25日は思わぬ形で詐欺に遭ったので、帰宅してからも放心状態だった。それでも録画したビデオを見なければ、HDDに空きができない。それで見たのは「NHK杯将棋トーナメント」である。この日は羽生善治九段VS近藤誠也七段戦だ。
羽生九段はタイトル99期の生けるレジェンドで、藤井聡太竜王・名人といえども、まだ羽生九段のカリスマ性には及ばない。現在無冠ではあるが、50代時の大山康晴十五世名人に匹敵する存在感といえる。
対する近藤七段はB級1組所属で、「B級1組七段」が最も脂が乗っている時期ともいえる。1回戦では齊藤裕也四段に必敗の将棋を拾ったのが記憶に新しい。
この日の昼は、ネットニュースに「羽生九段、NHK杯で……」と出ており、仕事中の私は、その先を見ないようにした。最近は将棋の結果がニュースで知らされることもあるので、油断もスキもない。NHK杯の視聴前に結果を知ることは、犯人が分かっているのに探偵小説を読むのにも似て、これほど味消しなものはない。
将棋は近藤七段の先手で、横歩取りになった。羽生九段は先手を持っても後手を持っても横歩取りが強い。
羽生九段、角を換わってから同じ位置に角を打つ。そして3筋に歩を垂らしたのが軽手だった。これを▲同飛でも▲同銀でも後手が十分になるので近藤七段は桂を跳ねたが、羽生九段はゆうゆうと金を作って指しやすくなった。
以下羽生九段は自然な指し回しで優位を拡大する。羽生九段は現在4連敗中で、もしこの将棋に敗れると、収録日がどこであろうと5連敗になってしまうのだが、それは杞憂に思われた。
指し手はさらに進み、羽生九段は飛車で王手をし、近藤七段の桂合いに、1八の馬を3六に引いた。取られそうな馬を引きつつ詰めろだから自然な手だが、この瞬間、形勢バーが「近藤99:1羽生」になったので、私は「エエーッ!?」と叫んでしまった。「99:1」は、相手玉に即詰みがあることを意味する。
果たして近藤七段は角打ちから詰ましに行く。そのうち羽生九段も詰みに気づいたようで、あらぬ方角を見た。
以下、127手まで近藤七段の勝ち。1回戦に続いての逆転勝利である。
対局後、羽生九段は鈴木環那女流三段の問いかけに、「終盤は勝ちになったと思っていたんですが……」と、声を絞り出した。当然ながら自玉の詰み筋をうっかりしていたわけだが、不可解なのはその局面である。
図から角を打って桂打ちは、プロなら一目であろう。そしてその局面で先手の持駒は金銀桂。盤上にも金銀が何枚かおり、いかにも詰みそうな形だ。1986年2月3日・4日に指された第35期王将戦第3局指し直し局の長手順の詰みならいざ知らず、この局面で羽生九段が自玉の危機に無警戒だったのが信じられないのだ。
たとえば大山十五世名人は、どんなに優勢な局面でも、つねに盤面をくるくる見ていた。だから、即詰みを見落としたことがあっても、トン死を食らったことはないと思う。そこが羽生九段との差なのかもしれないが、羽生九段も来月には54歳。瞬発力も衰えてきているのかもしれない。
いずれにしても羽生九段、この負けはちょっと衝撃的だった。
羽生九段は、このまま普通の棋士になってしまうのか。今後の羽生九段の戦いに注目したい。
羽生九段はタイトル99期の生けるレジェンドで、藤井聡太竜王・名人といえども、まだ羽生九段のカリスマ性には及ばない。現在無冠ではあるが、50代時の大山康晴十五世名人に匹敵する存在感といえる。
対する近藤七段はB級1組所属で、「B級1組七段」が最も脂が乗っている時期ともいえる。1回戦では齊藤裕也四段に必敗の将棋を拾ったのが記憶に新しい。
この日の昼は、ネットニュースに「羽生九段、NHK杯で……」と出ており、仕事中の私は、その先を見ないようにした。最近は将棋の結果がニュースで知らされることもあるので、油断もスキもない。NHK杯の視聴前に結果を知ることは、犯人が分かっているのに探偵小説を読むのにも似て、これほど味消しなものはない。
将棋は近藤七段の先手で、横歩取りになった。羽生九段は先手を持っても後手を持っても横歩取りが強い。
羽生九段、角を換わってから同じ位置に角を打つ。そして3筋に歩を垂らしたのが軽手だった。これを▲同飛でも▲同銀でも後手が十分になるので近藤七段は桂を跳ねたが、羽生九段はゆうゆうと金を作って指しやすくなった。
以下羽生九段は自然な指し回しで優位を拡大する。羽生九段は現在4連敗中で、もしこの将棋に敗れると、収録日がどこであろうと5連敗になってしまうのだが、それは杞憂に思われた。
指し手はさらに進み、羽生九段は飛車で王手をし、近藤七段の桂合いに、1八の馬を3六に引いた。取られそうな馬を引きつつ詰めろだから自然な手だが、この瞬間、形勢バーが「近藤99:1羽生」になったので、私は「エエーッ!?」と叫んでしまった。「99:1」は、相手玉に即詰みがあることを意味する。
果たして近藤七段は角打ちから詰ましに行く。そのうち羽生九段も詰みに気づいたようで、あらぬ方角を見た。
以下、127手まで近藤七段の勝ち。1回戦に続いての逆転勝利である。
対局後、羽生九段は鈴木環那女流三段の問いかけに、「終盤は勝ちになったと思っていたんですが……」と、声を絞り出した。当然ながら自玉の詰み筋をうっかりしていたわけだが、不可解なのはその局面である。
図から角を打って桂打ちは、プロなら一目であろう。そしてその局面で先手の持駒は金銀桂。盤上にも金銀が何枚かおり、いかにも詰みそうな形だ。1986年2月3日・4日に指された第35期王将戦第3局指し直し局の長手順の詰みならいざ知らず、この局面で羽生九段が自玉の危機に無警戒だったのが信じられないのだ。
たとえば大山十五世名人は、どんなに優勢な局面でも、つねに盤面をくるくる見ていた。だから、即詰みを見落としたことがあっても、トン死を食らったことはないと思う。そこが羽生九段との差なのかもしれないが、羽生九段も来月には54歳。瞬発力も衰えてきているのかもしれない。
いずれにしても羽生九段、この負けはちょっと衝撃的だった。
羽生九段は、このまま普通の棋士になってしまうのか。今後の羽生九段の戦いに注目したい。