hiyamizu's blog

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鳴海章『路地裏の金魚』を読む

2023年04月25日 | 読書2

 

鳴海章『路地裏の金魚』(光文社文庫な25-15、2013年3月20日光文社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

路地裏の金魚 鳴海章(なるみ・しょう)

四十二歳の有馬仙太郎は、製薬会社の営業マン。別れた妻に払う養育費の捻出に四苦八苦していた。ある晩、浅草での接待の後、観音裏の一杯呑み屋・金魚に立ち寄った。その店で、仙太郎は不思議な体験をする。便所を出ると、カウンターには若かりし日の父親が――。過去と現在を行き来し、仙太郎は競馬で一攫千金を狙う! 疲弊したサラリーマンの鬱憤を晴らす爽快作!

 

 

久坂部羊著『MR』にあったが、昔のプロパー(製薬会社の営業、現MR)は、医者への過剰な接待、ワイロなどやりたい放題で、あまりにひどく、業界が自主規制のコンプライアンスとMR制度を作った。

本書『路地裏の金魚』の主人公・有馬仙太郎は製薬会社の営業で、昔のプロパー時代の営業の実態は悲惨で、仙太郎の同期入社12人のMRの内、1年後残ったのは2名だけ。MRの時代になると営業も、薬学系、理学系の修士や博士が中心になり、彼は時代に取り残されてしまう。

 

そんな懸命に生き、ボロボロになり、くたびれきったサラリーマンが絶体絶命の所で、人生一発逆転を狙うという物語。

タイムトラベルというSFの仕組みを何度か使っているが、新旧時代を大きな破綻なく描けている。

 

本書は文庫書下ろし

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

古くごたごたした浅草の街並みを細やかに描き、山谷堀のどぶの臭いがしてくるような気がする。製薬会社の過激な接待(具体例は、はばかるので最後に示す*)などをしっかり描き、自分独自の世界を築いている。

 

タイムトラベルによる一攫千金も、いろいろな仕掛けがあって、一つ一つクリアーしないと旨くいかないので、単純ではない。

 

昔の世界が描かれていて、年寄りには面白かった。
そういえば、「局番が3桁のまま」とあって、思いだした。一時、3桁と4桁が混在していたが、1991年から、3桁の電話番号は頭に3を付け4桁に統一することになった。例えば、03-3〇〇〇-〇〇〇〇のように。さらに、昔のことだが、電話がなかなか付けられなくて、「積滞」という言葉があった時代もあったのだった。

また、「どんぶり鉢ぁ、浮いた浮いた、捨ててこ、シャンシャン」という懐かしい歌も出てきた。「ステテコ」かと思っていたが。

タイムトラベルを書くのも大変だ。

 

 

鳴海章(なるみ・しょう)

1958年北海道帯広市生まれ。日本大学法学部卒。

PR会社勤務中の1991年『ナイト・ダンサー』で江戸川乱歩賞受賞。

シリーズものとして、『国連航空軍』シリーズ、『スナイパー』シリーズ、『原子力空母信濃』

警察小説として、『ニューナンブ』『えれじい』

映画化された作品として、『風花』『輓馬(ばんば)、映画名は「雪に願うこと」』『俺は鰯』

 

 

主な登場人物

リューホウ製薬

有馬仙太郎:主人公。元特攻隊のMR(医療情報担当者)。42歳。

富樫丈長:元特攻隊伝説のMR。

雨宮凛子:元特攻隊のMR

天現寺:本社学術部の営業

 

私立哲教大学医学部

安西教授:新薬開発を取り仕切るボス。

月埜(つきの):助手。安西のもとで長年働く50歳。

 

 

 

 

*)MR以前のプロパー時代のえぐい営業例(お馬鹿十番勝負)

・富樫の「人間辞めます」の気合で始まる。

アイスペール(氷を入れるバケツ)のブランデー1本分を一気に飲み干し、直後にアイスペールに吐き戻す。そして、「必殺ブローバック」と叫ぶや、中味を残らず平らげた。安西教授は「これぞ浄穢不二(じょえふに)、禅の極意」と叫び、以来、富樫を一番の贔屓とした。禅では、神羅万象、世の中の一切は「空」であり、キレイもキタナイもない=浄穢不二。

・野球拳

・同僚の頭に一物を乗せるちょんまげ

・女性プロパーが下を脱いで、下の口を動かす腹話術

こんな下品そのものの芸をして懸命に生きていた人たちがいたのだ。

 

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