4月27日 8時半。
春は霞んで見えないことが多い富士山が、ベランダから久しぶりに顔を出した。
これだけでハッピーです。
新川帆立著『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』(2023年1月30日集英社発行)を読んだ。
通称:令和反逆六法——
六つのパラレル・レイワ、六つの架空法律で、現行法と現実世界にサイドキック!
「命権擁護」の時代を揺さぶる被告・ボノボの性行動、「自家醸造」の強要が助長する家父長制と女たちの秘密、「労働コンプライアンス」の眩しい正義に潜む闇……。
痛烈で愉快で洗練された、仕掛けだらけのリーガル短編集。
6つの「レイワ」(礼和・麗和・冷和・隷和・零和・例和)の世界に於ける、独立なSF短編集。
元プロ雀士で、高校時代は囲碁の全国大会にも出場した著者が、「小説すばる」のゲーム特集に誘われて書いたのが、第六話の「接待麻雀士」。さらに「架空法律」が面白いからと、追加して短編集が出来た。(本書の刊行記念インタビューより)
「第一話 動物裁判 礼和四年「動物福祉法」及び「動物虐待の防止等に関する法律」
人間の「人権」だけでなく、全ての動物には命としての権利「命権」がある「礼和四年」。動画配信サイトで人気の猫が、出場したボノボ(コンゴに住むピグミーチンパンジー)が卑猥な行為をしたと訴え、人間が裁判する物語。
「第二話 自家醸造の女 麗和六年「酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達(通称:どぶろく通達)」
女性が酒造りするのが当然の世界で、「私、市販のお酒しか飲まないの」と涼しい顔で言っていた万里子が、次第に、自ら”酒造りの呪い”にはまっていく。
「第三話 シレーナの大冒険 冷和二十五年「南極条約の取扱いに関する議定書(通称:南極議定書)」
他とは毛色が違い、バーチャル世界が登場するSFらしい、ファンタジーぽい作品。住む世界で同じ人の名前が異なるのでややこしい。
「第四話 健康なまま死んでくれ 隷和五年「労働者保護法」あるいは「アンバーシップ・コード」
うって変わって、現実に近い、弱者切り捨ての、身につまされる悲惨な話。一人で母親を介護する37歳の成瀬は大手通販サイト「ヤマボン」の倉庫に勤める非正規労働者。過労死を防ぐための法律が逆に労働者を縛る。
「第五話 最後のYUKICHI 零和十年「通貨の単位及び電子決済等に関する法律(通称:電子通貨法)」
新型感染症へのほぼ無意味な不安感と、外国の動向に流され、現金が廃止された日本の話。現金を持っているだけで排斥される現金警察の世の中になっている。
「第六話 接待麻雀士 例和三年「健全な麻雀賭博に関する法律(通称:健雀法)」
「女子麻雀プロといっても仕事の半分はキャパクラのようなものだ」(p224)。著者が何かのインタビューでそれが原因で辞めたと言っていた。
純粋に麻雀だけで不器用に生きている塔子(とうこ、ターツ)と、女子力を十二分に利用する由香里が接待麻雀で対決する。
相手を勝たせるための実現可能なイカサマをものすごく考えて書いたので、登場する接待麻雀のテクニックは、実際に使えるという。
初出:「小説すばる」2021年9月号、~、2022年10月号
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
架空の未来の日本の厳しい話なのだが、それにしても実生活での粘着質のいやみな世界がないので、さっぱり、すっきりしている。おそらく著者自身が楽しんで書いているので、読む方もホイホイと読める。
合理的でない理由で物事が決まってしまうことが多い日本社会への皮肉が痛切で面白い。著者も変わった人として疎外されることが多いのではと想像するが、そんな自分を鳥瞰的に、冷静に見ているのだろう、余裕ある筆致が好ましい。