現実世界の主人公が物語の世界に入り込んでしまって冒険する……っていうのはファンタジーのパターンの1つで、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」(1979)、少女マンガだと渡瀬悠宇の「ふしぎ遊戯」(1992)、最近の児童文学だとメアリー・ポープ・オズボーンの「マジック・ツリーハウス」(1992)とか。
それが欧米におけるテーブルトークRPGの普及やコンピュータRPG、そしてMMORPGの出現によって、不特定多数の人間が架空世界を共有するタイプの物語が生まれてきましたが、つまるところ「往きて帰りし物語」の電脳バージョンにすぎません。新しそうに見えて、サイコスリラーや仮想戦記に振れたりしていても、実はファンタジー王道パターン。
そんな物語の系譜を少し拾ってみました。また「VR-(仮想現実体験型)MMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)」というのも長すぎるので「VRMMO」としておきますし、年は原書・ウェブ版の発表開始時期です。
1954
・『指輪物語』刊行開始。
1966
・ディックの短編『追憶売ります』発表。仮想体験で火星旅行の記憶を買った男の物語。
1973
・ライブRPG的な、西部劇や騎士の時代を体験できる遊園地でロボットの叛乱が起きる映画『ウエストワールド』公開。
1974
・世界初のテーブルトークRPG『ダンジョン&ドラゴンズ』発売。
1976
・アップルコンピュータ設立。
1977
・トリップムービーで望み通りの夢を見ようとしたことから事件が始まる、寺沢武一の『コブラ』開幕。
・テレビドラマ『ファンタジーアイランド』放送開始。プレイヤーの希望に沿った物語を用意し体験させる不思議な島の冒険。
1980
・コンピュータRPG『ウルティマ』発表。
1981
・コンピュータRPG『ウィザードリィ』発売。
・ライブRPGの運営が目的の巨大テーマパークを舞台にした『ドリームパーク』刊行。
1982
・映画『トロン』公開。物質転送機によってネットワークの世界に入り込む物語。プログラムの擬人化が特色。
1983
・テーブルトークRPGの世界にプレイヤーが転移して帰還困難になる『眠れる龍』刊行。
1984
・電脳都市チバを舞台に電脳空間でのハッカーの冒険を描いた、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』刊行。サイバーパンクの原点。
1987
・『スタートレックTNG』にて仮想現実を体験するレクリエーション施設ホロデッキが登場。しばしば暴走。
1989
・VRアドベンチャーゲームをテーマにしたSFミステリー『クラインの壷』刊行。
・電脳内部の仮想現実空間をメジャーにしたコミック『攻殻機動隊』の発表開始。
・仮想現実空間ではないにもかかわらず、キャラクターの経験値が冒険者カードによってレベル管理される深沢美潮の『フォーチュン・クエスト』。
1990
・『追憶売ります』を映画化した『トータル・リコール』公開。記憶を売る娯楽ビジネスから始まる物語。話全体が現実か夢か不明。
1992
・サイバーワールドで冒険するアメコミ『ハーシュ・レルム』(フドナール&パケット)刊行。
1993
・NHKアニメ『恐竜惑星』放送。VR技術を応用して恐竜世界での冒険を繰り広げるが、そこは仮想現実ではなく別次元の世界だった。
1994
・256人同時プレイのVRMMOの世界から帰還不可能となる『クリス・クロス』刊行。
・NHKアニメ『ジーンダイバー』放送。VR技術を応用して恐竜絶滅の謎を解き明かしたり、人類の進化の歴史を守ったり。
1997
・NHKアニメ『救命戦士ナノセイバー』放送。VR技術とナノテクを応用してミクロ世界で患者の治療に挑む。
1999
・PSゲーム『デジモンワールド』発売。
・映画『マトリックス』公開。仮想現実空間を支配する人工知能と戦う。
・『ハーシュ・レルム』がテレビドラマ化。米軍が構築した仮想現実空間を支配する男を殺すために送り込まれた兵士の物語になり、仮想現実世界の死はリアルでも死に。
2001
・映画『アヴァロン』公開。VRMMOの世界での戦争を語る押井守版『ウィザードリィ』。
2002
・バンダイナムコがVRMMOの世界を舞台にした『.hack』をメジャーミックスで展開。
・VRMMOの世界から帰還不可能となる『ソードアート・オンライン』発表開始。
2005
・夢の中でVRMMOのような世界に転移しては冒険する『シフト~世界はクリアを待っている』刊行。ゲーム内で死ぬと二度とゲームに復帰できない。
2006
・TVアニメ『ゼーガペイン』放送。人類が仮想空間でしか生きられなくなっている世界での戦い。
2007
・現実世界にそのままVRMMOの世界が重ねて表示されるNHKアニメ『電脳コイル』放送。
2008
・教育カリキュラムの一貫としてVRMMOの世界で戦争体験することになる『女子高生=山本五十六』刊行。
2009
・自在にVRMMOの世界に転移しては勢力争いを繰り広げる『アクセル・ワールド』刊行。ゲーム内で死ぬと二度とゲームに復帰できない。
・アニメ映画『サマーウォーズ』公開。
2010
・MMOそのままの世界へ転移して帰還不可能となる「ログ・ホライズン」発表。
2011
・VRMMOの世界から帰還不可能となる「アルカナ・オンライン」刊行。
2012
・VRMMOの世界から帰還不可能となる「スカイ・ワールド」刊行。
多くはないけれどバーチャルリアリティ(仮想現実)空間を舞台にした作品は定期的に存在しています。でも、物語世界に入り込む話と定義すると一気に増えますが、仮想現実空間から戻れなくなり、その世界での死は現実での死……とまで限定すると数本になります。
その全体的な特徴というかよく使われるテーマとしては、まず何が現実で何が仮想か虚実がひっくり返るかもしれない「胡蝶の夢」の思想。「クリス・クロス」も「クラインの壺」もタイトルの意味としては「胡蝶の夢」と同じです。どちらが現実かあやふやとなるのが1つのテーマです。
その延長でゲーム内での死が現実世界での死または意識不明となって現れたりします。
次に、仮想現実と言うことで、現実世界では四肢が不自由だったり精神的に追い詰められているプレイヤーが仮想空間で自由な肉体と精神を手に入れたとき、虚実どちらの世界を選ぶのかという命題。『ドリーム・パーク』でもゲームは精神療法の一環として活用されていました。
そして、架空世界に存在しているモンスターや怪物は生きているのかいないのかということ。もしプレイヤーのキャラクターがその仮想現実空間で本当に生きていると感じられるのだとしたら、自分たち以外の怪物やNPCだって生きていると考えちゃいけないのか、考えないといけないのではないか、自分たちの都合の良いように動かせると考えてはいけないのではないかというテーマです。
面白い話は、このあたりはきちんと押さえてますね。
リスト化しながら、なにか忘れているような?と懸命に思い出し確認しては「ゲームのプレイ内容をさも現実であるかのように描写しているだけで、仮想現実空間の話じゃないや」とかまとめてます。
漏れがあればご指摘よろしくお願いします。
それが欧米におけるテーブルトークRPGの普及やコンピュータRPG、そしてMMORPGの出現によって、不特定多数の人間が架空世界を共有するタイプの物語が生まれてきましたが、つまるところ「往きて帰りし物語」の電脳バージョンにすぎません。新しそうに見えて、サイコスリラーや仮想戦記に振れたりしていても、実はファンタジー王道パターン。
そんな物語の系譜を少し拾ってみました。また「VR-(仮想現実体験型)MMORPG(多人数同時参加型オンラインRPG)」というのも長すぎるので「VRMMO」としておきますし、年は原書・ウェブ版の発表開始時期です。
1954
・『指輪物語』刊行開始。
1966
・ディックの短編『追憶売ります』発表。仮想体験で火星旅行の記憶を買った男の物語。
1973
・ライブRPG的な、西部劇や騎士の時代を体験できる遊園地でロボットの叛乱が起きる映画『ウエストワールド』公開。
1974
・世界初のテーブルトークRPG『ダンジョン&ドラゴンズ』発売。
1976
・アップルコンピュータ設立。
1977
・トリップムービーで望み通りの夢を見ようとしたことから事件が始まる、寺沢武一の『コブラ』開幕。
・テレビドラマ『ファンタジーアイランド』放送開始。プレイヤーの希望に沿った物語を用意し体験させる不思議な島の冒険。
1980
・コンピュータRPG『ウルティマ』発表。
1981
・コンピュータRPG『ウィザードリィ』発売。
・ライブRPGの運営が目的の巨大テーマパークを舞台にした『ドリームパーク』刊行。
1982
・映画『トロン』公開。物質転送機によってネットワークの世界に入り込む物語。プログラムの擬人化が特色。
1983
・テーブルトークRPGの世界にプレイヤーが転移して帰還困難になる『眠れる龍』刊行。
1984
・電脳都市チバを舞台に電脳空間でのハッカーの冒険を描いた、ウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』刊行。サイバーパンクの原点。
1987
・『スタートレックTNG』にて仮想現実を体験するレクリエーション施設ホロデッキが登場。しばしば暴走。
1989
・VRアドベンチャーゲームをテーマにしたSFミステリー『クラインの壷』刊行。
・電脳内部の仮想現実空間をメジャーにしたコミック『攻殻機動隊』の発表開始。
・仮想現実空間ではないにもかかわらず、キャラクターの経験値が冒険者カードによってレベル管理される深沢美潮の『フォーチュン・クエスト』。
1990
・『追憶売ります』を映画化した『トータル・リコール』公開。記憶を売る娯楽ビジネスから始まる物語。話全体が現実か夢か不明。
1992
・サイバーワールドで冒険するアメコミ『ハーシュ・レルム』(フドナール&パケット)刊行。
1993
・NHKアニメ『恐竜惑星』放送。VR技術を応用して恐竜世界での冒険を繰り広げるが、そこは仮想現実ではなく別次元の世界だった。
1994
・256人同時プレイのVRMMOの世界から帰還不可能となる『クリス・クロス』刊行。
・NHKアニメ『ジーンダイバー』放送。VR技術を応用して恐竜絶滅の謎を解き明かしたり、人類の進化の歴史を守ったり。
1997
・NHKアニメ『救命戦士ナノセイバー』放送。VR技術とナノテクを応用してミクロ世界で患者の治療に挑む。
1999
・PSゲーム『デジモンワールド』発売。
・映画『マトリックス』公開。仮想現実空間を支配する人工知能と戦う。
・『ハーシュ・レルム』がテレビドラマ化。米軍が構築した仮想現実空間を支配する男を殺すために送り込まれた兵士の物語になり、仮想現実世界の死はリアルでも死に。
2001
・映画『アヴァロン』公開。VRMMOの世界での戦争を語る押井守版『ウィザードリィ』。
2002
・バンダイナムコがVRMMOの世界を舞台にした『.hack』をメジャーミックスで展開。
・VRMMOの世界から帰還不可能となる『ソードアート・オンライン』発表開始。
2005
・夢の中でVRMMOのような世界に転移しては冒険する『シフト~世界はクリアを待っている』刊行。ゲーム内で死ぬと二度とゲームに復帰できない。
2006
・TVアニメ『ゼーガペイン』放送。人類が仮想空間でしか生きられなくなっている世界での戦い。
2007
・現実世界にそのままVRMMOの世界が重ねて表示されるNHKアニメ『電脳コイル』放送。
2008
・教育カリキュラムの一貫としてVRMMOの世界で戦争体験することになる『女子高生=山本五十六』刊行。
2009
・自在にVRMMOの世界に転移しては勢力争いを繰り広げる『アクセル・ワールド』刊行。ゲーム内で死ぬと二度とゲームに復帰できない。
・アニメ映画『サマーウォーズ』公開。
2010
・MMOそのままの世界へ転移して帰還不可能となる「ログ・ホライズン」発表。
2011
・VRMMOの世界から帰還不可能となる「アルカナ・オンライン」刊行。
2012
・VRMMOの世界から帰還不可能となる「スカイ・ワールド」刊行。
多くはないけれどバーチャルリアリティ(仮想現実)空間を舞台にした作品は定期的に存在しています。でも、物語世界に入り込む話と定義すると一気に増えますが、仮想現実空間から戻れなくなり、その世界での死は現実での死……とまで限定すると数本になります。
その全体的な特徴というかよく使われるテーマとしては、まず何が現実で何が仮想か虚実がひっくり返るかもしれない「胡蝶の夢」の思想。「クリス・クロス」も「クラインの壺」もタイトルの意味としては「胡蝶の夢」と同じです。どちらが現実かあやふやとなるのが1つのテーマです。
その延長でゲーム内での死が現実世界での死または意識不明となって現れたりします。
次に、仮想現実と言うことで、現実世界では四肢が不自由だったり精神的に追い詰められているプレイヤーが仮想空間で自由な肉体と精神を手に入れたとき、虚実どちらの世界を選ぶのかという命題。『ドリーム・パーク』でもゲームは精神療法の一環として活用されていました。
そして、架空世界に存在しているモンスターや怪物は生きているのかいないのかということ。もしプレイヤーのキャラクターがその仮想現実空間で本当に生きていると感じられるのだとしたら、自分たち以外の怪物やNPCだって生きていると考えちゃいけないのか、考えないといけないのではないか、自分たちの都合の良いように動かせると考えてはいけないのではないかというテーマです。
面白い話は、このあたりはきちんと押さえてますね。
リスト化しながら、なにか忘れているような?と懸命に思い出し確認しては「ゲームのプレイ内容をさも現実であるかのように描写しているだけで、仮想現実空間の話じゃないや」とかまとめてます。
漏れがあればご指摘よろしくお願いします。