見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

遷都1300年祭大詰め(3):生駒宝山寺の獅子閣

2010-11-03 14:38:21 | 行ったもの(美術館・見仏)
 明治初期、宝山寺第14世の乗空和尚が、宮大工・吉村松太郎に建てさせた客殿。和尚は、聖天堂再建の際に大工として働いていた吉村松太郎の腕を見込み、横浜に留学させたのち、洋風客殿建築の棟梁に抜擢した。この経緯は、明治8年建立の聖天堂の棟札には松太郎の名前が「大工」と記されていること、次に建立された建物の棟札には名前がないこと(横浜留学中)などから分かるそうだ。現場で解説をしてくれたおじいちゃんのお話。「獅子閣の棟札はないんですか?」とお聞きしたら「天井裏にあるけど下ろしていない」そうだ。棟梁の松太郎さんは、その後、郷里の越後から家族を呼び寄せ、宝山寺で一生を終えられたという。

1階の洋間。柱に巻きつくように、踏み板が宙に浮くデザインの螺旋階段。


柱頭の飾り。


1階座敷の襖絵は能楽の演目図。絵師、土佐(藤原)光孚筆。国立能楽堂にも同人の絵が残っているそうだ。


2階座敷は総金箔張り。鈍い光を放って、落ち着いたゴージャス感あり。


襖絵は、明治の頃の絵師、高島掬香筆。


案内の方に「こんな家に住みたいですね」と声をかけたら「でもトイレはおまへんよ」と返された。別棟のトイレに行くため、渡り廊下を付設してあるが、その部分は「重文指定」を外されているそうだ。

生駒デジタルミュージアム:宝山寺獅子閣
2005~2010年にかけて行われた修復工事以前の写真。洋間にも座敷にも、さまざまな家具が置かれていたことが分かる。別サイトによれば、修復の総工費は約4億6000万円。案内の方は、文化庁とお寺が、6:4だか7:3だかの折半とおっしゃっていたと思う。「馬鹿になりまへんで」って、そうだろうなあ。でもこの特別公開(2010年10月15日~11月15日)、300円は良心的すぎる。内部の写真撮影も「黙認」だそうなので、どうか良識の範囲で。

宝山寺は、山麓の般若窟や聖天堂(八棟造りの屋根)など、ほかにも見どころがあって面白かった。
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遷都1300年祭大詰め(2):奈良大和路 秘仏・秘宝特別開帳

2010-11-03 12:17:46 | 行ったもの(美術館・見仏)
■宝山寺(奈良県生駒市):獅子閣特別開帳(2010年10月15日~11月15日)

 台風一過の日曜日。前日は雨を恐れてあきらめた郊外の「特別開帳」寺社めぐりへ。宮大工の吉村松太郎が設計した、明治初期の擬洋風建築、獅子閣が特別公開されている。内部公開(靴を脱いで、2階まであがれる)は初めてのことだそうだ。2階の座敷は、ほとんど使用したことがないそうで、総金箔張りのお座敷。写真は「いいですか?」とお尋ねしたら「黙認ですわ」と言っていただいたので、皆さん、どうか迷惑にならない程度に。※写真は別稿に掲載します。

霊山寺(奈良市中町):秋の秘仏宝物展(10月23日~11月14日)

 富雄駅に下りると雨が降り始めたので、慌てて百均ショップでビニール傘を買う。霊山寺は初訪問かなあ。温泉があったり、バラ庭園で売っていたり、リゾート観光寺院のイメージだったが、境内の奥に進むと、古色蒼然とした本堂が建つ(鎌倉建築、国宝)。須弥壇には、薬師三尊像の厨子を囲むように十二神将。手前にずんぐりした異形の十一面観音立像、工芸品のように精緻な四天王像など。左右の脇間に安置された大日、阿弥陀、内陣の仕切りの格子にかけられた懸仏など、重文ぞろいだったことを、いま、霊山寺のサイトで確認。三重塔は修復中で、外観はシートにすっぽり覆われていたが、内陣壁画はきちんと拝めた。美麗! 本尊・宝冠阿弥陀如来の背後に五大明王図って面白いなあ。背面は涅槃図。

■不空院(奈良市高畑町):不空羂索観音坐像特別開帳(10月16日~11月14日)

 近鉄奈良駅附近で昼食。予想外に強くなる雨の中、奈良町観光に向かう。不空院は、高畑の新薬師寺のそばで、何度か通ったことはあると思うが、ふだんは予約公開のため、拝観は初。不空羂索観音って、力強くワイルドな像が多いように思うのだが、こちらは頬や肩の曲線が印象的で、温雅な表情。異相をあらわす第三の眼もあまり目立たない。でも慈愛と同時に威厳も感じられる。

■珹寺(紀寺)(奈良市西紀寺町):阿弥陀如来立像など(10月1日~10月31日)

 濡れ縁をわたって、障子を引き開けると、薄暗い小さな本堂を圧するような、本尊・阿弥陀如来立像が目に入った。下半身に錦の袴を穿き、上半身は裸形(肩の細さが女性的)という変わったお姿で、思ったよりずっと大きい。これに対して、両脇侍の観音・勢至は、造形が精緻かつボリューム感があるので、もっと大きいかと思っていたら、意外と小さい。観世音菩薩立像は奈良末~平安初期の像だそうだ。足下に展覧会の図録らしきものが広げられていたので、確かめたら2006年、東博の『仏像』展の図録だった。勢至菩薩は数百年遅れて模刻されたものの由。

■十輪院(奈良市十輪院町):護摩堂の不動明王及二童子立像(10月10日~11月14日)

 日本ではめずらしい石仏龕を祀るお寺として認知していたが、護摩堂の不動明王は拝観したことがなかったので立ち寄る。火焔光(光背)が鳥の姿をしているのがよく分かる(迦楼羅焔)。「派遣ボランティアです」とおっしゃっていた若い女性の方に詳しい説明をいただいた。

 時間は16時過ぎ。そろそろ、奈良博(正倉院展)に向かってみることにする。以下、別稿。

奈良大和路 秘仏・秘宝特別御開帳 祈りの回廊(遷都1300年祭)
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遷都1300年祭大詰め:薬師寺、平城宮跡資料館、奈良県美

2010-11-02 23:16:14 | 行ったもの(美術館・見仏)
 週末は台風とすれ違うように、遷都1300年祭のフィナーレが近づく奈良へ。もちろん目的は正倉院展だが、その前に。

薬師寺(奈良市西ノ京町)

 まもなく解体修理が始まる東塔初層の特別開扉(2010年4月8日~10月31日)をようやく見に行った。中に入れるのかと思ったら、扉の内側に斜めに立てた大きな鏡があって、華麗な法相華文を留める天井を、井戸のように覗き込む形式。

 大宝蔵殿では特別公開『吉祥天女のすべて』(10月5日~12月12日)を開催中。薬師寺の吉祥天図像は、何度も見ても美しい。唐代の仕女図との類縁性も感じるが、やっぱり、この世ならぬ女人の美しさをあらわしていると思う。昭和32(1967)年に行われた修復に関する資料を同時公開。剥ぎ取られた旧表装裂は太い黄色い帯の内側に細い藍色の帯が使われており、現在の表装が、これと全く同一であることが確認できる。写真パネルでは、昭和30年頃の京都国立博物館内の修理所が、一見、フツーの木造二階家みたいであったこと(よく見ると窓がゴツイ)、修復を担当した七代目宇佐美直八氏の机には、粗末な裸電球のランプが載っていたこと(倒したらどうするんだ!)などが確認でき、興味深かった。貧しい中で守られてきたんだなあ、この国の文化財は。

平城宮跡資料館(奈良文化財研究所)

 平城宮跡歴史公園の西の隅にあり、大和西大寺駅から歩いて10分くらい。いつも気になりながら素通りしていたので、初訪問である。復原展示コーナーには、正倉院展でおなじみの屏風や絨毯(に似せた複製)が、リビング空間らしくセットされていた。こうしてみると、韓国のサランバンに雰囲気が似ていると思う。遺物展示コーナーには、木簡や瓦(の複製)を分かりやすく展示。地味な出土資料なのに、意外なほど楽しい。

 特別展示エリアでは、平城宮跡発掘調査50周年記念『天平びとの声をきく-地下の正倉院・平城宮木簡のすべて-』(2010年9月25日(土)~11月7日)が行われており、木簡約100点(×展示替え3回)が見られる。保存に神経を使う木簡の実物を、これだけ一度に見られる機会は、なかなかない。興奮! 平城宮跡で初めて木簡が見つかったのは、1961年。ちょうど私が生まれた頃の話だ。そうか、それ以前の古代史には、木簡資料って無かったのか…。1989年、長屋王邸跡から大量の木簡発見を伝えるマスコミの興奮は、私もよく覚えている。

 実物の木簡以外に、木簡庫を保存するバット(皿)が整然と並んだ木製の棚や、保存液を貯めておくポリバケツ、保存液のつくりかたを書いた貼り紙、研究員の机など、「へんなもの」が要所要所に展示されているのも面白かった。発掘されたばかりの木簡の「読みかた」の提案を呼びかけているのもよいアイディア(子どもだましのクイズでなく、かなり本格的!)。見学者に媚びるわけでもなく、衒学的にもならず、淡々として、しかも熱い。「ね、木簡の発掘調査って楽しいんだよ」という、控えめな誇りに満ちた語りかけが聞こえてくるようで、見終わったあと、こちらの気持ちも晴れやかになる展示だった。※しかも観覧無料。

奈良県立美術館 平城遷都1300年祭特別展『花鳥画-中国・韓国と日本-』(2010年9月28日~11月14日)

 夜間開館(金土は午後9時まで)を利用し、10月26日から始まった後期展示を見に行く。個人的な好みでは、後期のほうが中国絵画らしい(日本風味の薄い)作品が多くて楽しめた。印象に残ったのは、名古屋の万松寺に伝わった、王冕筆『墨梅図』と李衎筆『竹石図』(ともに元時代、現在は三の丸尚蔵館蔵)。写実的のようで構成的なのがいい。対幅なのに離れて展示されていたのが残念。次の機会には並べて見たい。明・呂敬甫筆『草虫図』は不思議さ全開の着色草木図。東博の所蔵で、2005年や2006年の平常展示にも出ていたらしい。「中国書画精華」みたいな名品展だけ狙って行っていると、明清の名品は見落とすんだな、と反省。若冲の『糸瓜群虫図』はやっぱりいい。先日、板倉聖哲先生が「若冲の作品は、必ずそれと分かります」と力説していたことを思い出した。

 このあと、同じく東京から出てきた友人と、会場で落ち合って、奈良町のおでんやで遅い夕食。
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