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判決の既判力の及ぶ範囲について、一部請求後(特に前訴で敗訴後)の残額請求の可否

2012-12-23 16:59:20 | シチズンシップ教育
 前訴の既判力が及ぶ範囲の問題です。

 一部請求後の残部請求の可否は、いかに判断すれば良いのでしょうか。

 申立事項が、金銭その他の不特定物の給付を目的とする債権に基づく給付訴訟において、原告が債権のうちの一部の数額についてのみ給付を申し立てる請求(一部請求)が認容され、確定された場合、その後、別訴を提起して残額を請求することが許されるか。
 全体と一部の関係の明示が有る場合に限って、別訴提起が可能であるとするのが、最高裁が取る立場です。

 では、逆に、認容ではなくて、一部請求が棄却された場合は、どうか。

 既判力を持ち出して、判断するのではなく、信義則の考え方で、最高裁は判断していますが、私もそれが妥当であると考えます。
 


【事案】
 Xは、不動産売買を目的とする会社である。Xは、YからA市所在の本件土地を買収すること及び同土地が市街化区域に編入されるよう行政当局に働きかけを行うこと等の業務委託(以下、「本件業務委託規約」という。)を受けた。そして昭和57年10月28日に本件業務委託契約の報酬の一部として、Yが本件土地を宅地造成して販売造成するときには造成された宅地の1割をXに販売または斡旋させる旨の本件合意がなされた。
 しかし、結局、Yは宅地造成を行わず、平成3年3月5日、A市開発公社に本件土地を売却した。
 また、Yは平成3年12月5日、Xの債務不履行を理由として本件業務委託契約を解除した。
 そこで、Xは、Yからの業務委託契約に基づいて本件土地の買収等の業務を行い、3億円の報酬請求権を取得したとして、うち1億円の支払を求める訴え(前訴)を提起したが、平成7年10月13日、上記請求を棄却する旨の判決が確定した。
 Xは、前訴判決確定後、平成8年1月11日、本件合意に基づく報酬請求権のうち前訴で請求した1億円を除く残額が2億円であると主張してその支払を求める(後訴)を提起した。

(最高裁判例 平成10年6月12日、『民事訴訟法主要判例集』199事件)



 一部請求後の残額請求の可否の問題で、一部請求が棄却された場合の考え方。

(1)本問における法的問題点。
 一部請求訴訟で敗訴した後に残額請求を行うことは許されるかどうかが法的問題点である。

(2)(1)における問題点の指摘の根拠となる事実の事案の中からの指摘。
 Xは、YからA市所在の本件土地を買収すること及び同土地が市街化区域に編入されるよう行政当局に働きかけを行うこと等の業務委託(以下、「本件業務委託規約」という。)を受けた。
 しかし、結局、Yは本件業務委託契約を解除した。
 そこで、Xは、Yからの業務委託契約に基づいて本件土地の買収等の業務を行い、3億円の報酬請求権を取得したとして、うち1億円の支払を求める訴え(前訴)を提起したが、上記請求を棄却する旨の判決が確定した。Xは、前訴判決確定後、報酬請求権のうち前訴で請求した1億円を除く残額が2億円であると主張してその支払を求める(後訴)を提起した。
 裁判所は、後訴について本案の審理をし、判決を下すことができるかどうかが問題である。

(3)民事訴訟法の第何条、または、いかなる理論の適用が問題であるか。
 民事訴訟法114条1項、既判力の及ぶ範囲が問題となっている。

(4)(3)で挙げた条文のどの文言の解釈、あるいは、理論の要件が問題となっているか。
 申立事項が、金銭その他の不特定物の給付を目的とする債権に基づく給付訴訟において、原告が債権のうちの一部の数額についてのみ給付を申し立てる請求(一部請求)が棄却され、確定された場合、その後、別訴を提起して残額を請求することが許されるかという問題に関して、前訴の既判力が及ぶことで、遮断されるかどうかが問題となっている。

(5)この問題について、自分と反対の結論となり得る考え方。
 一部の債権が存在しない以上、論理的に債権全体の不存在が確定され、残部請求は既判力によって遮断されるとして、一部請求訴訟で敗訴した後に残額請求を行うことは否定するという見解。

(6)上記の自分と反対の結論となり得る考え方の問題点。
 あくまで、既判力は、訴訟物に及ぶものであり、この場合は、一部請求の1億円のはずである。
 残額2億円にまで既判力が及ぶということは、前訴の訴訟物でないものにまで、既判力を及ばせており、審判は求められた訴訟物たる権利についてなされ、そのことに既判力が及ぶということと矛盾することとなる。

(7)この問題についての自分の結論と根拠。
 1個の金銭債権の数量的一部請求は、当該債権が存在しその額は一定額を下回らないことを主張してその限度で請求するものであり、債権の特定の一部を請求するものでないから、このような請求の当否を判断するためには、おのずから債権の全部について判断することが必要になる。すなわち、裁判所は、当該債権の全部について当事者の主張する発生、消滅の原因事実の存否を判断し、債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し、現存額が一部請求の額以上であるときは請求を認容し、現存額が請求額に満たないときは、現存額の限度でこれを認容し、債権が全く現存しないときは、請求を棄却するのであって、当事者双方の主張立証の範囲、程度も、通常は債権の全部が請求されている場合と変わるところはない。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は、このように債権の全部ついて行われた審理の結果に基づいて、当該債権が全く現存しないか又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであって、言い換えれば、後に残部として請求しうる部分が存在しないとの判断を示すものにほかならない。したがって、この判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは、実質的には前訴で認められたかった請求及び主張を蒸し返すものであり、前訴の確定判決によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し、被告に二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと、金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは特段の事情がない限り、信義則に反して許されない(民事訴訟法2条)と解するのが相当である。
 これを本件についていると、Xの請求は、前訴で数量的一部を請求して棄却判決を受けた各報酬請求権につき、その残部を請求するものであり、特段の事情の認められない本件においては、残額請求に係る訴えの提起は、訴訟上の信義則に反して許されず、したがって、その訴えを不適法として却下すべきである
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