの正体を探り、……。
なお、井筒は美津子の呪縛から逃れられないことを嘆く。
「感情の虚飾」
略
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
全体構成は私には初めてで、面白かった。
子ども達の推理の第一章は余裕で、「それはちょっと無いだろう」などと余裕を持って読んでいたが、犯人とされた〇〇が語る第二章、そして第三章と否定されると、だんだん混乱してくる。
最後の推論はとても納得できるものではなく、自説は事故としておこう。
単行本に書かれていた著者自身のあとがきには、「本書内では、十とおりの仮説を構築しました。……本書を基に、そうした(さらに仮説を考えるという)楽しみを読者に味わっていただきたい。それが、作者の希望です。…」とある。