かぶれの世界(新)

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ES細胞論文捏造に思う

2006-01-14 14:36:20 | ニュース

日本でマンションの耐震強度偽装で大騒ぎしていた時、お隣の韓国で起こったES細胞論文捏造が世界を駆け巡っていた。その衝撃の度合いは韓国だけでなく科学の世界ではメガトン級だった。主人公はソウル大学の黄(ファン)教授で、世界の大発見と言われたヒトのクローンES細胞が捏造だったと同大学調査委員会の断定を認め、謝罪した。

非常にショッキングな事件だが、私はこのスキャンダルが韓国特有の経緯をたどったことに興味を持った。韓国の人達の反応をもっと知りたいと思った。黄教授は技術立国を目指す韓国のヒーローだったからである。従来なら新聞記事やテレビ放送で断片的にしか入ってこないが、今やこの手の情報はブログの最も得意とするところでもある。

12月に韓国MBC放送が疑惑を報じた時、視聴者からの怒りのメールで放送局のサーバーはパンク、番組のプロデューサーは殺すと脅迫され、韓国大統領は馬鹿馬鹿しいと言ったとワシントンポスト紙は伝えている。韓国の英雄である黄教授への非難はとても出来ない雰囲気が当時あった。

しかし、その後調査が進み論文が全て捏造であると判明し、多くのブログを読むと韓国の人達の生々しい失望の声が感じられた。涙を流して残念がる各界の著名な人達の姿が、私の目には珍しかった。彼はそのくらい韓国の希望の星だった。教授を非難するよりも、一転して全国民が自省モードに入ったようだ。

自省の声の中には、韓国人はプロセスより目先の結果ばかり求めるようになった、行き過ぎた学歴主義、政府は教授の名声を利用して科学技術推進しその結果を自らの成果にしようとした付けがまわった、などなど。まるで戦争に負けた時の一億総懺悔だ。ポスト誌によると韓国民は国の価値観にまで立ち戻って、自分探し(soul-searching)を始めた.

しかし、実際のところはこうなる前に何回も警告信号が発せられていた。読売新聞(11月16日)は「発端は昨年5月、英科学誌が「研究チームの女子学生が卵子を提供した」と報じたことだった。女性の身体に負担をかける卵子提供は自発的でなければならない。教授と学生という、一方の立場が弱い関係で提供があったとすると、本人の同意が適正かどうかが疑問となる」と倫理問題を報じている。

さらに、翌月には科学ウェブサイトに疑惑の詳細が掲載され、秋には若手科学者グループがソウル国立大学に調査要求を申し立てた。何度も警告が与えられたのに学会の重鎮も政府当局も無視したと言う指摘がある。余りにも教授に対する期待が大きかったので声を上げることが出来なかった。ここでも、塩野七生さんの「人は聞きたいことのみ聞く」法則が働いたと言うわけである。(“ある圧力下で”と付け加えたい)

99年から02年頃私が仕事で付き合った韓国人は全てビジネスマンで、日米で教育を受けた人も多く普段の会話を通じて違和感はなかった。強いて言うなら他の国の人より「あの時こう言った、ああ言った」という取引の経緯にこだわりが強かった気がする程度である。アジア危機を思い切った構造改革で乗り切り先が見え自信を取り戻し始めた頃で、日本の問題先送り体質に失望していた私はむしろ尊敬の念すら抱いた。その人達と今回の韓国の一般の人達とは違うのだろうか。■

コメント
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