刑法における、責任についての考え方を見てみます。
責任は、犯罪成立を判断するうえで、1構成要件該当性、2違法性、3責任(有責性)の3つの重要な分析項目のひとつです。
A先生
犯罪行為は、形式的には、刑法で規定されたどの犯罪カタログのことを行われたかみられ(構成要件該当性)、実質的には、違法性と責任(有責性)があるかどうかがみられ、最終的に成立の可否や罪責が決められます。
「責任」とは、行為者に対する非難可能性であり、非難できなければ、罰せられません。「責任なければ刑罰なし」と言われます。
責任の判断は、個別的に判断されます。「違法性は連帯的に、責任は個別的に」と言われます。
Q君 責任があるかどうかは、どういう要素で判断されるのですか?
A先生
「責任能力」「故意又は過失」そして「適法行為の期待可能性」で判断されます。
「期待可能性」は、条文には書かれていませんが、規範的観点から判断されます。
Q君 責任能力とは?
A先生 「事物の是非善悪を弁別し、それに従って行動する能力」です。
刑法39条に規定されています。
*****刑法***
(心神喪失及び心神耗弱)
第三十九条 心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
**********
心神喪失者とは、精神の障害によって、事柄の是非善悪を弁えることができず、あるいはその弁えに従って行動することができない場合をいいます。
責任無能力者となり、犯罪は成立しません。精神医療の措置がとられます。
心身耗弱者とは、精神の障害によって、是非善悪を弁える力、その弁えによって行為する力が著しく低下している場合をいいます。
限定責任能力者となり、必ず、刑が減軽されます。
もう一つの場合があります。
刑事未成年者です。
刑法41条で規定されています。
*****刑法****
(責任年齢)
第四十一条 十四歳に満たない者の行為は、罰しない。
***********
判断能力があっても13歳未満は、刑事責任は問われません。よって刑法ではなく、少年法により対応が定められていきます。
年少者は可塑性があり、刑事処罰を控えめにする政策的判断により、14歳と規定されています。
Q君 責任能力の有無や程度の判断方法はどうするのですか?
医師に判断を任せるのですか?
A先生 まさにこの判断は、難しいもののひとつです。
裁判員裁判でも、未必の故意、正当防衛などとともに、難しい判断とされているところです。
責任能力は、「精神の障害」という生物学的要件と「是非善悪の弁識能力と行動制御能力」という心理学的要件で判断されます。
責任能力は、あくまで法律上の概念、法律判断であり、精神医学者ら専門家の鑑定は経ても、たとえその鑑定書で「心神喪失」「心神耗弱」と書かれていたとしても、最終的には、裁判官が、判断をします。
その判断も、継続的な要素で判断するのではなく、その行為の一点でどうであったかという判断をします。
Q君 次に責任における故意過失について教えてください。
A先生 罪を犯す意思があることを「故意」ありといいます。
責任故意が、犯罪成立には必要です。
この場合、問題となるのが、錯誤の問題です。
錯誤とは、主観と客観の不一致のこと。
事実の錯誤は、故意がなかったとされますが、法律の錯誤は、故意がなかったとされません。
事実を知らなかったことは、許されても、法律を知らなかったことは、許されないのです。
刑法38条3項で述べられています。
******刑法*****
(故意)
第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
*************
Q君 では、事実の錯誤は、どんな場合ですか?
A先生 別に自分が襲われたわけではないが、暗がりで前のひとが手を挙げてきたので、襲われたと思って(事実の錯誤)蹴り返した場合などです。こういう場面を「誤想防衛」と言われます。
刑法36条1項の正当防衛の場面です。
****刑法****
(正当防衛)
第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
*********
このような場合、事実の錯誤として、責任故意がないものとされます。(多数説)
Q君 最後に、「適法行為の期待可能性」とは?
A先生 超法規的責任阻却事由と言われています。
条文には、ありません。
Q君 具体的には、どんな場合ですか?
A先生 ある教団グループにおいて、あるひとに対して、リンチが上のひとの命令でなされたとします。
そして、もし、その命令に従わないと自分の命が奪われるようなとき、その上のひとに、よくないからリンチをやめろと進言することが、はたしてできるかどうかという問題です。
刑法では、期待可能性を考慮したと思われる規定の例はあります。
過剰防衛(刑法36条2項)、犯人蔵匿や隠避罪における親族間の特例(刑法105条)、偽造通貨収得後知情行使罪(刑法152条)などです。
襲われた場合の反撃行動、罪を犯した親族を匿ってしまうこと、偽札をつかまされてしまった場合など各場面で、適法行為の期待可能性が配慮されています。
****刑法****
(正当防衛)
第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
(犯人蔵匿等)
第百三条 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
(証拠隠滅等)
第百四条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
(親族による犯罪に関する特例)
第百五条 前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。
(収得後知情行使等)
第百五十二条 貨幣、紙幣又は銀行券を収得した後に、それが偽造又は変造のものであることを知って、これを行使し、又は行使の目的で人に交付した者は、その額面価格の三倍以下の罰金又は科料に処する。ただし、二千円以下にすることはできない。
**********
期待可能性の判断基準は、行為者基準か、平均人(一般人)基準か、国家基準か、それは裁判所の判断で、基準が決められます。
以上、
責任は、犯罪成立を判断するうえで、1構成要件該当性、2違法性、3責任(有責性)の3つの重要な分析項目のひとつです。
A先生
犯罪行為は、形式的には、刑法で規定されたどの犯罪カタログのことを行われたかみられ(構成要件該当性)、実質的には、違法性と責任(有責性)があるかどうかがみられ、最終的に成立の可否や罪責が決められます。
「責任」とは、行為者に対する非難可能性であり、非難できなければ、罰せられません。「責任なければ刑罰なし」と言われます。
責任の判断は、個別的に判断されます。「違法性は連帯的に、責任は個別的に」と言われます。
Q君 責任があるかどうかは、どういう要素で判断されるのですか?
A先生
「責任能力」「故意又は過失」そして「適法行為の期待可能性」で判断されます。
「期待可能性」は、条文には書かれていませんが、規範的観点から判断されます。
Q君 責任能力とは?
A先生 「事物の是非善悪を弁別し、それに従って行動する能力」です。
刑法39条に規定されています。
*****刑法***
(心神喪失及び心神耗弱)
第三十九条 心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
**********
心神喪失者とは、精神の障害によって、事柄の是非善悪を弁えることができず、あるいはその弁えに従って行動することができない場合をいいます。
責任無能力者となり、犯罪は成立しません。精神医療の措置がとられます。
心身耗弱者とは、精神の障害によって、是非善悪を弁える力、その弁えによって行為する力が著しく低下している場合をいいます。
限定責任能力者となり、必ず、刑が減軽されます。
もう一つの場合があります。
刑事未成年者です。
刑法41条で規定されています。
*****刑法****
(責任年齢)
第四十一条 十四歳に満たない者の行為は、罰しない。
***********
判断能力があっても13歳未満は、刑事責任は問われません。よって刑法ではなく、少年法により対応が定められていきます。
年少者は可塑性があり、刑事処罰を控えめにする政策的判断により、14歳と規定されています。
Q君 責任能力の有無や程度の判断方法はどうするのですか?
医師に判断を任せるのですか?
A先生 まさにこの判断は、難しいもののひとつです。
裁判員裁判でも、未必の故意、正当防衛などとともに、難しい判断とされているところです。
責任能力は、「精神の障害」という生物学的要件と「是非善悪の弁識能力と行動制御能力」という心理学的要件で判断されます。
責任能力は、あくまで法律上の概念、法律判断であり、精神医学者ら専門家の鑑定は経ても、たとえその鑑定書で「心神喪失」「心神耗弱」と書かれていたとしても、最終的には、裁判官が、判断をします。
その判断も、継続的な要素で判断するのではなく、その行為の一点でどうであったかという判断をします。
Q君 次に責任における故意過失について教えてください。
A先生 罪を犯す意思があることを「故意」ありといいます。
責任故意が、犯罪成立には必要です。
この場合、問題となるのが、錯誤の問題です。
錯誤とは、主観と客観の不一致のこと。
事実の錯誤は、故意がなかったとされますが、法律の錯誤は、故意がなかったとされません。
事実を知らなかったことは、許されても、法律を知らなかったことは、許されないのです。
刑法38条3項で述べられています。
******刑法*****
(故意)
第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。
*************
Q君 では、事実の錯誤は、どんな場合ですか?
A先生 別に自分が襲われたわけではないが、暗がりで前のひとが手を挙げてきたので、襲われたと思って(事実の錯誤)蹴り返した場合などです。こういう場面を「誤想防衛」と言われます。
刑法36条1項の正当防衛の場面です。
****刑法****
(正当防衛)
第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
*********
このような場合、事実の錯誤として、責任故意がないものとされます。(多数説)
Q君 最後に、「適法行為の期待可能性」とは?
A先生 超法規的責任阻却事由と言われています。
条文には、ありません。
Q君 具体的には、どんな場合ですか?
A先生 ある教団グループにおいて、あるひとに対して、リンチが上のひとの命令でなされたとします。
そして、もし、その命令に従わないと自分の命が奪われるようなとき、その上のひとに、よくないからリンチをやめろと進言することが、はたしてできるかどうかという問題です。
刑法では、期待可能性を考慮したと思われる規定の例はあります。
過剰防衛(刑法36条2項)、犯人蔵匿や隠避罪における親族間の特例(刑法105条)、偽造通貨収得後知情行使罪(刑法152条)などです。
襲われた場合の反撃行動、罪を犯した親族を匿ってしまうこと、偽札をつかまされてしまった場合など各場面で、適法行為の期待可能性が配慮されています。
****刑法****
(正当防衛)
第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
(犯人蔵匿等)
第百三条 罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
(証拠隠滅等)
第百四条 他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、二年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
(親族による犯罪に関する特例)
第百五条 前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。
(収得後知情行使等)
第百五十二条 貨幣、紙幣又は銀行券を収得した後に、それが偽造又は変造のものであることを知って、これを行使し、又は行使の目的で人に交付した者は、その額面価格の三倍以下の罰金又は科料に処する。ただし、二千円以下にすることはできない。
**********
期待可能性の判断基準は、行為者基準か、平均人(一般人)基準か、国家基準か、それは裁判所の判断で、基準が決められます。
以上、
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