高野秀行著『世にも奇妙なマラソン大会』(2011年2月10日、本の雑誌社発行)を読んだ。
本の雑誌社の宣伝文句は以下。
深夜のモヤモヤタイムに思わず申し込んでしまったのが、西サハラの砂漠を走るマラソン大会。砂だらけの42.195キロを、それまで10キロしか走ったことのない著者は走り切ることができるのか。いやなぜそんなアホな行動に出るのか。しかし行ってみればそこは未知の世界であり、発見や驚きに溢れているのであった。
そんな表題作のほか、高野秀行の真骨頂である「間違う力」全開の作品集。
インド入国のためだけに名前を変えようと必死に試みる「名前変更物語」、ブルガリアで怪しいおじさんに付いていったら、あら大変!の「ブルガリアの岩と薔薇」、そして書き下ろしの世界中の不思議な話満載の「アジアアフリカ奇譚集」を収録。
「世にも奇妙なマラソン大会」
西サハラはアフリカの北西部、太平洋に面した地域で、東のモロッコに占有されたままで独立を果たしていない。世界にこの実情を訴えるためでもあるマラソン大会が開催されるのだ。
高野氏は夜中の高揚感のまま、ネットでのマラソンランナー募集につい応募してしまう。普段からほとんどランニングしていなし、10キロしか走ったことがないにも関わらず、約3週間後のフルマラソンにエントリーしてしまった。世界中からマラソンの猛者が集まるこの砂漠の中の大会に超初心者の高野氏が参加してしまった顛末記だ。
25キロを過ぎると、砂を強く蹴ろうとするため足の足首と足の甲が攣(つ)った。やがて両足の上から下まで全部が痙攣(けいれん)した。休んでいると痛みが少し弱くなり、両足が攣ったまま走り出す。しばらく走り、休んでいる人を抜くと、また痙攣がひどくなって止まる。これを繰り返す。他の人も同じ謎の走りをしていた。いろいろあって、ついに、ついに、5時間40分でゴールした。
「ブルガリアの岩と薔薇」
セルビアからブルガリアへ向かうバスで隣り合った年配の男性がフランス語で話しかけてきた。バラの香水つけ、岩のようにゴツゴツした男で、ソフィアの自宅に泊まるように誘ってきた。なんとなくゲイの匂いがし、ソフィアに着いて家へ向かう途中、「ああ、これは失敗では……」と思えてきた。家へ着くと、岩薔薇おじさんはいきなりガバッと抱きしめ、「私の愛しい人!」と言い、首筋にキスされた。思い切り突き放すと、「え、これは日本式挨拶じゃなかったっけ?」と今や油断も隙もない。そして……。
「名前変更物語」
妻に土下座をしたのは四月一日の晩だった。
「僕と離婚してくれないか」と言ったのである(p.150) ではじまる。
……次に私が言ったのはこうだった。
「で、そのあとに再婚してください」
謎の怪魚ウモッカを探すためにインドへ行きたかったが、著者は強制退去させられたことがあるため、姑息なことに名前を変えて新たなパスポートを取ろうと奮闘、迷走するのである。
名前を変えるために誰かと養子縁組するのは難しいので、妻と離婚し、再婚の際に妻の苗字にしようというのだ。それから爆笑の暴走、迷走が始まる。
「謎のペルシア商人――アジア・アフリカ奇譚集」
略
初出:「本の雑誌」+書き下ろし
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
好き嫌いあるだろうが、いまだ滅茶ばっかりやる高野さんが大好きな私は四ツ星。
何と言っても爆笑につぐ爆笑なのは「名前変更物語」。
「高野さんって、偉い!」といっても、奥さんの方だけど。
LGBTに配慮が要求される昨今だが、「ブルガリアの岩と薔薇」で、N饗指揮者の岩城宏之が語っていた話を思い出した。
アメリカの某超有名指揮者はゲイで、その相手をした人を引き立てて、有名指揮者にするという噂があった。岩城氏がその指揮者の屋敷に招待されて、風呂に入っているときに、彼が近づいてくる足音がした。岩城氏は、「ああ、俺もついに、世界的有名指揮者になるのか」と思ったという。しかし、彼は、結局風呂に入って来なかった。
お勉強
足が攣(つ)る