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表現の自由を守る その規制立法に対する考え方についての問答(1) 憲法学の視点から(21条)

2012-06-03 09:55:03 | シチズンシップ教育
 表現の自由は、私たちが行きて行く上で、とてもとても重要なことがらです。

 理解の一助として、表現の自由は守られるべきなのだけど、一方でその表現の自由を制限する規制立法に対する考え方をテーマにした問答を作ってみました。


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Q: 表現の自由の規制立法には、どんな種類がありますか?

A:四つの態様に大別されるといわれています。

 1)表現内容規制

 2)表現内容中立規制(表現内容中立とは、表現内容に関わらずという意)

 3)検閲・事前抑制

 4)漠然不明確または過度に広範な規制

 の四つです。


Q:順に説明してください。

 まず、1)表現内容規制とは、何ですか。

A: 国家は、表現内容そのものに対する規制を、原則的に、してはならないとされています。

Q: 憲法上、なぜ、そのような規制は、許されないのですか。

A: 情報は、よいか悪いかは、国民自身の判断で決めればよいとしています。

  ある考え方には、相対する考え方が、「対抗言論」として出されるはずです。

  それらを戦わせながら、真実を見いだしていくのです。

  そのような姿勢を、「価値相対主義」「相対的真実主義」といいます。


Q:表現内容規制の例外はあるのですか?

A: あります。
  7つほどの、規制されるべき表現(低い保障または、保障しない表現)があります。

  1)犯罪を扇動する文書

  2)わいせつ文書

  3)名誉毀損的表現

  4)プライバシーの侵害

  5)差別的言論

  6)残虐な表現

  7)営利的言論

   です。

 逆に、最もプライオリティーが高く規制が許されない表現(強い保障の表現)は、政治情報、政治的表現です。
 

Q: 性表現や名誉毀損的は、わいせつ文書の頒布・販売罪とか、名誉毀損罪など刑法に定められています。

  ということは、憲法で保障された表現の範囲に属さないと考えればよいのですか?

A: 従来は、おっしゃるように、憲法で保障された表現の範囲に属さないと考えられてきました。

  しかし、そのように考えると、わいせつ文書なり名誉毀損の概念をどのように決めるかによって、本来は憲法上保障されるべき表現まで、憲法保障の外におかれてしまうおそれが生じます。

  例えば、わいせつ文書についての広い定義を採用しますと、本来価値の高い表現、芸術的な表現なども、規制されてしまうことになってしまいます。


Q: なら、憲法の枠内で、どのように規制をするのですか?その考え方を教えてください。

A: まず、規制することで守るべき利益を分析します。

  わいせつ文書を規制することで守るべき「保護利益」は、「社会環境としての性風俗を清潔に保ち抵抗力の弱い青少年を保護すること」がひとつ考えられます。

  表現活動は、各人の個人としての自律と人格的発展にしするものでもあり、できる限り保障すべきであるという要請が、一方であります。

  保護するべき利益がわかれば、次に、その保護利益との衡量をはかりながら、表現の自由(ここでは、表現活動を通じ、特に個人の自律と人格的発展に資する自由)の価値に比重をおいて、わいせつ文書の定義を厳格にしぼり、それによって、表現内容の規制をできるだけ限定しようとする考え方です。最大限保護の及ぶ表現の範囲を画定していく作業と言い換えることができます。

  「定義づけ衡量論」と呼ばれる手法です。


Q: 名誉毀損的表現と、表現の自由も、あいぶつかり合う利益だと思います。

A: そうですね。

  とくに公務員や著名人(公人)が対象となっている場合には、国民の知る権利にも関わる重大な問題です。

  一方、名誉毀損は、刑法230条の2に規定があります。

*****刑法****
 第三十四章 名誉に対する罪
(名誉毀損)
第二百三十条  公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2  死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二  前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2  前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3  前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

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Q: 事実が真実と誤審したことに相当な理由があったとしても、名誉毀損で罰せられるのでしょうか?

A: かつては、そのように考えられて(「被告人が適示した事実を真実であると誤信したことについて相当の理由があるときも名誉毀損の責任を免れることはできない」)裁判の判決が出されていましたが、裁判所の考え方が変更され、「真実であることの証明がない場合でも、行為者が真実であると誤信し、それが確実な資料、根拠に照らして相当の理由があるときは、罪は成立しない」と解釈されています。(最高裁大法廷 判決 昭和44.6.25)


Q: どのような背景から、そのように、公人の名誉・プライバシーに関わる情報の表現を罰しないと考えられるのですか?

A: 公人のプライバシーは、民主政と密接に関連しています。また、公人の場合は、自らメデイアを用いて反論する機会も十分に有しているところです。

  確かな物証がなければ、報道できないとなると、そのような危険なことは、誰もしなくなるでしょう。罰せられるのですから。

  巨大組織にたてつくというのは、本当にたいへんなことなんです。

  かといって、放置しておけば、私たちの民主政が機能しなくなります。



Q: 表現内容規制に、営利的言論というものもありましたが、何ですか?

A: コマーシャル、広告のような営利的な表現活動をいいます。

Q: 保護に値するのですか。

A: 私たちは、消費者として、広告を通じて様々な情報を受けています。
  よって、保護に値すると考えられています。

Q: では、規制の理由はどんなところにありますか。例えば、医療広告なども強く規制を受けていると思いますが。

A: 医療広告が強く規制を受けるのは、身体・生命に影響が出ることに直結する情報であるからです。
  また、あまりにも専門的過ぎて、ウソ・真実の判断が、一般的にできにくいため、広告内容が強く規制を受けています。


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Q: 二つ目の規制、「表現内容中立規制」を説明してください。

A: 表現内容中立とは、いままで説明してきた、「表現内容」には、直接関係なく制限する規制のことです。

  二つの種類があります。

  一つは、表現が行われる「時、所、方法の規制」です。もうひとつは、「象徴的表現ないし行動を伴う表現(speech plus)」の規制です。

Q: 「時、所、方法の規制」とは、具体的には?

A: 例えば、病院・学校近くでの騒音の制限、一定地域・建物での広告掲示の禁止、「戸別訪問の禁止」等一定の選挙運動の制限などをいいます。

Q: 「象徴的表現ないし行動を伴う表現(speech plus)」の規制とは、具体的には?

A: ある国へのジェスチャーとして、その国の国旗を燃やす行為とか。

  最近では、ヨーロッパで、「ヌードサイクリング」なるものもあるようです。わかりますか?

Q: 動物愛護ですか?

A: 毛皮となった動物を象徴的に表したヌードパフォーマンスで動物愛護を訴えることもありますが、「ヌードサイクリング」は、反車社会を象徴する行動だそうです。

  車に対して、自転車は、“裸”も同然、弱い存在であるということをヌードで示し、自転車に優しい社会対応を求めて、訴えるのだそうです。

  
  話をもどして、「表現内容中立規制」でありながら、「表現内容規制」と区別が明確にできない場合があるのは、わかりますか?

Q: 「表現内容中立規制」として、「時、所、方法の規制」の規制をしていても、その「時、所、方法」の規制は、その「時、所、方法」を用いる特定の集団・グループの規制につながることをいうのですか。

A: その通りです。

  だからこそ、「表現内容中立規制」も、「表現内容規制」に準じるような基準を用いて、規制のありかた自体を、憲法の表現の自由を保障する形で、制限をかけていく必要があります。


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(残り3)検閲・事前抑制 4)漠然不明確または過度に広範な規制 は、次回に続く)


 関連問答:表現の自由(自己実現、自己統治、思想の自由市場)にまつわる問答 憲法学の視点から。
   http://blog.goo.ne.jp/kodomogenki/e/7ddf217e3a7af1c482364e1eb34d335d
 
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