付け焼き刃の覚え書き

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「破戒法廷」 ギ・デ・カール

2010-04-29 | ミステリー・推理小説
「心の動きというものはね、きみ、それほど深い気持ちじゃないんだよ」
 だから君の気持ちなんてお見通しだし、自分の気持ちをそんなに真剣に考えるものじゃないと説く老弁護士ドリオの言葉。

 開店休業の老弁護士ヴィクトル・ドリオに、弁護士会長直々に事件が持ち込まれた。大西洋横断汽船内で発生したアメリカ人青年殺しである。そして、このような世間の注目が集まる事件の仕事が舞い込むということは、つまりあまりの難解さに着手した弁護士が次々に手を挙げてしまったのである。
 犯人として法廷に引き出されるのは目が見えず、耳が聞こえず、口もきけない大男ジャック・ヴォーティエ。現場からは彼の血まみれの指紋も押収され、しかも本人が弁護を望んでいないようなのだ。
 この、誰が弁護に臨んでも有罪必至という事件に、ドリオ弁護士は臨むのだが……。

 貧乏くじを引かされた老弁護士が、弁護士の卵である女学生ダニエル・ジュニーを助手に使って公判に臨む法廷劇。
 フランス法廷ミステリの代表作であり、風俗作家で知られた著者唯一のミステリだそうですが、読者に対してフェアな本格ミステリではありません。それならそれで女嫌いの古狸弁護士と弁護士の卵のひねくれた師弟関係とかを書き込んでくれても良かったのにと思わないでもありませんが、この話の中心は教育者であり信仰者でもある老ロドレックの姿を描写することにあるような気がします。
 人を育てること。それがこの2人の老人の共通項なのでした。

【破戒法廷】【ギ・デ・カール】【孤独な男】【美人の妻】【三重苦】
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