
アドルフ・ヒトラーは雨上がりの空き地で目を覚ました。
ベルリンのはずだが瓦礫の山も軍服の人影もなく、ただ綺麗な町並みと色とりどりの車が走っている光景が広がっているだけだ。
そして通りすがりの男が彼に言うのだ。「おたくはアドルフ・ヒトラーに見えるよ」と。
それは2011年8月30日のことだった……。
失敗続きの主人公がとうとう死んでしまったのだけれど、なんの不思議か、別の世界……正確にはおよそ70年後のベルリンで復活。着の身着のままで頼るものなど何もない状況で、ジェネレーション・ギャップによる勘違いも多々あるけれど、徒手空拳から持ち前の知恵と機転と弁舌で少しずつ仲間を増やして勢力を拡大していく…………という、よく考えてみたら最近やたらに多いライトノベルの異世界転生ものと基本フォーマットは同じでした。
でも、基本的には風刺小説で、生真面目で、論理的で、知的な人間がもう一度チャンスを与えられたらどうするか、根本は善意のはずなのにそれがどう変わっていくかというのがテーマ。今の日本だったらオタク趣味に染まる方向の話になるかもしれませんが、さすがにそこまで茶化してはいけない相手なので、トルコ問題がとか、緑の党がとか、ネオナチがどうのとか、現代ドイツの政治経済に馴染んでいないと今ひとつピンとこない方向に話が流れていきます。むしろ短編にした方がぴりっとしたんじゃないかな。
そして、総統の戦いはまだまだ続く。ヒトラー総統の新たな戦いにご期待ください!……という感じ。
【帰ってきたヒトラー】【ティムール・ヴェルメシュ】【河出書房新社】【ドイツ式敬礼】【キオスク】