17期の永井ゆうくんです。
今回は、といいますか、今回も経営戦略論に関する書籍のご紹介です。
ご存知の方も多いと思います。
経営戦略本としては異例のベストセラーとなった「ストーリーとしての競争戦略(楠木建.2010)」です。
本書の要諦は、以下のとおりです。
・流れと動きを持った「ストーリー」として戦略を捉え、競争戦略と競争優位の本質を考える
・個別の違いをバラバラと出すのではなく、要素間の因果関係と相互作用をはっきりさせ、全体としてのダイナミックな事業の動きを語る。簡単にいうと、「違いをつくって、つなげる」
・これは、”アクションリスト、法則、テンプレート、ベストプラクティス、シミュレーション、ゲーム理論”ではない。"ビジネスモデル、システム、アーキテクチャ"と多くを共有するもの
・持続的な競争優位は、特定のポジション・能力の違いでは確立しにくい。戦略ストーリーはそこに至る、切り札たるもの
こういった主張の前提として、本書では、競争戦略の基本論理の本質部分をおさらいしています。
競争戦略の目的・ゴールを迷わないこと
企業は多くのステークホルダー(取引先、従業員、債権者、社会・地域など)に囲まれ、様々な貢献を要請されます。
本書では、成長、シェア、利益、顧客満足、従業員満足、社会貢献、時価総額を挙げたうえで、ゴールを明確化しています。
それは利益です。より詳細にいえば、長期的に持続可能な利益の最大化といえます。
逆説的ですが、利益をしっかり生み出している企業において、他のことは大抵なんとかなる、もしくは利益追求の過程でなんとかなっている。
だから、利益は必要不可欠という論理です。
長期利益最大化の観点は、前回ご紹介した「経営戦略を問いなおす(三品和広.2006)」における主張と同様です。
ただ、こちらの論理は、経済学に由来する市場取引前後の幸福度の増大によるものでした。
利益の源泉を、①業界構造と②競争戦略論から整理すること
利益はどこから、どのように生まれるか。
これは、①ポーターの競争戦略論を源泉にした業界の競争構造と、②戦略による競争優位の構築(違いをつくる)、という二つの観点があります。
①は、そもそも利益を出しやすい業界と出しにくい業界というもの。分析の枠組みとして有名なのは、「ファイブ・フォース(注1)」ですね。
②は、競争戦略の本質を「他社との違いをつくること」と定義したうえで、
a.「種類の違い」=「他社と違ったことをする」=要諦:"何をやって、何をやらないか"という活動の選択
b.「程度の違い」=「他社と違ったものを持つ」=要諦:他社が簡単にまねできない、独自の強みを持つ
に着目するものです。
感心したのは、他社が簡単にまねできない経営資源を、「組織に定着しているルーティン」と結論付けている点です。
因果関係の曖昧さや、長期間かけ紆余曲折を経て形成されるものであること、時間の経過に伴う進化。これらに、この論理を求めています。
また、a:無競争の戦略、b.殴り合いの戦略といったイメージをもつと、理解が進むかもしれません。
[注記]
1
ファイブフォースの骨格を理解していると、業界構造分析のみならず、ビジネス上のあらゆる意思決定に生かせるものです。
例をひとつ挙げると、買い手の交渉力のうち、"買い手の購入量が売り手の販売量に占める割合が大きい"という要因に対し、どのようなリスクが考えられるでしょうか?それは、利益率の減少圧力の高まり、つまり、買い手の価格交渉力が高いということです。
例えば、大口顧客からの受注拡大の打診に対して、「大きなビジネスチャンスだ!ぜひ進めよう」、「大口顧客が獲得できれば販管費をかける必要がなくなり、利益率が上がるぞ!」と明るい面のみに目を向けるのではなく、「依存度上昇により、将来的な値引き圧力がリスクとして想定されるな…」という発想をもてるかどうかが重要です。
このように、ファイブフォースの考え方が、ビジネス上の意思決定でも大いに役立つところです。
(参考本:「経営戦略の思考法(沼上幹.2009)」)