契約という法律行為がなされたとして、契約が有効に成立をするためには、契約の申込をする側、承諾をする側どちら側の当事者であれ、意思表示がきちんとなされる必要があります。
意思表示がきちんとされない場合、契約は、無効や取消されるべきものとなり、有効に成立しなくなります。
意思表示がきちんとされない場合は、どのような場合か、民法では、「第一編総則 第五章法律行為 第二節 意思表示」において、93条から96条に5つの場合を想定しています。
心裡留保(93条)、虚偽表示(94条)、錯誤(95条)、詐欺(96条)、強迫(96条)の5つです。
本日、民法講義で軽く説明がなされたところですが、聴講して感じたことを書きます。
これら5つの場合、どれも問題でありますが、生じさせないようにするときにどれに一番力を入れるべきでしょうか、どれを選びますでしょうか。
それぞれどのような場合かみてみますと、
1)心裡留保:意思表示するひとが、自分には真意のないことを知りながら意思表示をすること。(法律用語の定義:意思表示の表示者が、表示行為に対応する真意のないことを知りながらする単独の意思表示。)
例:Aは自慢のパソコンを、貧乏学生のBにはまさか買えまいと思って、売る気もないのに10万円なら売ってやってもいいよと言ったところ、Bは買おうと応え、どこからか10万円集めてきた。
→Aは普段からBをからかって売る気もないものを売ってやろうと言うのが癖で、今回もそうで有ることを知っていたような場合以外は、この契約は有効に成立します。
2)虚偽表示:相手方と通じて真意ではない意思表示を行うこと。心裡留保はひとりでやることですが、虚偽表示は、契約の相手方といっしょにするところが異なります。自分の財産に対する強制執行から免れるために虚偽の売買契約をし、財産を隠す場面が想定されます。(法律用語の定義:相手方と通じて真意でない意思表示を行うこと。)
例:Aは、Kから、1000万円かりていたが、折からの不況のため、返済のめどが立たなくなった。Aは、このままでは自分の保有する土地甲がKに差し押さえられてしまうと考え、知り合いの不動産業者Bに相談した。Bは、「とりあえず形だけでもAが甲土地をBに売ったことにしておけば、Kからの差し押さえを免れられる。ほとぼりがさめたら、また元に戻せばよい。」というので、Aはこれに従い、甲土地をBに売却する旨の契約をし、甲土地をBに引き渡し、登記もBに移転した。(その後、AがBに甲土地を返してくれるよう求めたところ、すでにBは甲土地を自分のものとして、Cに売却し、甲土地をCに引き渡してしまっていた。)
→AB間の契約は、無効。(ただし、Cとの関係では、AB間の売買契約は有効になされたものとあつかわれCは、甲土地を有効に取得できる。)
3)錯誤:誤認識・誤判断が原因で、思ったことと違う契約をすること。(法律用語の定義:表意者の誤認識・誤判断が原因で、表示から推断される意思と真意との食い違いが生じること。「意思の不存在(欠缺けんけつ)」とも言われる。表示行為から推断される意思(表示上の効果意思)と表意者の真意の無意識的不合致。ちなみに、心裡留保、虚偽表示では、意識的不合致である。)
例:Aは、BからK画伯の署名のあるオリジナル版画甲を200万円で購入した。ところが、後で調べてみると、甲は偽物であることが判明した。
→AB間の契約は、無効。
4)詐欺:だまされて、錯誤に陥って契約をすること。(法律用語の定義:人を欺罔して錯誤に陥らせる行為。)
例:Bは、自分が北海道に所有する土地が近々リゾート開発の対象になることに決まっており、またたく間に値段が上がるだろうと述べて、Aとの間で時価より高い値段で当該土地の売買契約を締結した。しかし、リゾート開発云々の話は全くの嘘で、将来性のない原野に過ぎないことが後で判明した。
→Aは、契約を取り消しすることができ、取り消された行為は、はじめから無効であったと見なされる。
5)強迫:相手をおどして、契約をさせること。(法律用語の定義:相手に畏怖を生じさせ、それによって意思表示をさせること。)
例:独り暮らしの女子学生のアパートにやくざ風の押し売りが上がり込み、ただの水を瓶につめたものを出してきて、これを飲むとスタイルがよくなるから、1本1万円で10本買ってくれ、と言った。女子学生がいらないと言うと、「あんたどうなってもいいのか」とすごんで見せた。恐ろしくなってしぶしぶ契約書にサインした。
→契約を取り消しすることができ、取り消された行為は、はじめから無効であったと見なされる。
1)2)は、自分の側に責任がある契約、4)5)は、相手側が明らかに不当な手段を用いた契約です。
社会的には、4)5)は絶対に無くさねばならないと思いますが、悪い側はわかりやすいです。
ところが、3)の錯誤は、望まないことを結局契約をしてしまっています。
誤ったのは、自分ということで、やらかしてしまった自分の行為を納得できなくなるのではないでしょうか。そして、その悔しさを持って行く場がないのではと思います。結果、訴訟も多発することになるのではないでしょうか。
だから、 これら5つの場合、どれも問題であり対処するべきですが、自分は3)錯誤を起こさせないようにすることが最も力を入れていくべきであると感じます。
錯誤にも、いろいろと細かく言えば「動機の錯誤(事実錯誤)」、「表示上の錯誤(言い間違い等)」、「表示行為の意味に関する錯誤」の分類がされますが、「動機の錯誤」をなくす予防的措置を講じていく必要があるのではないかと、問題意識を持ちました。
例えば、3)の例で、偽物を買ってしまった場合の例での予防的措置は、「契約書には、もし、偽物であることが判明したなら、契約は解除する」という条件(解除条件)を必ず入れるという注意をすることです。
動機の錯誤の事案が出てきた場合、「では、どうすれば、防げたのか」の視点もあわせ持って、見ていきたいと思います。
参照:『民法 』内田貴著 東大出版会
******民法関連条文******
(心裡留保)
第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
(虚偽表示)
第九十四条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
(錯誤)
第九十五条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
意思表示がきちんとされない場合、契約は、無効や取消されるべきものとなり、有効に成立しなくなります。
意思表示がきちんとされない場合は、どのような場合か、民法では、「第一編総則 第五章法律行為 第二節 意思表示」において、93条から96条に5つの場合を想定しています。
心裡留保(93条)、虚偽表示(94条)、錯誤(95条)、詐欺(96条)、強迫(96条)の5つです。
本日、民法講義で軽く説明がなされたところですが、聴講して感じたことを書きます。
これら5つの場合、どれも問題でありますが、生じさせないようにするときにどれに一番力を入れるべきでしょうか、どれを選びますでしょうか。
それぞれどのような場合かみてみますと、
1)心裡留保:意思表示するひとが、自分には真意のないことを知りながら意思表示をすること。(法律用語の定義:意思表示の表示者が、表示行為に対応する真意のないことを知りながらする単独の意思表示。)
例:Aは自慢のパソコンを、貧乏学生のBにはまさか買えまいと思って、売る気もないのに10万円なら売ってやってもいいよと言ったところ、Bは買おうと応え、どこからか10万円集めてきた。
→Aは普段からBをからかって売る気もないものを売ってやろうと言うのが癖で、今回もそうで有ることを知っていたような場合以外は、この契約は有効に成立します。
2)虚偽表示:相手方と通じて真意ではない意思表示を行うこと。心裡留保はひとりでやることですが、虚偽表示は、契約の相手方といっしょにするところが異なります。自分の財産に対する強制執行から免れるために虚偽の売買契約をし、財産を隠す場面が想定されます。(法律用語の定義:相手方と通じて真意でない意思表示を行うこと。)
例:Aは、Kから、1000万円かりていたが、折からの不況のため、返済のめどが立たなくなった。Aは、このままでは自分の保有する土地甲がKに差し押さえられてしまうと考え、知り合いの不動産業者Bに相談した。Bは、「とりあえず形だけでもAが甲土地をBに売ったことにしておけば、Kからの差し押さえを免れられる。ほとぼりがさめたら、また元に戻せばよい。」というので、Aはこれに従い、甲土地をBに売却する旨の契約をし、甲土地をBに引き渡し、登記もBに移転した。(その後、AがBに甲土地を返してくれるよう求めたところ、すでにBは甲土地を自分のものとして、Cに売却し、甲土地をCに引き渡してしまっていた。)
→AB間の契約は、無効。(ただし、Cとの関係では、AB間の売買契約は有効になされたものとあつかわれCは、甲土地を有効に取得できる。)
3)錯誤:誤認識・誤判断が原因で、思ったことと違う契約をすること。(法律用語の定義:表意者の誤認識・誤判断が原因で、表示から推断される意思と真意との食い違いが生じること。「意思の不存在(欠缺けんけつ)」とも言われる。表示行為から推断される意思(表示上の効果意思)と表意者の真意の無意識的不合致。ちなみに、心裡留保、虚偽表示では、意識的不合致である。)
例:Aは、BからK画伯の署名のあるオリジナル版画甲を200万円で購入した。ところが、後で調べてみると、甲は偽物であることが判明した。
→AB間の契約は、無効。
4)詐欺:だまされて、錯誤に陥って契約をすること。(法律用語の定義:人を欺罔して錯誤に陥らせる行為。)
例:Bは、自分が北海道に所有する土地が近々リゾート開発の対象になることに決まっており、またたく間に値段が上がるだろうと述べて、Aとの間で時価より高い値段で当該土地の売買契約を締結した。しかし、リゾート開発云々の話は全くの嘘で、将来性のない原野に過ぎないことが後で判明した。
→Aは、契約を取り消しすることができ、取り消された行為は、はじめから無効であったと見なされる。
5)強迫:相手をおどして、契約をさせること。(法律用語の定義:相手に畏怖を生じさせ、それによって意思表示をさせること。)
例:独り暮らしの女子学生のアパートにやくざ風の押し売りが上がり込み、ただの水を瓶につめたものを出してきて、これを飲むとスタイルがよくなるから、1本1万円で10本買ってくれ、と言った。女子学生がいらないと言うと、「あんたどうなってもいいのか」とすごんで見せた。恐ろしくなってしぶしぶ契約書にサインした。
→契約を取り消しすることができ、取り消された行為は、はじめから無効であったと見なされる。
1)2)は、自分の側に責任がある契約、4)5)は、相手側が明らかに不当な手段を用いた契約です。
社会的には、4)5)は絶対に無くさねばならないと思いますが、悪い側はわかりやすいです。
ところが、3)の錯誤は、望まないことを結局契約をしてしまっています。
誤ったのは、自分ということで、やらかしてしまった自分の行為を納得できなくなるのではないでしょうか。そして、その悔しさを持って行く場がないのではと思います。結果、訴訟も多発することになるのではないでしょうか。
だから、 これら5つの場合、どれも問題であり対処するべきですが、自分は3)錯誤を起こさせないようにすることが最も力を入れていくべきであると感じます。
錯誤にも、いろいろと細かく言えば「動機の錯誤(事実錯誤)」、「表示上の錯誤(言い間違い等)」、「表示行為の意味に関する錯誤」の分類がされますが、「動機の錯誤」をなくす予防的措置を講じていく必要があるのではないかと、問題意識を持ちました。
例えば、3)の例で、偽物を買ってしまった場合の例での予防的措置は、「契約書には、もし、偽物であることが判明したなら、契約は解除する」という条件(解除条件)を必ず入れるという注意をすることです。
動機の錯誤の事案が出てきた場合、「では、どうすれば、防げたのか」の視点もあわせ持って、見ていきたいと思います。
参照:『民法 』内田貴著 東大出版会
******民法関連条文******
(心裡留保)
第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
(虚偽表示)
第九十四条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
(錯誤)
第九十五条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
(詐欺又は強迫)
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
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