東京のご仁とその友人と一緒に出かけた。友人はなんで人の墓を見なければならないのかと苦痛に感じたかも知れぬ。炎天下を無理やり歩かされているのだから。我々はというと滴り落ちる汗をもいとわずに嬉々としてずんずんと古墳群を見て周っている。友人ははた迷惑であったろう。しかしながら生まれて初めて見る古墳に多少なりとも興味を持った様でもある。澄み渡る青空が拡がり、太陽の光が燦燦と降り注ぎ、目に沁みるほどの緑の上を歩いている。ただそれだけでも居心地が良い。暑いことを除けば。ここ岩原古墳群には中心となる前方後円墳(双子塚古墳)があり、培塚のようにして7,8基の円墳がある。双子塚の墳頂より全てが見渡せる。古代の墓ではあるが、まるで公園だ。神聖な場所であったろうに、今我々は神聖な場所を汗を滴り落としながら犯しているのである。友人からしてみれば罰当たりな連中だと思っているかもしれん。
江田船山古墳脇にある古墳である。前方後円墳であるが前方部が崩れて変形している。円墳に楠が墓標のように凛とした姿で立っている。青空に突き刺さるかのようであり、青空をその生い茂る枝葉で掻き分けようかという勢いである。これは絵になる。
銀象嵌の入った太刀が発見されたことで有名。前方後円墳であり、周溝がある。しかし本来の形はとどめていない。しかし、これがいいのである。げっそりと痩せ果てたと言ったほうがいいほどの古墳である。それが何か涼しさを与えてくれる。周りにも古墳があるが、すっかりと整備されておる。それはそれでよい。
(写真:江田船山古墳)
例の東京のご仁が帰省した。彼の友人と一緒に。そこで例によってどこか行きたいということになり、行ったことがなく、友人に九州の良さを垣間見せたいということなのであるが、このご仁にはコンセプトがなく結局私の意見を取り入れることに相成った。夏目漱石由来の温泉地である那古井である。その当時は十軒ばかりの湯宿があったそうだが、今は一軒しかなくしかも漱石にはなんらの関係もない。本来ならば、山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ。などといいながら車を走らせなければならなかったのだが、外は36度以上の暑さである。車の冷房も効かない。温泉に浸かりに行っただけのような感がする。
本来なら彼の友人を歓待するべきのところ、結局の所我々の趣味に走ったのである。そう古墳巡りをしたわけだ。岩原古墳群、あの江田船山古墳である。共に整備されており気持ちよく見ることが出きる。ただし汗が滴り落ちる。友人は何の興味もないので「いったいなにをしにきたんだ」と言う気持ちであったろう。彼の歓迎であったろうに我々の趣味を押し付けにつれてきたようなものだ。東京のご仁は喜んでいる。本日は街道ではなかったけれど一度行ってみてもらいたい。
(写真:江田船山古墳)