久坂部羊著『MR』(2021年4月15日幻冬舎発行)を読んだ。
幻冬舎の宣伝は以下。
患者が苦しめば苦しむほど、
俺たちの給料は上がるんだよ。
製薬業界の光と影を描いた医療ビジネス・エンタテインメント。著者渾身の最高傑作!
「患者ファースト」のMR vs. 儲けしか頭にないMR
大阪に本社を置く中堅製薬会社・天保薬品。その堺営業所所長であり、MRの紀尾中正樹は、自社の画期的新薬「バスター5」が高脂血症の「診療ガイドライン」第一選択Aグレードに決定するべく奔走していた。決まれば年間売上が1000億円を超えるブロックバスター(=メガヒット商品)化が現実化する。ところが、難攻不落でMR泣かせの大御所医科大学学長からようやく内定を得た矢先、外資のライバル社タウロス・ジャパンの鮫島淳による苛烈な妨害工作によって、一転「バスター5」はコンプライアンス違反に問われる。窮地に追い込まれた紀尾中以下、堺営業所MRチームの反転攻勢はあるのか。ガイドラインの行方は? 注目集める医薬業界の表と裏を描いたビジネス小説の傑作、誕生!
手にしてずっしり、539ページの大部。確かに著者渾身(の最高傑)作。
患者ファーストの善玉MRが、悪徳MRの数々の妨害をはねのけて勝利を手にする話がこれでもかとてんこ盛り。
MRとは、英語(Medical Representative)だとたいそうな名前だが、ようするに製薬会社の医師への営業で、医療情報担当者の事。昔のMR(プロパー)は、薬の誇大宣伝、医者への過剰な接待、ワイロ、などやりたい放題で、あまりにひどかったので、業界が自主規制のコンプライアンスとMR制度を作ったそうだ。
日本の製薬業界の市場規模は約十兆円。大手トップスリーは年間売上1兆円以上。
登場人物
天保薬品堺営業所
所長(紀尾中46歳)、チーフMR(池野38歳、肥後53歳、殿村)、池野チームのMR(市橋28歳、山田(女性、牧35歳、野々村))
天保薬品
社長(万代)、常務(栗林(女性))、総務部長(五十川)、大阪支店長(田野)、新宿営業所長(有馬)
タウロス・ジャパン営業課長(鮫島)
泉州医科大学学長(乾)
北摂大学代謝内科教授(八神)
阪都大学代謝内科教授(岡部)
高脂血症の画期的新薬バスター5は、紀尾中のアイデアから始まった天保薬品の画期的な新開発薬品。現在の年間売上二百十億円が、来年6月の「診療ガイドライン」に収載されれば、一千二百億円になると予測される。
紀尾中傘下の堺営業所は、日々生じる諸問題を解決しつつ、バスター5がガイドラインに載ることを目指す。
「2.処方ミス」
市橋が担当する医師が薬の処方数を間違えたのに効かないと不満を漏らす。市橋を伴った紀尾中は医院を訪ね庭のバラを誉めて、医師の心を開かせて、処方間違いをそれとなく悟らせた。
「3.地獄の駐車場」、「4.コンプライアンス違反」
市橋は、天保薬品のロキスターの注文が急に途絶えた山脇クリニックを訪ねた。駐車場で医師とキャッチボールをするライバル会社の世良がいた。河井田内科クリニックでもロキスターの注文が止まり、世良の悪辣なコンプライアンス違反をいかに暴くか。
「5.潔癖ドクター」、「6.セクハラの罠」、「7.騙し合い」
唯一の女性MRの山田は新堺医療センターへ新喘息治療薬ガルーダを売込むが、副院長の最上に拒まれていた。副部長の赤西に誘われた山田はセクハラに遭い……。
以下、医師たちからのいやがらせ、イジメ、妨害を突き崩して薬の注文を取る話が延々と続く。MR内の議論でも、患者ファーストの立場と売上をあげることが目的との立場がぶつかる。
「13.ブロックバスター」あたりから新薬バスター5をガイドラインに載せる話が加わり、ライバル会社の卑怯な手段への対抗の話に移っていき、「28.ガイドラインの行方」で決着を見る。
「29.薬害訴訟の決着」あたりから始まった紀尾中への疑惑、追い落としが、最後の「38.経営戦略」で最終決着をみる。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
簡単に読めて面白いのだが、ともかく長すぎる。積みあがって、深まっていく話でなく、同種の話が続くのであきる。
善玉、悪玉がはっきりしていて、いつも同じパターンになる。登場ははっきりと類型的で、深み、幅がない。それだけに気楽に読め、安心して楽しめる通俗小説だ。たまには良いかも。