夏川草介著『臨床の砦』(2021年4月28日小学館発行)を読んだ。
小学館のサイトの「書籍の内容」は以下。
緊急出版!「神様のカルテ」著者、最新作
「この戦、負けますね」
敷島寛治は、コロナ診療の最前線に立つ信濃山病院の内科医である。一年近くコロナ診療を続けてきたが、令和二年年末から目に見えて感染者が増え始め、酸素化の悪い患者が数多く出てきている。医療従事者たちは、この一年、誰もまともに休みを取れていない。世間では「医療崩壊」寸前と言われているが、現場の印象は「医療壊滅」だ。ベッド数の満床が続き、一般患者の診療にも支障を来すなか、病院は、異様な雰囲気に包まれていた。
「対応が困難だから、患者を断りますか? 病棟が満床だから拒絶すべきですか? 残念ながら、現時点では当院以外に、コロナ患者を受け入れる準備が整っている病院はありません。筑摩野中央を除けば、この一帯にあるすべての病院が、コロナ患者と聞いただけで当院に送り込んでいるのが現実です。ここは、いくらでも代わりの病院がある大都市とは違うのです。当院が拒否すれば、患者に行き場はありません。それでも我々は拒否すべきだと思うのですか?」――本文より
「神様のカルテシリーズ」で知られる夏川草介氏は、消化器内科医として最前線で新型コロナウイルス感染患者の治療に1年以上あたってきた。孤立無援の中のあまりにも過酷な体験をもとにした記録小説。
信濃山病院の感染症治療チーム
敷島寛治: 18年目の消化器専門の内科医。42歳。妻は実希、子供は小学生の桐子、空汰。
三笠:リーダー。内科部長で腎臓内科の医師。
千歳:50歳を超えるベテラン外科医。龍田の上司。
龍田:外科医。
日進:肝臓内科。48歳。
音羽:糖尿病内科医。女性。
四藤:感染担当看護師
赤坂:感染症病棟看護師
コロナウイルス患者:平岡大吾(62)、根津九蔵(70)、森山(82)、他
私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)
あなたにはこの本を読む義務がある。
多くの患者の症状(p10)
軽い風邪の症状で始まり、多くの患者は数日から一週間程度の経過で改善する。しかし、中には急激に呼吸状態が悪化してくる患者がいる。断続的に発熱が続き、ふいに酸素濃度が下がってくる。大きな変化もなく4,5日が経過し、突然変化することがある。…恐ろしいのは、酸素状態の悪化している患者の多くが、しばしば症状が目立たないことだ。
感染者の遺体(p139)
遺体も感染源になりうるので、専用の巨大なゴミ袋のような黒い袋に詰められ、外側からテープで賢首に目張りされ、白いシーツに包まれてから排出される。霊安室で葬儀業者の柩に移されたあと、柩の外側からさらにテープで頑丈に目張りされる。そのまま業者の手で直接焼き場に運ばれて骨となる。死者の顔を見ることはないし、家族の付き添いも迎えもない。(家族は遺骨を受取るだけだ)
感染第三波の予感(p19)
去年の感染一波、二波のときに、うまくいきすぎたんだよ。…わずかな患者の増加だけで拡大を止めることができた。その成功体験が残念ながら裏目に出ているんだと思う。あの時とは比較にならない大きな波の気配があるのに、役所の対応は鈍重で、周辺の医療機関も無警戒。一般人の態度も明らかに緩んで見える。
アイソレーター:救急車に収容された患者からの周囲の人への飛沫感染を防ぎ、袋越しに手袋を介して患者に措置ができる装置。頭側のダクトから外気を取り込んでそのまま救急車の外に排気できる特殊な袋。患者の吐き出した空気は車内にでることなく、フィルターを介して直接車外へ放出される。
参考
「相模原論文」(p196)
感染症学雑誌2020 Vol.94 No.4 ONLINE JOURNAL 「市中病院で経験した,人工呼吸器装着が必要であった重症COVID-19肺炎の感染対策,治療について」(全文はPDF)
m3.com(医療従事者専用サイト)ニュース・医療維新 「第1波の混乱の中、「相模原論文」に勇気づけられた-医師、小説家の夏川草介氏に聞く」
坩堝(るつぼ)