hiyamizu's blog

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角田光代『曾根崎心中』を読む

2012年04月04日 | インポート
角田光代著『曾根崎心中』2012年1月(株)リトルモア発行、を読んだ。

近松門左衛門が書いた人形浄瑠璃や歌舞伎の演目『曾根崎心中』を角田さんが翻案した彼女初の時代小説。

元になったのは実話で、元禄16年(1703年)早朝に大阪堂島新地天満屋の女郎・はつ(21歳)と内本町醤油商平野屋の手代である徳兵衛(25歳)が西成郡曾根崎村の露天神の森で情死した事件だ。(ウィキペディアによる)
人形浄瑠璃はこれまでは伝説などを題材にしていたが、近松門左衛門は今のワイドショーのようこの心中事件を描き人気を集めた。

角田さんは、遊女の初が、苦行の毎日で悲惨な将来しか見えない辛い日々のなかでの唯一の光として徳兵衛を運命の人と思い込んで、恋にその身を焦がしていく心理、過程を生き生きと描いている。(私は原作を読んでいないので、その差は不明)

けしてその腕を見せず、かって遊女として何かがあっただろう天満屋のおかみがお初に言う。
「恋なんかするもんやない」「つまらんもんや。一年たったら、笑い話。十年たったら、覚えてないわ」

しっかり者の初もそう思っていたのに、突然、現れた徳兵衛を、もう私にはこの人しかいないと思い込んでしまう。

徳兵衛は、親を亡くして継母にいじめられたが、叔父夫婦にひきとられ可愛がられた。
そして、
まわりのすべての人を信じようと決めたのだろう。そう決めなければ、生きていかれなかったのだろう。・・・そんなはずがないことをよくよくわかっているわたしが、だから守ってやらなければならない。

そう初は思っていた。初は、惚れた男の馬鹿なところも情けないところも全部ひっくるめて、どうしようもなく好きなのだ。

巻末に「文中用語の手引き」があり、遣り手、身揚がり、手代、二貫(現在の金銭感覚ではおよそ三百万円)などの簡単な解説がある。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

恋の不思議を知る人、知りたいと思っている人にはお勧め。原作に忠実らしいのだが、初の気持ちに重点があり、その心理を丁寧に描いている。

いけ好かない男に身をまかせざるを得ず、現在も、この先も、見えない遊女にとって、恋こそが唯一の自由の道だったのだろう。しかし、その道は死への道だということはわかっていたのだが。



角田光代
1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
90年「幸福な遊戯」で「海燕」新人文学賞を受賞しデビュー。
96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、
98年「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、
「キッドナップ・ツアー」で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、
2000年路傍の石文学賞を受賞。
2003年「空中庭園」で婦人公論文芸賞を受賞。
2005年『対岸の彼女』で第132回直木賞。
2006年「ロック母」で川端康成文学賞を受賞。
2007年「八日目の蝉」で中央公論文芸賞をいずれも受賞
2009年ミュージシャン河野丈洋と再婚。習い事は英会話とボクシング。趣味は旅行で30ヶ国以上に行った。
その他、
水曜日の神さま」「森に眠る魚」「何も持たず存在するということ」「マザコン」「予定日はジミーペイジ」「恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。 」「私たちには物語がある 」「 愛がなんだ 」「 ひそやかな花園 」「 よなかの散歩園 」「 さがしもの 」「 彼女のこんだて帖 」「 かなたの子 」「 幾千の夜、昨日の月 」「 口紅のとき


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