付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「信長の庶子(一)」 壬生一郎

2019-04-29 | 戦国転生・歴史改変
「喜びなさい帯刀。私達優しい姉が、可愛い甥っ子の為に竹簡を用意して差し上げたわ」
「見なさい帯刀。あれなるは四百字詰め竹簡三千束。合計で百二十万字分よ」

 市と犬は帯刀に薄い本の原稿を書けと迫った。つまらない物語なんて読みたくないと。

 時は戦国。織田信長の長子帯刀は家督を継ぐ資格のない庶子ながら、時には藤吉郎に知恵を授け、時には仮名文字を定めて文書の統一性を確保してと、その聡明さで今子建の異名で讃えられていた。それはお家騒動の火種と成りかねない有能さではあったが、彼の時代を先取りするかの知恵はすべて母から教えられたこと。母直子は貧しい家の出自ながら、いつの間にか文字を覚え、書を集めては読みふけり、摩訶不思議な知識と言動から「狐」と呼ばれていた。
 直子はその知識は唐だか南蛮だかの書物を訳し書き写したものから得たのだと言い張るが、その書物は既に無いといい、書名も不明で、帯刀には実在すら疑わしい話であった……。

 織田家の家督などどうでもいい。自分がやりたいことを自分がやりたい通りにやっていたい。父親や腹違いの弟が領主という立場が最も気軽かつ自分勝手に動けるのだという主人公の戦国絵巻。
 戦国転生ものがそれなりの数がある「小説家になろう」の中でも、きちんと完結した面白い話で、構成も個性的。それが宙出版という、女性向けコミック専門の出版社から歴史IFメインのレーベルが創刊1作目で刊行ということで不安もあったのだけれど、完成品を見てみれば歴史小説として完璧な仕上がり。きちんと考証家をつけ、複雑な関係の登場人物たちには関係図を載せ、必要に応じて地図を表記し、巻末には正史と小説の展開を対比させた年表があり、この手の本に必要なものがきちんと揃っています。お手本のような造りです。
 ただ、気になったのは、この物語はある種のミスリーディングで話をひっくり返すのが山場の1つであったのだけれど、書籍化でちょっと前倒ししすぎ。ウェブ版なら、もはや終盤も終盤の「実は……」を頭に持ってきてどうする?

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