付け焼き刃の覚え書き

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「おでん屋春子婆さんの偏屈異世界珍道中1」 紺染幸

2022-10-28 | 異世界結合・ゲート・ゾーン
「どうせいずれは自分なんていなくなるんだ。消えればみんなが忘れるよ。骨以外をこの世にして残せる腕があるなら、残した方がいいだろうにもったいねえなあ」
 最高傑作を世に送り出してしまったばかりに、それから作るものはそれより劣ったものばかり。そんな刀鍛冶ゴットホルトに婆さんは言い放った。

 屋台を曳いておでんを売っている春子婆さんは、金が好きで、偏屈で、愛想が悪い。そんな婆さんがなんか御利益の1つもあれば儲けものだとお稲荷さんにがんもどきをお供えして、ぱんぱんと柏手を打って閉じていた目を開けば、そこは異世界だった……。

 お稲荷さんの都合で異世界出張販売させられる婆さんの、いつもと同じ無愛想な接客の顛末。相手がくたびれたサラリーマンだろうとダンジョンで遭難しかけている冒険者や国の行く末を案じて激論を交わしている大貴族相手でも、婆さんの応対は変わらないのだ。
 軽い感じで読める連作短編的な構成の物語。日本の料理屋が異世界とつながってるというと『異世界居酒屋「のぶ」』とか『異世界食堂』とかが先行作品になりますが、それらに比べるとお店の出番は短め。デザイナーの仕事場だったり、地獄の門前であったり、部屋の中だろうと外だろうと忽然と屋台が現れ、おでんを食わせ酒を呑ませて消えてしまうだけなのに、それがきっかけで少しずつ人の生き方、国の在り方が変わっていく、そちらの描写の方が主眼。婆さん無愛想だから、自分から話しかけないし、話を振られても無愛想だし。でも、それで助かる命があるんですよ。
 この話は現代日本と異世界を行き来しながら営業する話だけれど、代金はお稲荷さんが現金払いしているので、他の作品みたいにあまり経営とか納税とかの心配をしなくて良いのです。

【おでん屋春子婆さんの偏屈異世界珍道中1】【紺染幸】【あまな】【ブレイブ文庫/一二三書房】【ぽかぽかおでん群像劇】
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