遠藤周作著『反逆(上)、(下)』(講談社文庫え1、1991年11月15日講談社発行)を読んだ。
上巻の裏表紙にはこうある。
1度でもいい。上さまの……あの顔に……怯えの影を見たい――己れの力に寸分の疑いをもたぬ信長の自信、神をも畏れぬ信長への憎しみ、恐れ、コンプレックス、嫉妬、そして強い執着……村重、光秀、秀吉の心に揺らめく反逆の光を、克明に追う。強き者に翻弄される弱き者たちの論理と心理を描ききった歴史大作。
下巻の裏表紙にはこうある。
なんたる上さまの冷酷――命乞いをする幼な子の首を刎ねた信長、秀吉と光秀、2人の心理的競い合いを楽しむ信長。信長を討つことは天の道!光秀は長い間心に沈澱していた反逆の囁きから解き放たれた……。戦いの果てにみた人間の弱さ、悲哀、寂しさを、そして生き残った村重、右近らの落魄の人生を描く。
『反逆』は織田信長を軸に、彼に謀叛を起こそうとの気持ちを抱く戦国武将たちを描いている。上巻は荒木村重を中心に、下巻は明智光秀を中心に松永弾正久秀、高山右近、羽柴秀吉、架空の人物竹井藤蔵などが登場する。
『反逆』に続き、若き信長を描く『決戦の時』と、秀吉に見いだされ滅ぼされた前野将右衛門を描く『男の一生』は戦国三部作といわれる。
巻末に、遠藤周作自身による解説・取材感想「取材の滴」と、解説、13頁にわたる遠藤周作の年譜がある。
織田信長:長男は信忠、甥は信澄(のぶずみ)。義理の娘・だしは村重に嫁ぐ。
荒木村重:土豪だったが、摂津の茨木城を攻め取り、より大きな有岡城とした。
竹井藤蔵:磯見重左エ門と共に村重のために敵情を偵察。岡山県美星町出身。創造の人物。
中川清秀:村重の従兄弟。
羽柴秀吉:旧名は藤吉郎。
細川藤孝:後の幽斎。若い頃、明智光秀と共に足利将軍に仕える。
高山右近:旧名彦五郎。父は飛騨守。父子で切支丹。
松永久秀:弾正。三好長慶の家臣で、一族を謀殺してのし上がる。信長に降伏して家臣となるも反逆し敗れ自害。
初出:1988年1月~1989年2月読売新聞連載
本書は1998年7月講談社より刊行。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
何を描いている小説かといえば、織田信長を描いているのだと思う。ただし、侮辱され、抑えつかられ、神かとも思う信長にいつかは恐怖を味あわせたいと思う家臣たちの心の動きにより描いているのだが。
信長は利用できる者はいかなる手段をとってでも利用しつくし、不要となった者は躊躇なく切り捨てる。刃向かった者は、坊主、女、子どもにかかわらず残忍に殺す。怖れを感じることもなく、自分の判断には迷いはなく、自らを神とも思うと描かれている。恐怖によって家臣、民を支配した。
一方で反逆した荒木村重、明智光秀などは、ずたずたにされた自尊心、強制された残忍な仕打ちへの嫌悪、恨み心の一方で、信長の強靭な自信、的確な判断、強運におののいている。この本によれば秀吉さえ、内府さまの敵は外にはない。お心のなかにあると結論し、いつかは自分も戦うか、転ぶのを待つが、今ではない、今は早すぎると考えていた。
おおよそは歴史的事実の基づいていると思われるが、登場人物の心の動きなど歴史家からは決めつけと異論があると思う。しかし、小説では流れを明快にするためキャラクターは単純化せざるを得ない。遠藤周作は十分楽しんで書いていると思える。ただし、膨大な資料を読んだうえで。
遠藤周作(えんどう・しゅうさく)
1923年(大正12年)東京生まれ。1996年死去。慶應義塾大学仏文科卒。フランス留学
芥川賞(1955年)、新潮社文学賞(1958年)、毎日出版文化賞(1958年)、谷崎潤一郎賞(1966年)、読売文学賞(1979年)、日本芸術院賞(1979年)、野間文芸賞(1980年)、毎日芸術賞(1994年)、文化勲章(1995
代表作『海と毒薬』『沈黙』『侍』『深い河』
40代からは、いわゆるぐーたら物を中心とした身辺雑記等を書き連ねる随筆作家「狐狸庵」の顔も持った。
『眠れぬ夜に読む本』
一所懸命:地侍は先祖伝来の土地を守ることが一番大切。一生懸命は誤用。