「読売新聞の前川喜平・前文部科学事務次官の「出会い系バー」を巡る報道は、政権とメディアが保つべき一線を越えた、大きな問題を持つものでした。加計(かけ)学園問題で、前川氏が安倍政権を正面から批判し始めるタイミングで読売に記事が出た。読売の社会部長は紙面で「公共の関心事」と説明しましたが、説得力があったとはとても思えません。」大石裕さん(慶応大教授)
「ショックを受けたのは、米国の公共放送のベテラン記者から、日本のメディアは政党色がついていると指摘されたことでした。事実がどうあれ、少なくとも外からそう見られているのです。
こうした状況を招いているのは、日本では少しでも早く情報をつかんで競争相手を出し抜くことが重視されすぎているためだと思います。権力側は情報を一部のメディアにリークすることで報道をコントロールしやすくなります。」立岩陽一郎さん(元NHK記者)
自分も、六紙(朝日新聞、毎日新聞、東京新聞、日経新聞、読売新聞、産経新聞)を比較して読むことがありますが、大石氏、立岩氏が言っておられることと同様なことを感じることがあります。
では、新聞社はどうあるべきか。
詩森ろばさん(劇作家)が、問題提起をしています。
cf:池上彰氏分析:政権と新聞社の距離 http://digital.asahi.com/articles/DA3S13011377.html
*****朝日新聞20170713 耕論 抜粋*****
http://digital.asahi.com/articles/DA3S13033426.html
不偏不党に疑問を持つ新聞記者にこんなセリフを言わせました。「報道とは、三つも四つもある道を指し示し、こんなにたくさんありますよ、と訳知り顔に言うことなのか。己の手さえも見えぬ霧の中、正しき道はこちらではないかと、恐れのうちに一本の道標で指し示すことなのか」「新聞は、また間違うかもしれないと恐怖に耐えて、また一本の道を指し示さなくてはならんのではないでしょうか」
詩森ろばさん(劇作家)しもりろば 63年生まれ。劇団「風琴工房」主宰。アイスホッケーが題材の「ペナルティキリング」を14日から上演。
大石裕さん(慶応大教授)おおいしゆたか 56年生まれ。ジャーナリズム論。著書に「批判する/批判されるジャーナリズム」など。
立岩陽一郎さん(元NHK記者)たていわよういちろう 67年生まれ。テヘラン支局、社会部などを経て昨年NHKを退職。調査報道NPO「アイアジア」編集長。
共謀罪施行されてしまった以上は、拡大解釈された治安維持法と同じ過ちを繰り返させないように、メディアや専門家をはじめ国民が監視を怠らないことが肝要です。
治安維持法に詳しい専門家、荻野富士夫さんの論説は参考になります。
************朝日新聞20170713***********************
(問う「共謀罪」 施行に思う)治安維持法も野放図に拡大解釈 荻野富士夫さん
2017年7月13日05時00分
「治安維持法が猛威を振るった戦前戦中と今は断絶している」。それは楽観です。
◇
安倍晋三首相は街頭演説で、自身をヤジる群衆を指さして「こんな人たち」と激高しました。法を運用する立場の人がこんな発想なのです。捜査当局の「政府に抗議するやからは一般人でない」という発想につながるのではないでしょうか。
「共謀罪」と治安維持法を並べると「当時と違う」と反論されます。果たしてそうか。漠然とした法文が、拡大解釈の源泉となる。そんな運用上の危険性は、共通していると思います。
「希代の悪法」と記憶される治安維持法も実は国内では成立後2年は抑制的な運用でした。
1925年の成立時は、「国体」(天皇を中心とした国のあり方)変革や私有財産制の否認が目的の結社を禁じました。若槻礼次郎内相は「国体変革の目的がはっきりした共産党員を処罰する」と、対象が限定されていることを強調していました。
転機は28年。「3・15事件」で共産党員が一斉検挙され「大陰謀事件」と報道されると、法改正で「目的遂行罪」が加わりました。ある行為が「結果的に国体変革に資する」と判断されれば取り締まり対象に。若槻内相の言う「主体の限定」は、かなぐり捨てられた。
当局の無理な取り締まりを裁判所が追認して判例で根拠づけるループ。拡大解釈は30年代後半に野放図に広がりました。
そして41年の改正。国体変革結社を「支援する結社」、それを「準備する結社」など、当初の限定の外側に何重も処罰の層が広がった。7条の条文は、65条にふくれあがりました。
治安維持法の成立時は市民や新聞も反対していたんです。ところが、改正の際には反対運動は広がらず、41年に治安維持法は「完成」してしまう。
同じことは「共謀罪」でも言えないか。人々から反対運動の記憶が薄れたころに「事件」が起きてセンセーショナルに報道される。人々の衝撃を利用し、広範な取り締まりが可能な法改正がされる可能性はある。
これからが大事。市民は萎縮してはいけないし、メディアは検証を忘れてはいけません。(聞き手・後藤遼太)
*
おぎの・ふじお 小樽商科大教授を経て2016年から同大特任教授(歴史学)。専門は日本近現代史。著書に「特高警察」など、治安維持法の研究で知られる。
治安維持法に詳しい専門家、荻野富士夫さんの論説は参考になります。
************朝日新聞20170713***********************
(問う「共謀罪」 施行に思う)治安維持法も野放図に拡大解釈 荻野富士夫さん
2017年7月13日05時00分
「治安維持法が猛威を振るった戦前戦中と今は断絶している」。それは楽観です。
◇
安倍晋三首相は街頭演説で、自身をヤジる群衆を指さして「こんな人たち」と激高しました。法を運用する立場の人がこんな発想なのです。捜査当局の「政府に抗議するやからは一般人でない」という発想につながるのではないでしょうか。
「共謀罪」と治安維持法を並べると「当時と違う」と反論されます。果たしてそうか。漠然とした法文が、拡大解釈の源泉となる。そんな運用上の危険性は、共通していると思います。
「希代の悪法」と記憶される治安維持法も実は国内では成立後2年は抑制的な運用でした。
1925年の成立時は、「国体」(天皇を中心とした国のあり方)変革や私有財産制の否認が目的の結社を禁じました。若槻礼次郎内相は「国体変革の目的がはっきりした共産党員を処罰する」と、対象が限定されていることを強調していました。
転機は28年。「3・15事件」で共産党員が一斉検挙され「大陰謀事件」と報道されると、法改正で「目的遂行罪」が加わりました。ある行為が「結果的に国体変革に資する」と判断されれば取り締まり対象に。若槻内相の言う「主体の限定」は、かなぐり捨てられた。
当局の無理な取り締まりを裁判所が追認して判例で根拠づけるループ。拡大解釈は30年代後半に野放図に広がりました。
そして41年の改正。国体変革結社を「支援する結社」、それを「準備する結社」など、当初の限定の外側に何重も処罰の層が広がった。7条の条文は、65条にふくれあがりました。
治安維持法の成立時は市民や新聞も反対していたんです。ところが、改正の際には反対運動は広がらず、41年に治安維持法は「完成」してしまう。
同じことは「共謀罪」でも言えないか。人々から反対運動の記憶が薄れたころに「事件」が起きてセンセーショナルに報道される。人々の衝撃を利用し、広範な取り締まりが可能な法改正がされる可能性はある。
これからが大事。市民は萎縮してはいけないし、メディアは検証を忘れてはいけません。(聞き手・後藤遼太)
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おぎの・ふじお 小樽商科大教授を経て2016年から同大特任教授(歴史学)。専門は日本近現代史。著書に「特高警察」など、治安維持法の研究で知られる。