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総合設計許可の取消訴訟に、地域住民の原告適格を初めて認めた最高裁判例H14.1.22

2014-11-20 16:08:42 | 行政法学
 建築基準法59条の2第1項に基づく「総合設計許可」の取消訴訟に、地域住民の原告適格を初めて認めた最高裁判例H14.1.22



***************最高裁ホームページ****************
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/624/052624_hanrei.pdf

         主    文
       1 原判決中上告人A1,同A2,同A3及び同A4の被上告人東
京都建築主事に対する請求に関する部分を破棄し,第1審判決中同部分を取り消し
,同部分につき同上告人らの訴えを却下する。
       2 上告人A1,同A2,同A3及び同A4のその余の上告並びに
同A5及び同A6の上告を棄却する。
       3 第1項の部分に関する訴訟の総費用は,上告人A1,同A2,
同A3及び同A4の負担とする。
       4 第2項の部分に関する上告費用は上告人らの負担とする。


         理    由
 第1 上告代理人吉田忠司の上告理由第一について
 1 本件は,D生命保険相互会社(以下「D生命」という。)に対し,平成4年
7月7日付けで被上告人東京都知事が建築基準法(平成4年法律第82号による改
正前のもの。以下同じ。)59条の2第1項に基づいてしたいわゆる総合設計許可
(以下「本件総合設計許可」という。)及び都市計画法(平成4年法律第82号に
よる改正前のもの。以下同じ。)8条1項3号に規定する都市計画である「東京都
市計画高度地区」(東京都渋谷区決定・平成元年東京都渋谷区告示第61号)に基
づいてした許可(以下「本件都市計画許可」といい,本件総合設計許可と併せて「
本件各許可」という。)並びに同5年5月17日付けで被上告人東京都建築主事が
した建築確認(以下「本件建築確認」という。)が違法であるとして,上告人らが
被上告人らに対しこれらの取消しを請求する事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) D生命は,東京都渋谷区ab丁目に所在する1万3057.83㎡の本
件土地を所有しており,これを敷地とし,地上22階建てのタワーを有するオフィ
- 1 -
スビル,広場等から成る総合建築物(以下「本件建築物」という。)を建築する計
画を立てた。本件土地は,都市計画法8条1項1号所定の住居地域内にあるが,(
ア) 本件土地の西側約24%の部分は,建築基準法52条1項所定の容積率が4
00%の地域内にあり,(イ) 本件土地のその余の部分は,容積率が300%の
地域内にある。本件土地に係る容積率は,同条2項により,323.95%となる。
 本件土地は,上記のとおり,同条所定の容積率の制限を受けていたほか,同法5
6条1項2号イ所定のいわゆる隣地斜線制限を受け,また,本件土地のうち上記(
イ)の部分は,東京都市計画高度地区の定める第3種高度地区における建築物の各
部分の高さの最高限度の制限(以下「第3種高度斜線制限」という。)を受けてい
た。東京都市計画高度地区の定めにおいては,同法施行令(平成5年政令第170
号による改正前のもの)136条に定める敷地内空地及び敷地規模を有する敷地に
総合的な設計に基づいて建築される建築物で市街地の環境の整備改善に資すると認
められるもの等に該当し,特定行政庁が許可したものについては,第3種高度斜線
制限の規定を適用しないこととしている。本件建築物は,容積率が437.55%
であり,本件土地に係る容積率の制限を超え,南側隣地に係る斜線制限及び第3種
高度斜線制限にも抵触し,これらの緩和又は適用除外がなければ建築することがで
きないものであった。D生命は,前記のとおり,本件建築物について,容積率制限
及び南側隣地に係る斜線制限を緩和する本件総合設計許可並びに第3種高度斜線制
限の適用を除外する本件都市計画許可を受けた。その結果,最高の高さが110.
25mに及ぶ本件建築物を建築することが可能となった。
 (2) 上告人らは,本件建築物のうちのオフィスビルから直線距離で13.5
mないし127.5mの範囲に,いずれも建築物を所有している。上告人A5及び
同A6(以下「上告人A5外1名」という。)の住居は,都市計画法8条1項1号
所定の住居地域内にあり,同A1及び同A2の住居並びに同A3の所有する賃貸建
- 2 -
物は,同号所定の第1種住居専用地域内にある。上告人A4の亡夫Eは,第1種住
居専用地域内に建築物を所有し,本件訴訟の原告の1人であったが,第1審係属中
に死亡し,同上告人が,上記建築物の持分を相続により承継取得して,亡A4の本
件訴訟を承継した。
 本件建築物は,冬至日の真太陽時による午前8時から午後4時までの間において
,上告人A1及び同A2の各住居並びに同A4の所有する建築物の敷地上,平均地
盤面からの高さ1.5mに,それぞれ2時間前後の日影を生じさせ,同A3の賃貸
建物の敷地上にも同様に1時間弱の日影を生じさせるが,本件土地の南側にある上
告人A5外1名の各住居の敷地上には,日影を生じさせない。
 (3) 東京都は,総合設計許可の可否に関する判断基準として東京都総合設計
許可要綱を定めている。同要綱は,建築基準法が要求する最低限の空地,敷地要件
,計画建築物の敷地が接道すべき道路の幅員,敷地内の公開空地の形状等に関する
基準を設け,敷地に対する公開空地の割合に基づく容積率の緩和の原則及び緩和の
限度,計画建築物と一般建築物の斜線投影面積の比較による道路斜線制限及び隣地
斜線制限の緩和の限度,日照条件による北側斜線制限(第3種高度斜線制限を含む。)
の緩和の限度を具体的に定めるものであって,建ぺい率,容積率及び各部分の高さ
について総合的な配慮がされていることの統一的な認定基準として定められたもの
である。また,同要綱は,対象となる建築計画の要件として,周辺の市街地環境に
対して十分配慮した建築形態であること等を挙げている。
 同要綱は,総合設計許可のみならず,東京都市計画高度地区に基づく第3種高度
斜線制限の適用除外の許可についても,その判断基準として用いられている。本件
各許可も本件建築物が同要綱所定の各種基準に適合することを確認してされた。な
お,被上告人東京都知事は,本件各許可をするに際し,本件建築物の建築が市街地
の環境整備に支障がないとの東京都渋谷区の意向をも確認した。
- 3 -
 3 原審は,上記事実関係の下において,① 被上告人東京都知事に対する本件
総合設計許可の取消しの訴えをすべて不適法として却下すべきものとし,② 同被
上告人に対する本件都市計画許可の取消請求については,上告人A5外1名の訴え
を不適法として却下すべきものとし,上告人A1,同A2,同A3及び同A4(以
下「上告人A1外3名」という。)の訴えは適法とした上で,その請求を棄却すべ
きものとし,③ 被上告人東京都建築主事に対する本件建築確認の取消請求につい
ては,上告人A5外1名の訴えを不適法として却下すべきものとし,上告人A1外
3名の訴えは適法とした上で,その請求を棄却すべきものとした。原審の判断の概
要は,次のとおりである。
 (1) 本件総合設計許可は,本件建築物につき,容積率制限と南側隣地に係る
斜線制限を緩和するものである。容積率制限は,建築物の過密化を避け適当な都市
環境を確保するとともに,道路等の公共施設との調和を図ること等を目的とするも
のであって,近隣住民の個別的な利益を直接保護する趣旨のものではない。斜線制
限のうち本件で緩和の対象とされた南側隣地に係る斜線制限は,隣接地の日照を保
護することを目的としたものでなく,専ら一般的な採光,天空視界の確保,上空開
放感の維持等を目的とするものであり,一般的な都市空間の確保という公益保護を
目的とするにとどまる。したがって,上告人らは,本件総合設計許可の取消しを求
める原告適格を有しない。
 (2) 東京都市計画高度地区による第3種高度斜線制限は,容積率が300%
の住居地域において,敷地の北側境界線からの距離に応じた斜線方式による建築物
の各部分の高さを制限して隣接地の日照を確保することを主な目的とする。本件都
市計画許可により日照利益に影響を受けることとなる上告人A1外3名は,本件都
市計画許可の取消しを求める原告適格を有するが,上告人A5外1名は,本件土地
の南側に居住し,第3種高度斜線制限によって直接保護された利益を有するもので
- 4 -
はなく,その取消しを求める原告適格を有しない。
 (3) 本件建築物が建築されることによって日照に一定程度の影響を受けるこ
ととなる上告人A1外3名は,本件建築確認の取消しを求める原告適格を有するが
,上告人A5外1名は,本件建築物が建築されることによって日照に影響を受ける
ものではないから,その取消しを求める原告適格を有しない。
 (4) 都市計画法は,高度地区を都市計画において定めるに当たっては,その
具体的内容及び指定地域をどのように定めるかを都市計画にゆだねたものと解すべ
きであるから,高度地区を定める都市計画において,一定の例外的な場合に高度地
区の定めを適用除外とすることを定めることも,高度地区を具体的に指定する方法
の一つとして容認されている。東京都市計画高度地区における第3種高度斜線制限
の適用除外の規定は,都市計画法及び建築基準法に違反しない。第3種高度斜線制
限の適用を除外する許可の要件の有無の判断は,建築や都市計画に関する技術的・
専門的な知識経験を有する特定行政庁の広範な裁量にゆだねられている。本件建築
物は,東京都総合設計許可要綱所定の各種基準に適合するものであり,被上告人東
京都知事が,上記の要件を満たすと判断して本件都市計画許可をしたことに,その
裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるということはできない。
 (5) 本件総合設計許可が違法であるかどうかは,上告人A1外3名の法律上
の利益と関係がなく,上告人A1外3名は,その違法を主張して本件建築確認の取
消しを求めることはできない。また,本件都市計画許可が適法であることは前記の
とおりであるから,同許可の違法を理由に本件建築確認の違法をいう上告人A1外
3名の主張は失当である。
 4 しかしながら,原審が,上告人ら全員につき本件総合設計許可の取消しを求
める原告適格を否定し,また,上告人A5外1名につき本件都市計画許可の取消し
を求める原告適格を否定した各判断は,いずれも是認することができない。その理
- 5 -
由は,次のとおりである。
 (1) 行政事件訴訟法9条は,取消訴訟の原告適格について規定するが,同条
にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは,当該処
分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され,又は必然的に侵害
されるおそれのある者をいうのであり,当該処分を定めた行政法規が,不特定多数
者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず,それが帰属す
る個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される
場合には,このような利益もここにいう法律上保護された利益に当たり,当該処分
によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は,当該処分の取消
訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして,当該行政法規が,
不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべ
きものとする趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当
該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきで
ある(最高裁平成元年(行ツ)第130号同4年9月22日第三小法廷判決・民集
46巻6号571頁,最高裁平成6年(行ツ)第189号同9年1月28日第三小
法廷判決・民集51巻1号250頁参照)。
 (2) 上記の見地に立って,まず,上告人らの本件総合設計許可の取消しを求
める原告適格について検討する。
 建築基準法は,52条において建築物の容積率制限,55条及び56条において
高さ制限を定めているところ,これらの規定は,本来,建築密度,建築物の規模等
を規制することにより,建築物の敷地上に適度な空間を確保し,もって,当該建築
物及びこれに隣接する建築物等における日照,通風,採光等を良好に保つことを目
的とするものであるが,そのほか,当該建築物に火災その他の災害が発生した場合
に,隣接する建築物等に延焼するなどの危険を抑制することをもその目的に含むも
- 6 -
のと解するのが相当である。そして,同法59条の2第1項は,上記の制限を超え
る建築物の建築につき,一定規模以上の広さの敷地を有し,かつ,敷地内に一定規
模以上の空地を有する場合においては,安全,防火等の観点から支障がないと認め
られることなどの要件を満たすときに限り,これらの制限を緩和することを認めて
いる。このように,同項は,必要な空間を確保することなどを要件として,これら
の制限を緩和して大規模な建築物を建築することを可能にするものである。容積率
制限や高さ制限の規定の上記の趣旨・目的等をも考慮すれば,同項が必要な空間を
確保することとしているのは,当該建築物及びその周辺の建築物における日照,通
風,採光等を良好に保つなど快適な居住環境を確保することができるようにすると
ともに,地震,火災等により当該建築物が倒壊,炎上するなど万一の事態が生じた
場合に,その周辺の建築物やその居住者に重大な被害が及ぶことがないようにする
ためであると解される。そして,同項は,特定行政庁が,以上の各点について適切
な設計がされているかどうかなどを審査し,安全,防火等の観点から支障がないと
認めた場合にのみ許可をすることとしているのである。以上のような同項の趣旨・
目的,同項が総合設計許可を通して保護しようとしている利益の内容・性質等に加
え,同法が建築物の敷地,構造等に関する最低の基準を定めて国民の生命,健康及
び財産の保護を図ることなどを目的とするものである(1条)ことにかんがみれば
,同法59条の2第1項は,上記許可に係る建築物の建築が市街地の環境の整備改
善に資するようにするとともに,当該建築物の倒壊,炎上等による被害が直接的に
及ぶことが想定される周辺の一定範囲の地域に存する他の建築物についてその居住
者の生命,身体の安全等及び財産としてのその建築物を,個々人の個別的利益とし
ても保護すべきものとする趣旨を含むものと解すべきである。そうすると,【要旨
】総合設計許可に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予
想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は,総合設計許
- 7 -
可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として,その取消訴訟における
原告適格を有すると解するのが相当である。
 前記事実関係によれば,上告人A3及び同A4以外の上告人らが居住し,かつ,
所有する建築物並びに同A3及び同A4の所有する建築物は,いずれも本件建築物
が倒壊すれば直接損傷を受ける蓋然性がある範囲内にあるものということができる。
したがって,上告人らは,本件総合設計許可の取消しを求める原告適格を有するも
のというべきである。してみると,上告人らにつき本件総合設計許可の取消しを求
める原告適格を否定し,その取消しを求める訴えを却下すべきものとした原審の判
断には,法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。
 ところで,原審は,被上告人東京都知事が本件建築物が東京都総合設計許可要綱
所定の各種基準に適合することを確認して本件各許可をしたことを認定した上で,
本件建築物は上記基準に適合するものであり,同被上告人が第3種高度斜線制限の
適用除外の許可の要件を満たすと判断して本件都市計画許可をしたことに,その裁
量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるということはできないから,
上告人A1外3名の同被上告人に対する本件都市計画許可の取消請求は理由がなく
棄却すべきものと判断している。そして,後述のとおり,原審の上記認定判断は是
認することができるものであり(後記第2参照),上記認定判断に徴すれば,上告
人らの同被上告人に対する本件総合設計許可の取消請求もまた,理由のないもので
あることが明らかである。以上によると,本件総合設計許可の取消請求は理由がな
いものとして棄却すべきこととなるが,いわゆる不利益変更禁止の原則により,上
告を棄却するにとどめるほかはない。
 (3) 次に,上告人らの本件都市計画許可の取消しを求める原告適格について
検討する。
 総合設計許可について前述したところにかんがみれば,東京都市計画高度地区に
- 8 -
よる第3種高度斜線制限は,その趣旨・目的等に照らし,敷地の北側境界線からの
距離に応じた斜線方式による建築物の各部分の高さを制限し,周辺の日照,通風,
採光等を良好に保つなど快適な居住環境を確保することができるようにするととも
に,当該建築物が地震,火災等により倒壊,炎上するなどの事態が生じた場合に,
その周辺の建築物や居住者に被害が及ぶことを防止することを目的とするものと解
するのが相当である。したがって,第3種高度斜線制限の適用除外の許可に係る建
築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存
する建築物に居住し又はこれを所有する者は,その生命,身体の安全等又は財産と
しての建築物を個別的利益としても保護されているものと解されるのであり,上記
許可の取消しを求める原告適格を有するものと解するのが相当である。
 本件総合設計許可の原告適格について前述したところによれば,上告人らは,本
件都市計画許可についても,その取消しを求める原告適格を有するものというべき
である。上告人A5外1名につき本件都市計画許可の取消しを求める原告適格を否
定し,その取消しを求める訴えを却下すべきものとした原審の判断には,法令の解
釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。しかしながら,原審が上告人A1
外3名の本件都市計画許可の取消請求は理由がなく棄却すべきものと判断したこと
は前記のとおりであり,その判断を是認することができることは後記第2のとおり
であって,上告人A5外1名の同請求についても,その理由がなく棄却すべきこと
は明らかであるところ,ここでも,不利益変更禁止の原則により,上告を棄却する
にとどめるほかはない。
 (4) さらに,本件建築確認に係る本件建築物の工事がすべて完了したことに
より本件建築確認の取消しを求める訴えの利益が失われたことは,後記第3のとお
りであるから,上告人A5外1名が本件建築確認の取消しを求める原告適格を有し
ないとしてその訴えを却下すべきものとした原審の判断は,結論において是認する
- 9 -
ことができる。この点に関する上告人A5外1名の上告は棄却すべきである。
 (5) 以上によれば,論旨は,結局,採用することができない。
 第2 上告代理人吉田忠司の上告理由第二及び第三について
 所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,是認する
ことができ,その過程に所論の違法はない。論旨は,採用することができない。
 第3 職権による検討
 建築確認は,それを受けなければ建築基準法6条1項の建築物の建築等の工事を
することができないという法的効果を付与されているにすぎないものというべきで
あるから,当該工事が完了した場合においては,建築確認の取消しを求める訴えの
利益は失われる(最高裁昭和58年(行ツ)第35号同59年10月26日第二小
法廷判決・民集38巻10号1169頁参照)。
記録によれば,本件建築確認に係る本件建築物の工事はすべて完了したことが認め
られるから,上告人らにおいて本件建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われ
たものというべきである。そうすると,原判決及び第1審判決中,上告人A1外3
名の本件建築確認の取消請求を棄却すべきものとした部分には,判決に影響を及ぼ
すことが明らかな法令の違反があるから,原判決中上記部分を破棄して,第1審判
決中上記部分を取り消し,上告人A1外3名の上記請求に係る訴えを却下すべきで
ある。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 濱田邦夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 金谷利廣 裁判官 奥田
昌道)
- 10 -


http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52624


事件番号

 平成9(行ツ)7



事件名

 建築基準法に基づく許可処分取消,建築確認処分取消請求事件



裁判年月日

 平成14年1月22日



法廷名

 最高裁判所第三小法廷



裁判種別

 判決



結果

 その他



判例集等巻・号・頁

 民集 第56巻1号46頁




原審裁判所名

 東京高等裁判所



原審事件番号

 平成7(行コ)175



原審裁判年月日

 平成8年9月25日




判示事項

 建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの)59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可の取消訴訟と同許可に係る建築物の周辺地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者の原告適格



裁判要旨

 建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの)59条の2第1項に基づくいわゆる総合設計許可に係る建築物の倒壊,炎上等により直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に存する建築物に居住し又はこれを所有する者は,同許可の取消訴訟の原告適格を有する。



参照法条

 行政事件訴訟法9条,建築基準法(平成4年法律第82号による改正前のもの)59条の2第1項
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弁護士の民事責任9:弁護士報酬をめぐる責任(職務基本規定24条)、報酬の算定根拠

2014-11-19 23:00:01 | 倫理(医療倫理、弁護士倫理、企業倫理…)
 弁護士との委任契約については、消費者法の適用があります。

 報酬は、経済的利益事案の難易時間及び労力その他の事情に照らして適正かつ妥当な弁護士報酬を提示されることになっています(弁護士職務基本規程24条)。



 弁護士の報酬をめぐっては、かなりの数の判例が存在します。
 
 報酬の争いは、弁護士の行為に対する依頼者の不満、批判があることが多いと言われています。

参考裁判例)

〇東京地判平成20年6月19日

〇横浜地判平成21年7月10日


***********************************
弁護士職務基本規程
平成十六年十一月十日
会規第七十号

(弁護士報酬)
第二十四条弁護士は経済的利益事案の難易時間及び労力その他の事情に照らして
適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなければならない。
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実行行為者に関して択一的な認定が許されるとした最初の最高裁判例H13.4.11

2014-11-19 23:00:00 | 刑事訴訟法学
 実行行為者に関して択一的な認定が許されるとした最初の最高裁判例H13.4.11

 実行行為者の判示が、「A又は被告人あるいはその両名」としても、

 その事例が、被告人とAの2名の共謀による犯行であるときは、
 殺人罪の罪となるべき事実の判示として、不十分とは言えない。



*******************最高裁ホームページ*******************************************************
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/012/050012_hanrei.pdf
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50012

        主    文

 本件上告を棄却する。
 当審における未決勾留日数中600日を本刑に算入する。


         理    由

 弁護人石田恒久,同石岡隆司の上告趣意のうち,憲法38条違反をいう点は,被
告人の自白調書の任意性を肯定した原判断は相当であるから,前提を欠き,その余
は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被
告人本人の上告趣意は,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告
理由に当たらない。
 なお,所論にかんがみ,職権で判断する。
 本件のうち殺人事件についてみると,その公訴事実は,当初,「被告人は,Aと
共謀の上,昭和63年7月24日ころ,青森市a所在の産業廃棄物最終処分場付近
道路に停車中の普通乗用自動車内において,Bに対し,殺意をもってその頸部をベ
ルト様のもので絞めつけ,そのころ窒息死させて殺害した」というものであったが
,被告人がAとの共謀の存在と実行行為への関与を否定して,無罪を主張したこと
から,その点に関する証拠調べが実施されたところ,検察官が第1審係属中に訴因
変更を請求したことにより,「被告人は,Aと共謀の上,前同日午後8時ころから
午後9時30分ころまでの間,青森市bc丁目所在の共済会館付近から前記最終処
分場に至るまでの間の道路に停車中の普通乗用自動車内において,殺意をもって,
被告人が,Bの頸部を絞めつけるなどし,同所付近で窒息死させて殺害した」旨の
事実に変更された。この事実につき,第1審裁判所は,審理の結果,「被告人は,
Aと共謀の上,前同日午後8時ころから翌25日未明までの間に,青森市内又はそ
の周辺に停車中の自動車内において,A又は被告人あるいはその両名において,扼
殺,絞殺又はこれに類する方法でBを殺害した」旨の事実を認定し,罪となるべき
- 1 -
事実としてその旨判示した。
 まず,以上のような判示が殺人罪に関する罪となるべき事実の判示として十分で
あるかについて検討する。【要旨1】上記判示は,殺害の日時・場所・方法が概括
的なものであるほか,実行行為者が「A又は被告人あるいはその両名」という択一
的なものであるにとどまるが,その事件が被告人とAの2名の共謀による犯行であ
るというのであるから,この程度の判示であっても,殺人罪の構成要件に該当すべ
き具体的事実を,それが構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具
体的に明らかにしているものというべきであって,罪となるべき事実の判示として
不十分とはいえないものと解される。
 次に,実行行為者につき第1審判決が訴因変更手続を経ずに訴因と異なる認定を
したことに違法はないかについて検討する。訴因と認定事実とを対比すると,前記
のとおり,犯行の態様と結果に実質的な差異がない上,共謀をした共犯者の範囲に
も変わりはなく,そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみであ
る。そもそも,殺人罪の共同正犯の訴因としては,その実行行為者がだれであるか
が明示されていないからといって,それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべ
き事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから,訴因において実行行為
者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても,審判対象の画定という見
地からは,訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。とはいえ,【要旨
2】実行行為者がだれであるかは,一般的に,被告人の防御にとって重要な事項で
あるから,当該訴因の成否について争いがある場合等においては,争点の明確化な
どのため,検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ,
検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上,判決においてそれと実質
的に異なる認定をするには,原則として,訴因変更手続を要するものと解するのが
相当である。しかしながら,実行行為者の明示は,前記のとおり訴因の記載として
- 2 -
不可欠な事項ではないから,少なくとも,被告人の防御の具体的な状況等の審理の
経過に照らし,被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ,かつ,判決で
認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益である
とはいえない場合には,例外的に,訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行
行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである。
 そこで,本件について検討すると,記録によれば,次のことが認められる。第1
審公判においては,当初から,被告人とAとの間で被害者を殺害する旨の共謀が事
前に成立していたか,両名のうち殺害行為を行った者がだれかという点が主要な争
点となり,多数回の公判を重ねて証拠調べが行われた。その間,被告人は,Aとの
共謀も実行行為への関与も否定したが,Aは,被告人との共謀を認めて被告人が実
行行為を担当した旨証言し,被告人とAの両名で実行行為を行った旨の被告人の捜
査段階における自白調書も取り調べられた。弁護人は,Aの証言及び被告人の自白
調書の信用性等を争い,特に,Aの証言については,自己の責任を被告人に転嫁し
ようとするものであるなどと主張した。審理の結果,第1審裁判所は,被告人とA
との間で事前に共謀が成立していたと認め,その点では被告人の主張を排斥したも
のの,実行行為者については,被告人の主張を一部容れ,検察官の主張した被告人
のみが実行行為者である旨を認定するに足りないとし,その結果,実行行為者がA
のみである可能性を含む前記のような択一的認定をするにとどめた。【要旨3】以
上によれば,第1審判決の認定は,被告人に不意打ちを与えるものとはいえず,か
つ,訴因に比べて被告人にとってより不利益なものとはいえないから,実行行為者
につき変更後の訴因で特定された者と異なる認定をするに当たって,更に訴因変更
手続を経なかったことが違法であるとはいえない。
 したがって,罪となるべき事実の判示に理由不備の違法はなく,訴因変更を経る
ことなく実行行為者につき択一的認定をしたことに訴訟手続の法令違反はないとし
- 3 -
た原判決の判断は,いずれも正当である。
 また,本件のうち死体遺棄事件及びC方放火事件において,実行行為者の認定が
択一的であることなどについても,殺人事件の場合と同様に考えられる。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,平成7年法律第91号による改正
前の刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 奥田昌道 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷
利廣)
- 4 -
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耐震偽装をした一級建築士の免許の取消しに理由提示の違法があると、その免許取消し自体が取消される

2014-11-18 23:00:00 | 行政法学
 設計者として,7件の建築物につき建築基準法令に定める構造基準に適合しない設計を行って耐震性等の不足する構造上危険な建築物を現出させた上,更に5件の建築物につき構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行った者の一級建築士免許の取消において、その理由提示の仕方にあやまりがある違法があると、免許取り消ししたこと自体が取消になるということ。

 それほどに、理由をきちんと提示する義務が、行政にはあります。


********************************************************************

事件名

 一級建築士免許取消処分等取消請求事件



裁判年月日

 平成23年6月7日

<判決文全文>
- 1 -
主 文
1 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。
2 国土交通大臣が上告人X1に対し平成18年9月1
日付けでした一級建築士免許取消処分を取り消す。
3 北海道知事が上告人X2に対し平成18年9月26
日付けでした建築士事務所登録取消処分を取り消
す。
4 訴訟の総費用は被上告人らの負担とする。

理 由
上告代理人川守田大介の上告受理申立て理由第1,第2,第6について
1 本件は,一級建築士として建築士事務所の管理建築士を務めていた上告人
X1が,国土交通大臣から,建築士法(平成18年法律第92号による改正前のも
の。以下同じ。)10条1項2号及び3号に基づく一級建築士免許取消処分(以下
「本件免許取消処分」という。)を受け,これに伴い,同事務所の開設者であった
上告人X2(以下「上告会社」という。)が,北海道知事から,同法26条2項4
号に基づく建築士事務所登録取消処分(以下「本件登録取消処分」という。)を受
けたため,上告人らにおいて,本件免許取消処分は,公にされている処分基準の適
用関係が理由として示されておらず,行政手続法14条1項本文の定める理由提示
の要件を欠いた違法な処分であり,これを前提とする本件登録取消処分も違法な処
分であるなどとして,これらの各処分の取消しを求めている事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 上告人X1は,昭和56年に一級建築士免許を取得し,上告会社が開設す
- 2 -
る建築士事務所の管理建築士を務めていた。
(2) 国土交通大臣は,上告人X1に対し,平成18年9月1日付けで,本件免
許取消処分をした。その通知書には,処分の理由として,次のとおり記載されてい
た。
「あなたは,北海道札幌市中央区南▲条西▲丁目▲-▲,北海道札幌市厚別区厚
別中央▲条▲丁目▲-▲,北海道札幌市豊平区平岸▲条▲丁目▲,北海道札幌市北
区北▲条西▲丁目▲-▲,▲,▲,▲,北海道札幌市中央区北▲条西▲丁目▲番
▲,北海道札幌市中央区南▲条西▲丁目▲-▲,▲,▲,▲,北海道札幌市中央区
南▲条西▲丁目▲-▲を敷地とする建築物の設計者として,建築基準法令に定める
構造基準に適合しない設計を行い,それにより耐震性等の不足する構造上危険な建
築物を現出させた。
また,北海道札幌市東区北▲条東▲丁目▲-▲,北海道札幌市豊平区豊平▲条▲
丁目▲-▲,北海道札幌市豊平区月寒西▲条▲丁目▲番▲,北海道札幌市豊平区月
寒中央通▲丁目▲番▲,北海道札幌市白石区南郷通▲丁目北▲を敷地とする建築物
の設計者として,構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行った。
このことは,建築士法第10条第1項第2号及び第3号に該当し,一級建築士に
対し社会が期待している品位及び信用を著しく傷つけるものである。」
(3) 北海道知事は,上告人X1に対し本件免許取消処分がされたことを受け
て,上告会社に対し,平成18年9月26日付けで,本件登録取消処分をした。
(4) 建築士法10条1項は,建築士が「この法律若しくは建築物の建築に関す
る他の法律又はこれらに基づく命令若しくは条例の規定に違反したとき」(2
号),「業務に関して不誠実な行為をしたとき」(3号)においては,免許を与え
- 3 -
た国土交通大臣又は都道府県知事は,当該建築士に対する懲戒処分として,「戒告
を与え,1年以内の期間を定めて業務の停止を命じ,又は免許を取り消すことがで
きる。」と定めている。
本件免許取消処分がされた当時,建築士に対する上記懲戒処分については,意見
公募の手続を経た上で,「建築士の処分等について」と題する通知(平成11年1
2月28日建設省住指発第784号都道府県知事宛て建設省住宅局長通知。平成1
9年6月20日廃止前のもの)において処分基準(以下「本件処分基準」とい
う。)が定められ,これが公にされていた。本件処分基準によれば,その別表第1
に従い,処分内容の決定を行うこととされており,上記別表第1の(2)は,建築士
が建築士法10条1項2号又は3号に該当するときは,「表2の懲戒事由に記載し
た行為に対応する処分ランクを基本に,表3に規定する情状に応じた加減を行って
ランクを決定し,表4に従い処分内容を決定する。ただし,当該行為が故意による
ものであり,それにより,建築物の倒壊・破損等が生じたとき又は人の死傷が生じ
たとき(以下「結果が重大なとき」という。)は,業務停止6月以上又は免許取消
の処分とし,当該行為が過失によるものであり,結果が重大なときは,業務停止3
月以上又は免許取消の処分とする。」と定めていた。また,上記別表第1の表2
は,「違反設計」に対応する処分ランクを「6」とし,「不適当設計」に対応する
処分ランクを「2~4」とし,「その他の不誠実行為」に対応する処分ランクを
「1~4」とするなど,懲戒事由の類型ごとに処分ランクを定め,表3は,その処
分ランクから,「過失に基づく行為であり,情状をくむべき場合」には1~3を減
じ,「法違反の状態が長期にわたる場合」や「常習的に行っている場合」には3を
加えるなど,情状等による処分ランクの加減方法を定め,表4は,このようにして
- 4 -
決定された処分ランクが「2」の場合は「戒告」とし,「3」ないし「15」の場
合はそれぞれ「業務停止1月未満」ないし「業務停止1年」とし,「16」の場合
は「免許取消」とするなど,処分ランクに対応する処分等(文書注意を含む。)の
内容を定めるとともに,複数の処分事由に該当する場合の処理について,「二以上
の処分等すべき行為について併せて処分等を行うときは,最も処分等の重い行為の
ランクに適宜加重したランクとする。ただし,同一の処分事由に該当する複数の行
為については,時間的,場所的接着性や行為態様の類似性等から,全体として一の
行為と見うる場合は,単一の行為と見なしてランキングすることができる。」など
と定めていた。
(5) 上告人らは,本件訴訟の提起の段階で,本件免許取消処分の根拠は本件処
分基準の別表第1の(2)本文であると理解していたが,被上告人国は,本件訴訟に
おいて,本件免許取消処分の根拠を,主位的に,同(2)ただし書であると主張し,
予備的に,同(2)本文であると主張した。
3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断し,本件免許取消処
分に行政手続法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法はなく,その
余の違法事由も認められず,本件登録取消処分にも違法はないとして,上告人らの
請求をいずれも棄却すべきものとした。
行政手続法14条1項本文が,不利益処分をする場合に当該不利益処分の理由を
示さなければならないとしている趣旨は,一級建築士に対する懲戒処分の場合,当
該処分の根拠法条(建築士法10条1項各号)及びその法条の要件に該当する具体
的な事実関係が明らかにされることで十分に達成できるというべきであり,更に進
んで,処分基準の内容及び適用関係についてまで明らかにすることを要するもので
- 5 -
はないと解すべきである。国土交通大臣は,本件免許取消処分の通知書の中で具体
的な根拠法条及びその要件に該当する具体的な事実関係を明らかにしているから,
十分な理由が提示されていたといえる。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
行政手続法14条1項本文が,不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人
に示さなければならないとしているのは,名宛人に直接に義務を課し又はその権利
を制限するという不利益処分の性質に鑑み,行政庁の判断の慎重と合理性を担保し
てその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便
宜を与える趣旨に出たものと解される。そして,同項本文に基づいてどの程度の理
由を提示すべきかは,上記のような同項本文の趣旨に照らし,当該処分の根拠法令
の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分
の性質及び内容,当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決
定すべきである。
この見地に立って建築士法10条1項2号又は3号による建築士に対する懲戒処
分について見ると,同項2号及び3号の定める処分要件はいずれも抽象的である
上,これらに該当する場合に同項所定の戒告,1年以内の業務停止又は免許取消し
のいずれの処分を選択するかも処分行政庁の裁量に委ねられている。そして,建築
士に対する上記懲戒処分については,処分内容の決定に関し,本件処分基準が定め
られているところ,本件処分基準は,意見公募の手続を経るなど適正を担保すべき
手厚い手続を経た上で定められて公にされており,しかも,その内容は,前記2
(4)のとおりであって,多様な事例に対応すべくかなり複雑なものとなっている。
- 6 -
そうすると,建築士に対する上記懲戒処分に際して同時に示されるべき理由として
は,処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて,本件処分基準の適用関係
が示されなければ,処分の名宛人において,上記事実及び根拠法条の提示によって
処分要件の該当性に係る理由は知り得るとしても,いかなる理由に基づいてどのよ
うな処分基準の適用によって当該処分が選択されたのかを知ることは困難であるの
が通例であると考えられる。これを本件について見ると,本件の事実関係等は前記
2のとおりであり,本件免許取消処分は上告人X1の一級建築士としての資格を直
接にはく奪する重大な不利益処分であるところ,その処分の理由として,上告人
X1が,札幌市内の複数の土地を敷地とする建築物の設計者として,建築基準法令
に定める構造基準に適合しない設計を行い,それにより耐震性等の不足する構造上
危険な建築物を現出させ,又は構造計算書に偽装が見られる不適切な設計を行った
という処分の原因となる事実と,建築士法10条1項2号及び3号という処分の根
拠法条とが示されているのみで,本件処分基準の適用関係が全く示されておらず,
その複雑な基準の下では,上告人X1において,上記事実及び根拠法条の提示によ
って処分要件の該当性に係る理由は相応に知り得るとしても,いかなる理由に基づ
いてどのような処分基準の適用によって免許取消処分が選択されたのかを知ること
はできないものといわざるを得ない。このような本件の事情の下においては,行政
手続法14条1項本文の趣旨に照らし,同項本文の要求する理由提示としては十分
でないといわなければならず,本件免許取消処分は,同項本文の定める理由提示の
要件を欠いた違法な処分であるというべきであって,取消しを免れないものという
べきである。
そして,上記のとおり本件免許取消処分が違法な処分として取消しを免れないも
- 7 -
のである以上,これを前提とする本件登録取消処分もまた違法な処分として取消し
を免れないものというべきである。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したと
ころによれば,上告人らの請求は理由があるから,第1審判決を取り消し,上告人
らの請求をいずれも認容すべきである。
よって,裁判官那須弘平,同岡部喜代子の各反対意見があるほか,裁判官全員一
致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官田原睦夫の補足意見がある。
裁判官田原睦夫の補足意見は,次のとおりである。
私は,多数意見に与するものであるが,本件において反対意見が存することに鑑
み,多数意見の論拠等につき以下に私の理解するところを少しく敷衍するととも
に,反対意見をも踏まえて多数意見を補足する。
1 行政処分の理由付記に関する判例法理及び学説について
昭和30年代後半以降の幾多の判例(最高裁昭和36年(オ)第84号同38年
5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁,最高裁昭和57年(行ツ)
第70号同60年1月22日第三小法廷判決・民集39巻1号1頁,最高裁平成4
年(行ツ)第48号同年12月10日第一小法廷判決・裁判集民事166号773
頁ほか)の積重ねを経て,今日では,許認可申請に対する拒否処分や不利益処分を
なすに当たり,理由の付記を必要とする旨の判例法理が形成されているといえる
(この判例法理の適用は,税法事件に限られるものではない。)。そして,学説
は,この判例法理を一般に以下のとおり整理し,多数説はそれを支持している。そ
の法理は,平成5年に行政手続法が制定された後も基本的には妥当すると解されて
- 8 -
いる。
① 不利益処分に理由付記を要するのは,処分庁の判断の慎重,合理性を担保し
て,その恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせることにより,相
手方の不服申立てに便宜を与えることにある。その理由の記載を欠く場合には,実
体法上その処分の適法性が肯定されると否とにかかわらず,当該処分自体が違法と
なり,原則としてその取消事由となる(仮に,取り消した後に,再度,適正手続を
経た上で,同様の処分がなされると見込まれる場合であっても同様である。)。
② 理由付記の程度は,処分の性質,理由付記を命じた法律の趣旨・目的に照ら
して決せられる。
③ 処分理由は,その記載自体から明らかでなければならず,単なる根拠法規の
摘記は,理由記載に当たらない。
④ 理由付記は,相手方に処分の理由を示すことにとどまらず,処分の公正さを
担保するものであるから,相手方がその理由を推知できるか否かにかかわらず,第
三者においてもその記載自体からその処分理由が明らかとなるものでなければなら
ない。
2 行政手続法と不利益処分理由の提示
平成5年11月に制定された行政手続法は,「行政運営における公正の確保と透
明性の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資することを目的」として制定
されたものであり,同法は,不利益処分については,行政庁は,不利益処分の性質
に照らしてできる限り具体的な処分基準を定め,これを公にするように努めなけれ
ばならないとしている(同法12条)。
そして,行政庁は,不利益処分をなす場合には,その名宛人に対し,理由を示さ
- 9 -
ないで処分をすべき差し迫った必要がある場合を除き,その不利益処分と同時に当
該理由を示さなければならないと定める(同法14条1項)。
ところで,行政庁のなす不利益処分に関して裁量権が認められている場合に,行
政庁が同法12条に則って処分基準を定めそれを公表したときは,行政庁は,同基
準に羈束されてその裁量権を行使することを対外的に表明したものということがで
きる。
したがって,行政庁が不利益処分をなすには,原則としてその基準に従ってなす
とともに,その処分理由の提示に当たっては,同基準の適用関係を含めて具体的に
示さなければならないものというべきである。ただし,当該基準は行政庁自らが定
めるものであることからして,不利益処分をなすに当たり同基準によることが相当
でない場合にまで,行政庁が同基準に羈束されると解することは相当ではない。し
かし,その場合には,同基準によることができない合理的理由が必要であり,また
その理由についても,処分理由の提示において具体的に示されなければならないも
のというべきである。
そして,行政庁が不利益処分の処分基準を定めてそれを公表した後に,その基準
によることなく不利益処分をなし,あるいは,理由の提示においてその基準との関
係についての説明を欠くときは,前記1に述べたところの法理に基づいて違法との
評価を受けるものというべきである。
3 建築士法と処分基準
多数意見2(4)に記載するとおり,建築士法10条1項は,国土交通大臣又は都
道府県知事が建築士法等に違反した建築士に対して戒告,業務停止又は免許の取消
しの懲戒処分をすることができる旨定め,本件免許取消処分がなされた当時,同懲
- 10 -
戒処分の基準として,多数意見にて記載したとおり「建築士の処分等について」と
題する都道府県知事宛ての建設省住宅局長通知が発出され,それが公表されてい
た。
上記通知の法的性質は,通達であって,第三者の権利義務を直接規律するもので
はないが,建築士法に基づく懲戒処分の処分基準(本件処分基準)を詳細に定める
とともに,それが公表されていたのであるから,行政手続法12条に定める処分基
準として公表されていたものというべきものであり,建築士法に基づく懲戒処分を
なすに当たっては,本件処分基準に依拠するとともに,その処分理由において同基
準の適用関係を摘示することが求められていたといえる。
4 本件免許取消処分と本件処分基準及び処分理由の提示
本件免許取消処分においてなされた処分理由の提示(以下「本件処分理由の提
示」という。)は,多数意見2(2)に記載のとおりである。その理由の提示におい
て,本件処分基準との関係について何ら言及することがないばかりか,以下に記載
するとおり,上告人X1の処分対象行為の特定すら十分になされず,また,その提
示された内容は具体性を欠き極めて不十分なものである。多数意見は以下に述べる
違法事由のうち,(3)の点を捉えて本件免許取消処分の違法性を認めているが,私
は,以下の(1)及び(2)それぞれ単独でも,行政手続法14条が定める「理由の提
示」の要件を充足しているとは到底認められず,理由の提示を欠く処分として違法
であり,取消しを免れないものであると考える。
(1) 本件処分理由の提示において,上告人X1の処分対象行為の特定が十分に
なされていない。
ア 本件処分通知書の内容
- 11 -
本件免許取消処分の通知書(以下「本件処分通知書」という。)には,多数意見
2(2)に記載するとおり,上告人X1は番地を特定した土地を敷地とする7件の建
築物の設計者として,建築基準法令に定める構造基準に適合しない設計(以下「構
造基準不適合設計」という。)を行い,それにより耐震性等の不足する構造上危険
な建築物を現出させ,また,番地を特定した土地を敷地とする5件の建築物の設計
者として,構造計算書に偽装が見られる不適切な設計(以下「構造計算偽装」とい
う。)を行ったと記載されている。しかし,その記載からは,構造基準不適合設計
がされた7件の建築物の種類,規模,構造等は全く不明であり(本件記録上は,地
上9~15階,20~84戸のマンションであったことがうかがわれる。),ま
た,その設計時期,上告人X1の行った構造基準不適合設計のいかなる点が具体的
に問題となるのか,「耐震性等の不足する構造上危険な建築物」とあるが,どの程
度耐震性に影響が存するのか(取壊しまで必要なのか,相当規模の耐震補強工事を
必要とするのか,軽微な補強工事で足りるのか等)について何ら記載されていない
(原判決の認定によれば,上記7件の建築物は,倒壊,破損に類するような危険性
を有すると断定することはできないレベルのものである。)。
また,構造計算偽装に係る5件の建築物についても,その種類,規模,構造は全
く不明であり(本件記録上は,地上9~15階,21~88戸のマンションであっ
たことがうかがわれる。),その設計時期やその偽装と上告人X1の関わり合いの
内容(上告人X1は,構造計算は下請業者に外注していたもので,その偽装を見抜
くことは困難であったと主張している。),その偽装により,実際に建築された各
建物にどのような問題が生じたのか(取壊しが必要なのか,補強工事が必要なの
か,その場合,どの程度の工事が必要なのか等)について何ら記載されていない
- 12 -
(原判決も,上記5件の建築物の耐震強度については認定していない。)。
イ 違反設計建築物自体の特定の不十分及び設計時期の不記載について
上告人X1は,本件免許取消処分の対象である12件の建築物の設計に関わって
いるから,その建築物の内容や設計時期は当然に認識しているところではある。し
かし,前記1④に記載したとおり,理由付記は相手方に処分の理由を示すにとどま
らず公正さを担保するものであって,第三者においても,その記載自体からその処
分理由が明らかとなるものでなければならないことからすれば,本件処分通知書に
おける建築物の特定は極めて不十分であり,また,設計が行われた時期が特定され
ていない点は,理由付記の基礎となる事実の特定を欠くものといわざるを得ない。
なお,設計時期の点は,本件処分基準において,法違反の状態が長期にわたる場
合や常習的に行っている場合には,違反点数の加算事由とされ,他方,「同一の処
分事由に該当する複数の行為については,時間的,場所的接着性や行為態様の類似
性等から,全体として一の行為と見うる場合は,単一の行為と見なしてランキング
することができる」とされていることからして,違反行為を評価する上でも重要な
要素をなすものである。
ウ 違反内容の記載について
アにおいて指摘したとおり,本件処分通知書に記載されている違反行為の内容は
極めて抽象的であって,その違反の具体的内容は明らかではない。仮に,上告人
X1において,本件免許取消処分の基礎とされた違反行為の内容に争いがない場合
であっても,前記1④に記載したとおり,不利益処分の理由提示においては,違反
行為の具体的な内容が,第三者においても認識できるものでなければならないとこ
ろ,本件処分通知書の記載内容からは,専門家たる建築士においても,上告人X1
- 13 -
の行った違反行為の具体的内容を推知することは到底できないものである。
エ 小括
以上述べたところからして,本件処分理由の提示は,前記1④に記載したところ
の要件を満たしておらず,違法との評価を受けざるを得ないものというべきであ
る。
(2) 本件処分理由の提示の内容は,本件処分基準との関連性の点を除いても,
本件免許取消処分の重大性と対比して,理由の提示としては極めて不十分であると
いわざるを得ない。
本件免許取消処分は,上告人X1の建築士免許を取り消すという同上告人自身に
とって極めて重大な処分であり,また,それに伴い同上告人が管理建築士を務める
上告会社の建築士事務所の登録が取り消されることにつながるという重大な処分で
あることからすれば,本件処分基準が定められていない場合であっても,その処分
理由として違反行為の内容を具体的に摘示し,その違反行為が建築士免許取消処分
に該当するだけの重大なものであることを,上告人X1をして十分に認識させるも
のでなければならないというべき筋合いである。殊に,同上告人は,本件免許取消
処分に係る聴聞手続の段階から,構造基準不適合設計及び構造計算偽装の本件処分
基準との適用関係を問題とするなど違反行為の性質や程度を争っていたことからす
れば,なおさらである。
また,本件免許取消処分の重大性に鑑みて,その処分理由は,その理由書を一読
した第三者においても,その処分が適正なものであることを容易に理解できるもの
でなければならない。
ところが,本件処分通知書に記載された処分理由は,上記のとおり,上告人X1
- 14 -
の設計に係る7件の建築物について構造基準不適合設計を行い,それにより耐震性
等の不足する構造上危険な建築物を現出させ,また5件の建築物について構造計算
偽装を行ったという処分の原因となる事実と,建築士法10条1項2号及び3号と
いう処分の根拠法条が示されているのみであり,上記に記載したような,本件免許
取消処分の重大性からして当然に求められる処分理由の詳細な提示を欠くものであ
る。
かかる不適切な処分理由の提示は,処分理由に求められる前記1②~④の要件を
満たすものとはいえず,違法との評価を受けざるを得ないものといえる。
なお,那須裁判官はその反対意見において,「(上告人X1が行った)各設計行
為につき建築の専門家である建築士の職責(建築士法2条の2)の本質的部分に関
わる重大な違法行為及び不適切な行為があったことは明らかである。本件免許取消
処分通知書には,これらの違法行為及び不適切な行為の具体的事実が示され,また
処分の根拠となった法令の条項も示されているのであり,その違法・不適切な行為
の重大性とこれによって生じた深刻な結果とを直視することにより,本件懲戒規定
の定める3種類の処分の中から最も重い免許取消処分が選択されたことがやむを得
ないものであることは,専門家ならずとも一般人の判断力をもってすれば,容易に
理解できるはずである。」として,本件処分通知書の処分理由の記載は取消しの効
果に直結する瑕疵に当たらないとされる。
しかし,本件処分通知書に記載された処分理由は,本件免許取消処分に係る事実
関係を争っている上告人X1の主張に何ら応答するものではなく,また,同業者た
る建築士においても,同上告人が具体的にいかなる非違行為を行ったのかが一読し
て明らかなものとは到底いえないのであって,同意見にはその前提において賛成し
- 15 -
難い。
(3) 本件免許取消処分の理由と本件処分基準の適用関係の摘示について
本件免許取消処分においては,前記3に記載したとおり,本件処分基準が適用さ
れるのであるから,本件処分通知書には,処分理由として,上告人X1の建築士法
違反等の行為と本件処分基準の適用関係について具体的な摘示が必要とされるにも
かかわらず,本件処分通知書にはその記載を全く欠いているのである。
この点に関して原判決は,構造基準不適合設計に係る7件の建築物と構造計算偽
装に係る5件の建築物につき,それぞれ本件処分基準を当てはめると免許取消処分
の要件を満たしていると判示するが,上記のとおり本件では上告人X1の行った違
反行為の具体的内容が特定されていないのにかかわらず,その特定されていない行
為を対象として,判決理由中で本件処分基準の適用関係につき論じることは相当と
はいえない。
ところで,那須裁判官はその反対意見において,行政手続法12条1項は,行政
庁に不利益処分に関する処分基準を設定し公表する努力義務を課しているにすぎな
いから,「行政庁が,適用関係を理由中に表示することまで必要ないと判断して,
これを前提とした処分基準を設定することもその裁量権の範囲内に含まれると解す
る余地も十分ある。むしろ,そう解することが前記努力義務規定ともよく整合し,
現実に対応した柔軟な処理を可能にすることになると考える。」と主張される。
行政庁が,不利益処分の処分基準を定めた上でそれを一切公表せず(そのこと自
体,行政手続法12条1項の趣旨に反する。),全くの内部的な取扱基準として運
用する場合には,那須裁判官の上記の見解も成り立ち得るといえる。しかし,行政
庁が不利益処分の処分基準を定めてそれを公表することは,前記2に述べたとお
- 16 -
り,当該行政庁は,不利益処分をなすに当たっては,特段の事情がない限りその処
分基準に羈束されて手続を行うことを宣明することにほかならないのである。そし
て,一旦,不利益処分は自らが定めた処分基準に従って行うことを宣明しながら,
その基準に拠ることなく現実に対応した柔軟な処理をすることもできると解するこ
とは,行政手続の透明性に背馳し,行政手続法の立法趣旨に相反するものであっ
て,上記の見解には到底賛同できない。
(4) 小括
以上検討したとおり,本件処分理由の提示は,多数意見にて指摘するとおり,上
告人X1の行った違反行為と本件処分基準の適用関係についての記載を欠く点にお
いて,行政手続法14条1項本文の要求する理由の提示として不十分であるのみな
らず,前記(1),(2)に記載した諸点からしても,同条の要求する理由の提示として
不十分であって,取消しを免れないものというべきである。
なお,那須裁判官は,多数意見のように,当審で原判決を破棄し自判により上告
人らの請求を認容して本件免許取消処分を取り消しても,処分行政庁が,前回と同
様な懲戒手続により,再度同様の免許取消処分を行うこともあり得るところ,これ
に要する時間,労力及び費用等の訴訟経済の問題を考慮すれば,逆の評価をせざる
を得ない面もある,と主張される。
しかし,そのような諸点をも考慮の対象とした上で,前記1に述べたように行政
処分において手続の公正さは貫かれるべきであるとする判例法理が,永年の多数の
下級審裁判例や前記1に記載した最高裁判例の積重ねによって形成されてきたので
あり,行政処分の正当性は,処分手続の適正さに担保されることによって初めて是
認されるのであって,適正手続の遂行の確立の前には,訴訟経済は譲歩を求められ
- 17 -
てしかるべきである。
5 聴聞手続との関係について
那須裁判官は,その反対意見において,上告人X1は,本件免許取消処分に先立
って行われた聴聞の審理が始まるまでには,自らがどのような基準に基づき,どの
ような不利益処分を受けるかは予測できる状態に達しているはずであり,聴聞の審
理の中で更に詳しい情報を入手できるとされ,このような場合にもなお,不利益処
分の理由中に一律に処分基準の適用関係を明示しなければ処分自体が違法になると
の原則を固持しなければならないものか,疑問が残る,とされる。
しかし,不利益処分に理由付記を必要とする判例法理は,前記1④に記したとお
り,相手方がその理由を推知できるか否かにかかわらないとするものであって,聴
聞手続において上告人X1が自らの不利益処分の内容を予測できたか否かは,理由
付記を必要としない理由とはなり得ないのである。
それに加えて本件の聴聞手続では,本件記録による限り,国土交通大臣は上告人
X1に対し,本件処分通知書記載の理由と同旨の事項を告知したことが認められる
にすぎず,同上告人の主張によれば,同上告人が本件処分基準の適用関係について
質問したのに対しては,何ら具体的な応答がなされなかったというのであって,那
須裁判官の反対意見の前提とされるところが本件の聴聞手続において満たされてい
ないのであるから,本件において聴聞手続が行われたことをもって,本件処分通知
書の理由記載の不備の瑕疵が治癒され得るとは到底解し得ないのである。
裁判官那須弘平の反対意見は,次のとおりである。
1 本件処分理由の適法性
本件免許取消処分通知書においては,上告人X1が設計者として,7件の建築物
- 18 -
につき建築基準法令に定める構造基準に適合しない設計を行って耐震性等の不足す
る構造上危険な建築物を現出させた上,更に5件の建築物につき構造計算書に偽装
が見られる不適切な設計を行った,という二つの類型の行為が挙げられている。
指摘されるような構造基準に達しない設計や構造計算書における偽装が存在した
ことを前提とすれば,上記各設計行為につき建築の専門家である建築士の職責(建
築士法2条の2)の本質的部分に関わる重大な違法行為及び不適切な行為があった
ことは明らかである。本件免許取消処分通知書には,これらの違法行為及び不適切
な行為の具体的事実が示され,また処分の根拠となった法令の条項も示されている
のであり,その違法・不適切な行為の重大性とこれによって生じた深刻な結果とを
直視することにより,本件懲戒規定の定める3種類の処分の中から最も重い免許取
消処分が選択されたことがやむを得ないものであることは,専門家ならずとも一般
人の判断力をもってすれば,容易に理解できるはずである。
本件では,処分基準が設定・公表されていることから,その「適用関係」表示の
要否をめぐり後述のとおりの難しい問題が生じている。しかし,本件と同様な事案
において,仮に処分基準がない場合を想定してみると,処分通知の事実記載自体か
ら免許取消しという結論に至ったことに格別の違和感を持たず,これを了解する者
が大半を占めるのではないか。結論として,裁量権の逸脱・濫用等の誤りないしこ
れに関する手続違背の主張を容れなかった原審判断を支持したい。
2 処分基準の「適用関係」記載の要否
本件では,行政手続法12条1項に基づき,本件処分基準(「建築士の処分等に
ついて」と題する建設省住宅局長通知(平成11年12月28日建設省住指発第7
84号))が設定・公表されている。そこで,本件処分基準の存在が,上記1の判
- 19 -
断に影響を与え,あるいは結論を左右することになるかどうかが問題となる。結論
から先に述べると,一般論としてはともかく,本件の事実関係を前提とする限り,
上記1で述べたところを変更する必要はないと考える。すなわち,
(1) 本件処分基準は,「建築士の懲戒処分の強化」を図ることを目的とし,
「迅速かつ厳正」に処分を行うことを基本方針としている(通知本文1項)。同2
項(建築士の懲戒処分等の基準)には「建築士の処分等の内容の決定は,別表第1
に従い行うこと。」と明記されているが,理由の提示に関しては,3項(処分等に
伴う措置)及び4項(報告等)等にも全く記載されていない。そして,本件処分基
準の内容を見ても,後記(2)のとおり,処分ランクの算定をどうするかを中心とす
る技術的なものにとどまり,その適用関係を名宛人や他の外部関係者に知らしめる
ことに特別な意義を見いだせる内容のものとなっていないように読める。その結
果,本件処分基準を定めた上記建設省住宅局長通知が,果たして「適用関係」まで
理由中に表示することを求める趣旨で作られたものなのかどうかについては疑問が
湧いてくるのである。
もっとも,処分基準については,一旦設定・公表された後は,通達等による場合
でも,外部的効果ないし自己拘束力を持つことになるとして,処分行政庁に一律に
同基準を反映した理由の提示義務を認める見解も有力に主張されている。しかし,
もともと,不利益処分に関する処分基準については,行政庁はこれを設定・公表す
る努力義務を負うにとどまるものとされている(行政手続法12条1項)。そうす
ると,行政庁が,適用関係を理由中に表示することまで必要ないと判断して,これ
を前提とした処分基準を設定することもその裁量権の範囲内に含まれると解する余
地も十分ある。むしろ,そう解することが前記努力義務規定ともよく整合し,現実
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に対応した柔軟な処理を可能にすることになると考える。
(2) 本件処分基準に関し,多数意見が明示すべしと主張する「適用関係」とは
何か。少なくとも,以下の①及び②の判断作業を含むものと理解できる。
① 本件処分基準別表第1の(2)本文を適用すべき場合にとどまるものか,それ
ともただし書を適用することも可能な場合(対象となる行為が故意又は過失による
もので,建築物の倒壊等,結果が重大であるときに限られる。)に当たるのか,に
ついて判別する作業。
② 上記判別の結果に対応して,本文を適用すべき場合には,表2(ランク表)
記載の処分ランクを基本として,表3(情状等による加減表)記載の情状に応じて
加減を行ってランクを決定した上で,表4(処分区分表)に従い文書注意,戒告,
業務停止及び免許取消しの中から処分内容を選択・決定する作業。ただし書を適用
すべき場合には,直接(上記処分ランクの決定作業を省いて),業務停止3月若し
くは6月以上又は免許取消しの中から相当な処分を決定する作業。
上記の意味での「適用関係」を処分理由中に示すためには,本文を適用するか,
それともただし書を適用することもできるのかの判別に始まり,本文を適用する場
合の各種処分ランクの算定方法に至るまで,相当複雑な法的解釈・適用に類する作
業をしなければならない。その作業の一端は,第1審判決及び原判決からうかがう
ことができるが,これらの判示部分は,表2記載の処分ランクの算定及び表4によ
る処分内容の決定を中心とするものに限られていて,表3の情状による加減に関す
る作業にまで及んでいない。しかし,仮に適用関係を表示するとなると,表3の情
状による加減についても表示する必要が生じてくる。そのためには,処分ランクの
数値の算定だけではなく,情状による加減の根拠となる具体的事実についても記載
- 21 -
せざるを得ない。したがって,一口に「適用関係」を示すといっても,その作業は
相当複雑な内容のものとなり,それだけ時間と労力を要するものになる。結果とし
て,適用関係の表示に誤りや欠落が発見されることも生じ,これに対して処分の効
果等を争って訴訟に及ぶ者も出てくる可能性がある。以上のことを勘案すると,本
件の事実関係の下で「適用関係」を理由中に表示する必要性と合理性の存否につい
ては,なお疑問があり,多数意見にたやすく賛同することはできない。
(3) 原判決は,適用関係の表示の要否につき,行政手続法12条1項が努力義
務を定めたものにすぎないとした上で,「この条項が存在するからといって,直ち
に,行政処分に際し,その理由として,処分基準の内容及び適用関係まで提示しな
ければならないということにはならない。」と判示している。また,訴訟の中での
本文とただし書との間での「理由の差替え」の当否の点に関連してではあるが,
「本件処分基準は,国土交通大臣が処分内容を決定するための内部基準にすぎず,
いわば処分内容を決定するための道具ともいうべきものである」と指摘し,国土交
通大臣がただし書によって本件免許取消処分をした場合であっても,審理の範囲が
ただし書の処分要件を充足する事実の存否に限られると解する理由はない旨判示し
ている。これらの判示部分は,問題とされている処分基準の設定・公表が努力義務
とされていることを重視し,通達の作用の限界をも勘案して,処分基準の適用関係
の表示の要否及びその前提としての本文とただし書の関係について柔軟に考える点
で,上記(1)及び(2)に述べたところと発想を共通にするものを含み,評価に値する
と考える。
(4) 以上,検討したところを総合すれば,本件処分理由の中で本件処分基準の
適用関係を明示していなければ,常に行政手続法14条1項違反等の手続違背が生
- 22 -
じるとまではいえないと考える。
3 行政手続法の下での処分基準の位置付け
上記2に述べた見解を採ることに関連して,行政手続法の下で不利益処分のため
の処分基準をどう位置付けるべきか,やや一般論にわたるが,私の考えているとこ
ろを要約して記しておきたい。
(1) 不利益処分に関する処分基準の機能としては,行政庁の判断の慎重と合理
性を担保してその恣意を抑制すること,及び処分の理由を名宛人に知らせて不服の
申立てに便宜を与える点が強調されることが多い。しかし,処分基準は,これと並
んで(あるいは,これに先行してというべきか),処分の基準を設けてこれを行政
機関内部に周知徹底させることで,不利益処分を厳正かつ迅速に遂行することに寄
与し,さらに,不利益処分に先立って行われる聴聞の審理に際し,審理の進行及び
処分の内容を予測するための有力な指針ともなる。このように,処分基準は,不利
益処分をめぐる手続の各段階で,多様な形で機能するものであるから,これが設定
・公表されているという一事から,直ちに理由提示においても基準に対応して細か
い事実関係や適用関係まで明示することを必要とすると解したり,あるいはこれを
欠くときは一律に取消事由となるとの解釈を導き出すことは性急かつ硬直にすぎて
賛成できない。処分基準といっても不利益処分の対象いかんで多様なものが想定で
き,その中には適用関係まで明示しなければ理由の体を成さないものから,全くそ
の必要のないものまで存在し得る。行政手続法12条1項及び14条1項の下で
は,理由提示の程度につき,多様な内容のものが併存することを認めるべきであろ
う。
(2) 不利益処分に先行して行われる聴聞手続の審理では,名宛人となる者が,
- 23 -
自らの非違の有無・程度,不利益処分のあるべき内容等について相応の情報を取得
し,反論の機会を与えられる。この手続によって,処分行政庁による判断の慎重・
合理性を担保して恣意の抑制を図ることや,名宛人による不服の申立てに便宜を供
与することもある程度期待できる。この意味で,不利益処分の理由提示と聴聞と
は,その機能面において一部重なり合い,相互に補完する関係にあるといえる。
特に,一級建築士等の国家資格に基づく専門職に対する聴聞の場合,名宛人とさ
れる者は,自らの資格の得喪に直接関わる不利益処分に関する事項について,質量
ともに通常人とは異なる水準の詳細かつ高度な情報を入手できる環境にある。専門
職として遵守すべき職業倫理の問題に関しては,専門職の資格を保持していくため
に必要不可欠のものであるから,処分基準の内容も含め熟知していると考えてよい
であろう。したがって,不利益処分の名宛人となるべき一級建築士は,遅くとも聴
聞の審理が始まるまでには自らがどのような基準に基づきどのような不利益処分を
受けるかは予測できる状態に達しているはずであり,聴聞の審理の中で,更に詳し
い情報を入手することもできる。このような場合にもなお,不利益処分の理由中
に,一律に処分基準の適用関係を明示しなければ処分自体が違法となるとの原則を
固持しなくてはならないものか,疑問が残る。むしろ,具体的事案に応じてその要
否を決めることで足りると解すべきであろう。
これに対し,聴聞を経た後は,より詳しく理由を示すこともできるはずであると
の指摘もある。しかし,不利益処分の理由の中には,明示しないことが名宛人とさ
れる者の利益につながるものや,質的又は量的な側面から,文章化することに適し
ないものも含まれている。手続的正義も,常に書面の中に痕跡を残さなくてはこれ
を実現できない,ということではなかろう。
- 24 -
(3) 主として税法を中心にして形成されてきた行政処分の理由付記に関する一
連の判例が存在することは田原裁判官の補足意見が指摘するとおりである。しか
し,これらの税法関係の判例は,所得税法45条2項(当時)を始めとするいくつ
かの税法上の規定で,更正処分等の通知書に理由を付記すべき旨を定めるものがあ
ることを前提とし,その解釈として形成されてきたものである。当然のことなが
ら,これらの理由付記規定にはそれぞれの固有の立法趣旨・目的が存在していたこ
とから,前記各判例もこれらの法令の解釈として上記のような結論を導き出したも
のと解される。税法に関する案件では,理由に金額等の数値を詳細かつ正確に表示
することが必要であり,これを欠いては,不利益処分の理由としての体を成さない
ものが多いという特殊固有な事情もある。これに対し,建築士法等の懲戒に関する
不利益処分では,税法と同様な趣旨での金額等の数値に関する厳格な理由付記を求
める規定は存在せず,これを必要とする現実的な事情があるとも思えない。ただ,
後に制定された行政手続法14条1項によって,理由提示の義務が課せられている
というにとどまる。そして,同規定は,同法3条等が特に定める例外的場合を除
き,行政庁による不利益処分一般に適用されるべきものであるから,理由提示の内
容・程度についても,様々な態様の事実関係にも適用可能な柔軟な内容のものとし
て解釈され,運用されなくてはならない。この観点からすると,理由付記法理と称
されるものの中でも,「処分理由は,その記載自体から明らかでなければならな
い。」及び「理由付記は,相手方がその理由を推知できるか否かにかかわらず,第
三者においてもその記載自体から処分理由が明らかとなるものでなければならな
い。」とするもの(田原裁判官の補足意見1③及び④参照)については,行政手続
法12条1項及び14条1項の下で,税法分野以外の不利益処分に関してそのまま
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妥当するものと解することに慎重でなくてはならないと考える。
4 訴訟経済の視点
本件では,多数意見のように,当審で原判決を破棄し自判により上告人らの請求
を認容して本件免許取消処分を取り消すことも,事例判断の一つとして論理的に採
り得ない話ではない。しかし,この場合,処分行政庁が前回と同様な懲戒手続によ
り,理由中で処分基準の適用関係を明示した上で,再度同様な内容の免許取消処分
を行い,更に訴訟で争われる事態が生じることもあり得る。このような事態も手続
的正義の貫徹という視点からは積極的に評価できる面もあろうが,これに要する時
間,労力及び費用等の訴訟経済の問題を考慮すれば逆の評価をせざるを得ない面も
ある。以上のことをも考慮すれば,本件では,原審の判断を維持するのを相当とす
べきであり,これと異なる多数意見には賛成できない。
裁判官岡部喜代子は,裁判官那須弘平の反対意見に同調する。
(裁判長裁判官 岡部喜代子 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫 裁判官
大谷剛彦 裁判官 寺田逸郎)
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はみだし自販機住民訴訟(不作為の違法確認) 最高裁H16.4.23

2014-11-17 23:00:00 | 行政法学
 はみだし自販機住民訴訟(不作為の違法確認) 最高裁H16.4.23


***********************


事件番号

 平成12(行ヒ)246



事件名

 不作為の違法確認等請求事件



裁判年月日

 平成16年4月23日



法廷名

 最高裁判所第二小法廷



裁判種別

 判決



結果

 棄却



判例集等巻・号・頁

 民集 第58巻4号892頁




原審裁判所名

 東京高等裁判所



原審事件番号

 平成7(行コ)106



原審裁判年月日

 平成12年3月31日




判示事項

 1 権原に基づかない道路の占有と道路管理者の占有者に対する占用料相当額の債権の取得
2 東京都が自動販売機を都道にはみ出して設置した者に対して占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を行使しないことが違法ではないとされた事例



裁判要旨

 1 道路が権原なく占有された場合には,道路管理者は,占有者に対し,占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得する。

2 道路占用許可を受けることなく都道にはみ出して設置されたたばこ等の自動販売機が約3万6000台もあったこと,その1台ごとに債務者を特定して債権額を算定するには多くの労力と多額の費用を要するが,1台当たりの占用料相当額は少額にとどまること,東京都は,対価を徴収することよりも,上記自動販売機の撤去という抜本的解決を優先させる必要があると判断したこと,上記自動販売機を設置した販売商品の製造業者が,東京都の指導に応じ,費用の負担をして上記自動販売機を撤去したことなど判示の事実関係の下においては,東京都がその業者に対して上記自動販売機の設置による都道占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を行使しないことは,違法ではない。



参照法条

 道路法(平成12年法律第106号による改正前のもの)32条1項,道路法(平成11年法律第87号による改正前のもの)39条1項,道路法施行令(平成11年政令第352号による改正前のもの)19条の4第1項,民法703条,民法709条,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号,地方自治法施行令171条の5第3号,東京都道路占用料等徴収条例(昭和27年東京都条例第100号)2条


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http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/310/052310_hanrei.pdf
判決文 全文

         主    文
       本件上告を棄却する。
       上告費用は上告人らの負担とする。

         理    由
 上告代理人浅野晋,同伊佐山芳郎,同山本政明,同三枝基行,同原勝己の上告受
理申立て理由(排除されたものを除く。)について
 1 本件は,東京都の住民である上告人らが,自動販売機で販売されるたばこ又
は清涼飲料水等の商品の製造業者(以下「商品製造業者」という。)である被上告
人らは自動販売機を東京都の管理する都道に権原なくはみ出して設置し,これによ
って東京都は都道の占用料相当額の損害を被ったとして,地方自治法(平成14年
法律第4号による改正前のもの。以下同じ。)242条の2第1項4号に基づき,
東京都に代位して,被上告人らに対し,その損害賠償又は不当利得返還を請求する
住民訴訟である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 「D」,「E協議会」,「F協議会」などの市民団体(以下「D等」とい
う。)は,自動販売機が道路にはみ出して設置されることは通行の妨害になり,ま
た,酒及びたばこの自動販売機は未成年者の飲酒喫煙の防止の観点から望ましくな
いなどとして,都道にはみ出して設置された自動販売機(以下「はみ出し自動販売
機」という。)を撤去させるための活動を始めることとし,平成2年8月から9月
にかけて行った調査の結果を踏まえ,同年10月4日,東京都その他の関係行政機
関,酒類及びたばこの製造業者等に対し,はみ出し自動販売機の撤去を促す趣旨の
申入れをした。さらに,D等は,被上告人らを含む商品製造業者に対し,はみ出し
自動販売機の撤去を要請するなど,はみ出し自動販売機の撤去運動を進めた。
 (2) 東京都は,D等の前記申入れを受けて,平成2年10月末日ころ,自動販
- 1 -
売機関係団体に対し,はみ出し自動販売機の移設,撤去等の是正措置をとることを
要請した。
 次いで,東京都が,同3年1月から12月にかけて,道路延長約604㎞にわた
り,はみ出し自動販売機のサンプル調査を実施したところ,同4年6月,1539
台が道路にはみ出していることが判明した。そこで,東京都は,上記調査結果を受
けて,商品製造業者及びその上部団体並びに自動販売機関係団体に対し,是正指導
をするとともに,商品製造業者に対し,はみ出し自動販売機の実態を把握した上で
その是正計画を同5年3月末日までに書面で提出することを要請した。さらに,東
京都は,同年5月14日,商品製造業者から提出された実態調査及び是正計画につ
いての報告書をまとめるとともに,個々のはみ出し自動販売機についてその管理者
を特定することは困難で,そのためには多数の人員と多額の費用を要すると想定さ
れるものであったことから,関係団体や商品製造業者に対して協力を要請し,はみ
出し自動販売機の撤去等の是正措置の促進を指導した。
 さらに,東京都は,同年10月20日から同年12月10日にかけて,再三にわ
たり,商品製造業者及びその上部団体並びに小売店等に対し,はみ出し自動販売機
の撤去等の是正措置を速やかに実施するように,その方法,費用負担,期限,関係
業者の協力等を含めて具体的かつ明示的な指導をした。
 (3) 被上告人らは,D等の前記申入れを受け,また,上部団体や東京都等の関
係行政機関からの指導を受けて,はみ出し自動販売機の撤去等によりはみ出しの是
正を進めようとしたが,道路敷と私有地との境界が明確でないこと,他のはみ出し
物件と自動販売機との取扱いの不平等,是正に必要な費用負担,是正不可能な場合
の取扱いなど数多くの問題点があったこと,また,自動販売機の利便性や有用性を
理由として,小売店のほか一般人にも抵抗感があったことなどから,その撤去は,
当初必ずしも円滑に進まなかった。しかし,東京都は,当初の方針を変えず,継続
- 2 -
して被上告人らの協力を得てその目的の達成を目指し,これを受けた被上告人らも
,小売店等の説得に努めるとともに,是正に必要な費用の相当部分を負担するなど
東京都の是正指導に対して極めて積極的に対応し,協力を続けた。その結果,本件
において上告人らの指摘する原判決別紙自動販売機の目録(以下「本件目録」とい
う。)の1,3ないし5記載の各自動販売機については,平成5年11月までに撤
去され,また,その当時約3万6000台もあった東京都内のはみ出し自動販売機
のほとんどが同6年初めころまでに撤去された。
 (4) 被上告人B1株式会社は本件目録1記載の自動販売機を,被上告人B2株
式会社は本件目録3及び4記載の各自動販売機を,また,被上告人B3株式会社は
本件目録5記載の自動販売機を,それぞれ遅くとも平成5年3月までに,道路占用
許可を受けることなく都道にはみ出して設置した。
 その後,被上告人B1株式会社は,同年10月20日,本件目録1記載の自動販
売機を都道敷から撤去した。次いで,被上告人B2株式会社は,同年11月12日
に本件目録3記載の自動販売機を,同月16日に本件目録4記載の自動販売機をそ
れぞれ都道敷から撤去した。また,被上告人B3株式会社は,同月12日,本件目
録5記載の自動販売機を都道敷から撤去した。
 (5) 上告人らが本件訴訟において請求する平成5年3月23日又は同年4月1
日から上記撤去の日までの都道の権原のない占有を理由とする損害賠償又は不当利
得の額は,本件の自動販売機がいずれも道路法32条1項1号及び東京都道路占用
料等徴収条例(昭和27年東京都条例第100号)別表の広告塔に該当し,その設
置場所は同別表の特別区の一級地に該当するので,占用料相当額は1㎡につき1年
当たり2万0200円(1か月当たり約1683円)であるなどとして,その1か
月当たりの金額に基づいて算出したものであった。
 3 道路法32条1項は,道路に広告塔その他これに類する工作物等を設け,継
- 3 -
続して道路を使用しようとする場合においては,道路管理者の許可を受けなければ
ならないと定めている。そして,同法39条1項は,道路管理者は道路の占用につ
き占用料を徴収することができる旨を定めており,この規定に基づく占用料は,都
道府県道に係るものにあっては道路管理者である都道府県の収入となる(道路法施
行令19条の4第1項)。このように,道路管理者は道路の占用につき占用料を徴
収して収入とすることができるのであるから,【要旨1】道路が権原なく占有され
た場合には,道路管理者は,占有者に対し,占用料相当額の損害賠償請求権又は不
当利得返還請求権を取得するものというべきである。

 これを本件についてみると,被上告人らは,前記のとおり,それぞれ,本件目録
の1,3ないし5記載の各自動販売機を都道にはみ出して設置した日から撤去した
日までの間,何らの占有権原なくこれらの自動販売機を設置してはみ出し部分の都
道を占有していたのであるから,東京都は,被上告人らに対し,上記各占有に係る
占用料相当額の損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を取得したものというべき
である。
 4 地方公共団体が有する債権の管理について定める地方自治法240条,地方
自治法施行令171条から171条の7までの規定によれば,客観的に存在する債
権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず,原則として,地方公共
団体の長にその行使又は不行使についての裁量はない。しかしながら,地方公共団
体の長は,債権で履行期限後相当の期間を経過してもなお完全に履行されていない
ものについて,「債権金額が少額で,取立てに要する費用に満たないと認められる
とき」に該当し,これを履行させることが著しく困難又は不適当であると認めると
きは,以後その保全及び取立てをしないことができるものとされている(地方自治
法施行令171条の5第3号)。
 これを本件についてみると,前記事実関係等の下において,上告人ら主張のとお
- 4 -
りにはみ出し自動販売機の占用料相当額を算定するとしても,その金額は,占用部
分が1台当たり1㎡とすれば,1か月当たり約1683円にすぎず,他方,はみ出
し自動販売機は当時約3万6000台もあったというのであるから,東京都が,は
み出し自動販売機全体について考慮する必要がある中において,1台ごとに債務者
を特定して債権額を算定することには多くの労力と多額の費用とを要するものであ
ったとして,本件について,「債権金額が少額で,取立てに要する費用に満たない」
と認めたことを違法であるということはできない。また,はみ出し自動販売機に係
る最大の課題は,それを放置することにより通行の妨害となるなど望ましくない状
況を解消するためこれを撤去させるべきであるということにあったのであるから,
対価を徴収することよりも,はみ出し自動販売機の撤去という抜本的解決を図るこ
とを優先した東京都の判断は,十分に首肯することができる。そして,商品製造業
者が,東京都に協力をし,撤去費用の負担をすることによって,はみ出し自動販売
機の撤去という目的が達成されたのであるから,そのような事情の下では,東京都
が更に撤去前の占用料相当額の金員を商品製造業者から取り立てることは著しく不
適当であると判断したとしても,それを違法であるということはできない。
 以上によれば,【要旨2】本件の事実関係の下では,東京都が被上告人らに対し
て前記損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を行使しなかったからといって,こ
れを違法ということはできない。これと同旨の原審の判断は正当として是認するこ
とができ,論旨は採用することができない。なお,その余の請求に関する上告につ
いては,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却する
こととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 滝井繁男)
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里道の近くに居住する者が当該里道の用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないとされた判例

2014-11-16 23:00:00 | 行政法学
  里道の近くに居住する者が当該里道の用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないとされた事例 最高裁S62.11.24

********************************

事件番号

 昭和62(行ツ)49



事件名

 認定外道路用途廃止処分取消



裁判年月日

 昭和62年11月24日



法廷名

 最高裁判所第三小法廷



裁判種別

 判決



結果

 棄却



判例集等巻・号・頁

 集民 第152号247頁




原審裁判所名

 東京高等裁判所



原審事件番号

 昭和61(行コ)59



原審裁判年月日

 昭和62年1月27日




判示事項

 里道の近くに居住する者が当該里道の用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないとされた事例



裁判要旨

 里道の近くに居住し、その通行による利便を享受することができる者であつても、当該里道の用途廃止により各方面への交通が妨げられるなどその生活に著しい支障が生ずるような特段の事情があるといえないときは、右用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しない。



参照法条

 行政事件訴訟法9条,国有財産法3条2項2号,建設省所管国有財産取扱規則17条


****************************
判決文全文

         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。

         理    由
 上告人の上告理由について
 本件里道が上告人に個別的具体的な利益をもたらしていて、その用途廃止により
上告人の生活に著しい支障が生ずるという特段の事情は認められず、上告人は本件
用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しないとした原審の認定判断は、
原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、原
判決に所論の違法はない。本件訴えを却下したからといつて憲法三二条に違反する
ものでないことは、当裁判所大法廷判決(昭和三二年(オ)第一九五号同三五年一
二月七日判決・民集一四巻一三号二九六四頁)の趣旨に徴して明らかである。本件
訴えが適法であることを前提として本件用途廃止処分の違憲をいう上告人の主張は、
失当であり、また、その余の違憲の主張はその実質において単なる法令違背の主張
にすぎないところ、原判決に法令違背のないことは、右に述べたとおりである。論
旨は、いずれも採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    坂   上   壽   夫
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    長   島       敦
- 1 -
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土地区画整理事業の事業計画決定の違法性は、換地処分の取消訴訟において主張することはできない

2014-11-15 23:00:00 | 行政法学
最判平成20・9・10土地区画整理事業計画決定の処分性

違法性の承継の問題(調査官解説より)

 違法性の承継が認められるのは、先行行為と後行行為が特定の行政目的を達成するための一連の手続を構成するものであって、両者が相結合して一つの法的効果を完成させる関係にある場合とされる。

 違法性の承継を認めると、公定力ないし取消訴訟の排他的管轄の趣旨に反することになるから、上記の趣旨を犠牲にしてもなお、国民の権利救済のために違法性の承継を認める必要があると判断される例外的な場合に限られると解するべきである

 土地区画整理事業の事業計画の決定は、土地区画整理事業に係る手続の一環としてされるものではあるが、それ自体固有の法的効果をもつものであることなどからすると、事業計画の決定と換地処分等との関係につき、両者が相結合して一つの法的効果を完成させる関係にあるとはいえないだろう。

 また、利害関係者が多数に及び、法律関係の安定性が強く要請される土地区画整理事業において、公定力ないし取消訴訟の排他的管轄の趣旨を犠牲にしてまで、違法性の承継を認めることは相当でないと考えられる。
よって、土地区画整理事業の事業計画の決定の違法性は、換地処分の取消訴訟において主張することはできないというべきである。


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11月15日(日)午前、こども元気クリニック/月島第一小学校前5547-1191急病対応実施、インフル接種も可能

2014-11-14 17:39:09 | 日程、行事のお知らせ

11月15日(日) 午前 中央区月島3丁目 こども元気クリニック・病児保育室03-5547-1191急病対応致します。
 

 1)咳の風邪、2)お腹の風邪、3)お熱だけの風邪の3つのお風邪がそれぞれ、今、流行っています。
 お腹にくる嘔吐下痢のお風邪が、特に増えてきているように感じます。

 急に寒くなって、気候の変化に体が対応できていないことが、流行の原因のひとつと考えます。

 
 体調崩されておられませんか?
 


 おとなも、こどもの風邪をもらいます。
 そのような場合、お子さんとご一緒に、親御さんも診察いたしますので、お気軽にお声掛けください。



 
 なおったお子さんには、日曜日に、登園許可証も記載します。
 月曜日朝一番から登園できますように、ご利用ください。



 合わせて、平日なかなか時間が作れない場合でも、休日も、予防接種を実施いたしますので、ご利用ください。

 インフルエンザ予防接種(チメロサールの含有のない、より安全なものを使用しています。)も開始し、実施しています。
 
 
 お大事に。

こども元気クリニック・病児保育室
小坂和輝

中央区月島3-30-3
電話 03-5547-1191

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製品事故・不具合発生時において、告知・リコールなどの市場対応の判断基準

2014-11-13 22:00:00 | 倫理(医療倫理、弁護士倫理、企業倫理…)

 リコールなどの市場対応の判断基準


1)法令違反(狭い意味でのコンプライアンス)

2)事故原因の事実認定(製品起因か、消費者の誤使用か)

3)消費者視点の判断(CS=顧客満足)

4)社会的責任の視点からの判断(コンプライアンス、CSR)


 *法令違反の判断を前提として、
  事実にもとづき、消費者の受ける被害の重篤度・不満度・拡大性、
  社会の要請への適応を総合的に勘案して判断する。

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新着記事

2014-11-13 17:41:20 | ブログ目次 / イベント情報・会議日程

2015年(平成27年)に向けた法の動き

「条例」に求められる機能とは。住民のための地方自治であるために。

守れ!築地。11月11日、築地市場移転問題裁判、東京地裁16時~703号法廷

違法な都市計画変更により土地を収用されるXを救済する方法(事例研究行政法第2部問題3を題材に)

場外車券施設設置に対し大阪の医師が立ち上がった事件「サテライト大阪事件」に学ぶ

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2015年(平成27年)に向けた法の動き

2014-11-13 16:10:57 | シチズンシップ教育

 2015年の相棒が、届きました。

 残念ながら、多くの国民の反対にもかかわらず成立された特定秘密保護法も含まれています。

 個人的には、会社法、行政不服審査法の改正等に追いつきたいところ。





 

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「条例」に求められる機能とは。住民のための地方自治であるために。

2014-11-12 23:00:00 | 地方自治法
「条例」に求められる機能とは。



(1)  住民本位であること:住民のための地方自治

(2)  先導性を有すること:新たな問題、行政需要は地域で発生

(3)  地域的な問題を地域的に解決するものであること:法の抽象性、条例の具体性

(4)  地域の独自性を発揮するものであること:同じ地方公共団体はない

(5)  縦割り行政の総合化に資するものであること:大組織の縦割り、小組織の総合化

(6)  分権時代の要請に耐えうるものであること:自己責任


 各自治体が、その地域にあわせた独自の条例を制定し、子育て支援やまちづくりに役立てて行きたいものです。
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守れ!築地。11月11日、築地市場移転問題裁判、東京地裁16時~703号法廷

2014-11-11 10:21:19 | 築地を守る、築地市場現在地再整備
 11月11日(火)東京地裁16時~703号法廷で、築地市場移転問題の裁判が開催されます。

 移転候補地を土壌汚染がない価格で購入し、無駄に公金をしようしたことに対し、元都知事に返還請求することを東京都に求めています。


**************以下、原告メンバーのひとり、水谷さんから************************************


 11月11日(火)汚染地購入問題裁判。東京ガス残置汚染処理を都が負担

「築地市場移転問題」裁判のご案内


 東京都が汚染地を汚染地無しの価格で不正に購入し、汚染原因者東京ガスに処理費用の大半を免責した問題で、石原慎太郎元都知事に損害の賠償を求めるための裁判です。

 購入時期(2006年、2011年)に応じ二つの裁判が同時進行していますが、11日(火)2011年分についての公判があります。下記ご案内します。


■2011年汚染地購入(H23年分)公金返還訴訟

11月11日(火)16時~@東京地裁703号法廷

報告会(法廷終了後) 場所:弁護士会館予定(弁護士会館は地裁の隣にあります。



 東京ガスによる膨大な量の残置汚染があったにも関わらず、汚染無しの価格で土地を購入した結果、現時点で762億円(当初予算586億円)もの汚染対策費用が市場会計から支出されています。

 東京ガスは2007年、100億円を掛けた汚染対策工事を終了していますが、その内容は大量の汚染を残置させる、汚染の封じ込めに過ぎないものでした。都の条例に基づく対策であったので、都は当然対策内容を熟知していたにも関わらず、市場関係者や消費者に、豊洲市場用地はきれいになったと安全宣言を繰り返してきました。

 その後2008年の専門家会議下で行われた追加調査により大量の汚染が発覚しました。(ベンゼン4万3000倍など)対策費の差額486億円は本来汚染原因者の東京ガスに請求すべきところ、78億円の負担金で免責し、都は2011年に未購入分のすべて(大半が東京ガス所有分)を購入しました。


 11月8日の報道では、負担金78億円が決まる前に都は東京ガスに130億円の負担を求めていたことが記事になっています。結果的に50億円を減額するのですが、東京ガスは「都の工事費を負担する法的義務はないと主張」と書かれています。


 2005年、都は既に東京ガスと、大量の汚染を残置することを認める確認書を取り交わしています。この内容はずっと伏せられたままでしたが、朝日新聞に2010年(H22)1月5日記事で「汚染処理、都だけ負担も」「東ガス義務規定なし」とスクープされました。この圧倒的に東京ガスに有利な契約を結んだ担当者,前川あきお知事本局長(当時)は、直後に東京ガスの役員に天下り、現在は練馬区長です。

 この様に築地移転計画は当初から汚染の隠蔽が伴っていました。隠蔽を前提にしなければ、成り立たなかった計画とも言えます。その皺寄せは既に、汚染対策費や、事業費全体の増大に現れています。

 また流通問題など非民主的な計画の進め方についても、東京都は業界から猛烈な批判を浴び続けています。都の暴走を止めるためには消費者も市場関係者も、絶えず監視を続けることが最大の力となると信じます。

 裁判の傍聴にも是非ご参加下さい。

――――――――――以上報告)築地移転問題関連裁判の原告メンバー 水谷和子                  連絡先 mizunoyaka@ezweb.ne.jp


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選挙犯罪処刑者の選挙権等停止事件(最高裁大法廷判決S30.2.9)

2014-11-10 23:00:00 | 憲法学
 公選法252条違反の選挙犯罪者は、一定期間公職の選挙に関与することから排除するのは相当で、それは条理に反する差別待遇でも、不当に参政権を奪うものでもない旨判事しています。


*************************************
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/754/054754_hanrei.pdf

         主    文
     本件上告を棄却する。

         理    由

 弁護人池田克の上告趣意第一点について。

 公職選挙法の規定によれば、一般犯罪の処刑者と、いわゆる選挙犯罪(同法二五
二条一項、二項所定の罪)の処刑者との間において、選挙権被選挙権停止の処遇に
ついて、所論のような差違のあることは論旨主張のとおりである。論旨は、同法が
ひとしく犯罪の処刑者について、国民主権につながる重大な基本的人権の行使に関
して、右のごとく差別して待遇することは、憲法一四条及び四四条の趣旨に反し、
不当に国民の参政権を奪い、憲法の保障する基本的人権をおかすものである。よつ
て原判決が本件に適用した公職選挙法二五二条一項及び三項の規定は、ともに憲法
に違反するものであると主張する。
 しかしながら、同法二五二条所定の選挙犯罪は、いずれも選挙の公正を害する犯
罪であつて、かかる犯罪の処刑者は、すなわち現に選挙の公正を害したものとして、
選挙に関与せしめるに不適当なものとみとめるべきであるから、これを一定の期間、
公職の選挙に関与することから排除するのは相当であつて、他の一般犯罪の処刑者
が選挙権被選挙権を停止されるとは、おのずから別個の事由にもとずくものである。
されば選挙犯罪の処刑者について、一般犯罪の処刑者に比し、特に、厳に選挙権被
選挙権停止の処遇を規定しても、これをもつて所論のように条理に反する差別待遇
というべきではないのである。(殊に、同条三項は、犯罪の態容その他情状によつ
ては、第一項停止に関する規定を適用せず、またはその停止期間を短縮する等、具
体的案件について、裁判によつてその処遇を緩和するの途をも開いているのであつ
て、一概に一般犯罪処刑者に比して、甚しく苛酷の待遇と論難することはあたらな
い。)
- 1 -
 国民主権を宣言する憲法の下において、公職の選挙権が国民の最も重要な基本的
権利の一であることは所論のとおりであるが、それだけに選挙の公正はあくまでも
厳粛に保持されなければならないのであつて、一旦この公正を阻害し、選挙に関与
せしめることが不適当とみとめられるものは、しばらく、被選挙権、選挙権の行使
から遠ざけて選挙の公正を確保すると共に、本人の反省を促すことは相当であるか
らこれを以て不当に国民の参政権を奪うものというべきではない。
 されば、所論公職選挙法の規定は憲法に違反するとの論旨は採用することはでき
ない。
 同論旨第二点は量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由にあたらない。
また記録を精査しても、本件において、同四一一条を適用すべきものとはみとめら
れない。
 よつて同四〇八条により主文のとおり判決する。

 この判決は上告趣意第一点に対する裁判官井上登、同真野毅、同斎藤悠輔、同岩
松三郎及び同入江俊郎の意見を除くほか全裁判官の一致した意見によるものである。
 上告趣意第一点に対する裁判官井上登、同真野毅及び同岩松三郎の意見は、次の
とおりである。
 公職選挙法二五二条一項、三項の規定が憲法一四条、同四四条但書に違反するも
のでない(論旨第一点に対する判示参照)とする多数意見の見解そのものには敢え
て反対するものではない。しかし公職選挙法二五二条一項の規定はその明文上明ら
かなように同条項所定の公職選挙法違反の罪を犯した者が同条項所定の刑に処せら
れたということを法律事実として、その者が同条項所定の期間公職選挙法に規定す
る選挙権及び被選挙権を有しないという法律効果の発生することを定めているに過
ぎない。すなわち右の選挙権及び被選挙権停止の効果は前示法律事実の存すること
によつて法律上当然に発生するところなのであつて、右刑を言渡す判決において本
- 2 -
条項を適用しその旨を宣告することによつて裁判の効力として発生せしめられるも
のではないのである。尤も同条三項には「裁判所は情状に因り刑の言渡と同時に第
一項に規定する者に対し同項の五年間又は刑の執行猶予中の期間選挙権及び被選挙
権を有しない旨の規定を適用せず若しくはその期間を短縮する旨を宣告……するこ
とができる」と規定されているので、漫然とそれを通読すれば、恰も裁判所は右刑
の言渡と同時に常に必らず第一項の規定をその判決において適用すべきか否かを判
断しなければならないものの如く考えられるかも知れない。しかし、その法意は第
一項の規定の適用により法律上当然発生すべき法律効果を単に排除し得べきことを
定めたものに過ぎないものであつて、裁判所が右刑の言渡をなす判決において先ず
自ら第一項を適用してこれによつて同項所定の法律効果を発生せしむべきか否かを
判断しなければならないことを規定したものではないのである。この事は右第一項
と第三項との規定を対比しても容易に了解し得るばかりでなく、第三項には前示の
如く、「……適用せず」とあるのに引続いて「若しくはその期間を短縮する旨を宣
告……することができる」と併規されているのであつて、これによつて第一項の規
定の適用により当然発生すべき法律効果たる所定の期間を改めて短縮し得ることを
明確にしていることに徴して明らかであり、(この場合判決においてまず第一項の
規定を適用して一応五年間選挙権及び被選挙権を停止することとした上で、更に第
三項を適用して改めてその期間を短縮し得ることを規定したものでないことは勿論
である。)同条第二項の規定が所定の法律事実の存することによつて、判決による
宣告を待つまでもなく、法律上当然に第一項所定の五年の期間が十年となることを
定めていることによつても明白であろう。これを要するに公職選挙法二五二条一項
の規定は同条項所定の公職選挙法違反事件において裁判所が判決で適用すべき法文
ではなく、選挙の実施に当り当該処刑者が選挙権及び被選挙権を有するか否かを決
するに際してその適用が考慮さるべきものに外ならない。されば、仮りに右条項が
- 3 -
所論の理由により違憲であり、無効であるとしても選挙の実施に際し同条項該当者
として選挙権及び被選挙権を有しないものとして措置された場合にその行政処分に
対しこれを云為するは格別、同条項の適用そのものが全然問題とならない本件公職
選挙法違反事件において、しかも同条項を現に適用してもいない原判決に対して、
同条項の違憲を云為して法令違反ありというのは的なきに矢を射るの類に外ならな
い。この点に関する所論は上告適法の理由に当らないといわなければならない。
 また同条三項の規定は同条一項所定の選挙法違反事件において同条項所定の刑を
言渡す裁判所がこれを放置すれば同条項所定の法律効果が法律上当然に発生するか
ら、情状を斟酌してその緩和措置を講じ得べきことを定めたものであり、現に原判
決においても右第三項の規定を適用して被告人等に対して第一項所定の期間を二年
に短縮する旨を宣告している。すなわち被告人等は原審が右第三項の規定を適用し
て前示の措置に出でなかつたとすれば、同条第一項の規定により法律上当然に裁判
確定の日から五年間選挙権及び被選挙権を有しないものとせらるべかりしところを、
原審が右第三項の規定を適用したことによつて三年の停止期間を免除せられたので
あつて、これによつて被告人等は利益を受けこそすれ何等の不利益をも被つてはい
ないのである。それ故右第三項の規定が違憲であり同条項を適用した原判決を違法
と主張する所論は結局被告人等の為めに不利益に原判決の変更を求めるに帰し、上
告適法の理由とならない。
 されば論旨第一点はすべて上告適法の理由に該当しないのであつて、その理由の
有無に関して審判することを要しないものといわなければならない。
 上告趣意第一点に対する裁判官斎藤悠輔、同入江俊郎の意見は、次のとおりであ
る。
 本論旨が上告適法の理由とならないことは、井上、真野、岩松各裁判官の意見の
とおりである。仮りに上告理由となるものとしても、論旨は、選挙権、被選挙権が
- 4 -
国民主権につながる重大な基本権であり、憲法上法律を以てしても侵されない普遍、
永久且つ固有の人権であることを前提としている。なるほど、日本国憲法前文にお
いて、主権が国民に存することを宣言し、また、同法一五条一項、三項において、
公務員を選定することは、国民固有の権利であり、公務員の選挙については、成年
者による普通選挙を保障する旨規定している。従つて、選挙権については、国民主
権につながる重大な基本権であるといえようが、被選挙権は、権利ではなく、権利
能力であり、国民全体の奉仕者である公務員となり得べき資格である。
 そして、同法四四条本文は、両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれ
を定めると規定し、両議院の議員の選挙権、被選挙権については、わが憲法上他の
諸外国と異り、すべて法律の規定するところに委ねている。されば、両権は、わが
憲法上法律を以てしても侵されない普遍、永久且つ固有の人権であるとすることは
できない。むしろ、わが憲法上法律は、選挙権、被選挙権並びにその欠格条件等に
つき憲法一四条、一五条三項、四四条但書の制限に反しない限り、時宜に応じ自由
且つ合理的に規定し得べきものと解さなければならない。それ故、所論前提は是認
できない。その他公職選挙法二五二条の規定(選挙犯罪に因る処刑者に対する選挙
権及び被選挙権の停止)が憲法一四条、四四条但書に違反しないことについては、
多数説に賛同する。

  昭和三〇年二月九日

     最高裁判所大法廷

         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
- 5 -
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
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国会が法律を作らなかったことについて国家賠償責任が認められた重要判例。在外日本人選挙権訴訟

2014-11-09 23:00:00 | 憲法学
 国会が法律を作らなかったことについて国家賠償責任が認められた重要判例です。


 平成13(行ツ)82  在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件
平成17年9月14日  最高裁判所大法廷  判決  その他  東京高等裁判所


***********************最高裁ホームページ******************************************

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/338/052338_hanrei.pdf


         主    文

1 原判決を次のとおり変更する。
第1審判決を次のとおり変更する。
(1) 本件各確認請求に係る訴えのうち,違法確認請求に係る各訴えをいずれも却
下する。
(2) 別紙当事者目録1記載の上告人らが,次回の衆議院議員の総選挙における小
選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙に
おいて,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる
地位にあることを確認する。
(3) 被上告人は,上告人らに対し,各金5000円及びこれに対する平成8年1
0月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 上告人らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟の総費用は,これを5分し,その1を上告人らの,その余を被上告人の各
負担とする。

         理    由

 上告代理人喜田村洋一ほかの上告理由及び上告受理申立て理由について
 第1 事案の概要等
 1 本件は,国外に居住していて国内の市町村の区域内に住所を有していない日
本国民(以下「在外国民」という。)に国政選挙における選挙権行使の全部又は一
部を認めないことの適否等が争われている事案である(以下,在外国民に国政選挙
における選挙権の行使を認める制度を「在外選挙制度」という。)。
 2 在外国民の選挙権の行使に関する制度の概要
 (1) 在外国民の選挙権の行使については,平成10年法律第47号によって公
職選挙法が一部改正され(以下,この改正を「本件改正」という。),在外選挙制
- 1 -
度が創設された。しかし,その対象となる選挙について,当分の間は,衆議院比例
代表選出議員の選挙及び参議院比例代表選出議員の選挙に限ることとされた(本件
改正後の公職選挙法附則8項)。本件改正前及び本件改正後の在外国民の選挙権の
行使に関する制度の概要は,それぞれ以下のとおりである。
 (2) 本件改正前の制度の概要
 本件改正前の公職選挙法42条1項,2項は,選挙人名簿に登録されていない者
及び選挙人名簿に登録されることができない者は投票をすることができないものと
定めていた。そして,選挙人名簿への登録は,当該市町村の区域内に住所を有する
年齢満20年以上の日本国民で,その者に係る当該市町村の住民票が作成された日
から引き続き3か月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者について行
うこととされているところ(同法21条1項,住民基本台帳法15条1項),在外
国民は,我が国のいずれの市町村においても住民基本台帳に記録されないため,選
挙人名簿には登録されなかった。その結果,在外国民は,衆議院議員の選挙又は参
議院議員の選挙において投票をすることができなかった。
 (3) 本件改正後の制度の概要
 本件改正により,新たに在外選挙人名簿が調製されることとなり(公職選挙法第
4章の2参照),「選挙人名簿に登録されていない者は,投票をすることができな
い。」と定めていた本件改正前の公職選挙法42条1項本文は,「選挙人名簿又は
在外選挙人名簿に登録されていない者は,投票をすることができない。」と改めら
れた。本件改正によって在外選挙制度の対象となる選挙は,衆議院議員の選挙及び
参議院議員の選挙であるが,当分の間は,衆議院比例代表選出議員の選挙及び参議
院比例代表選出議員の選挙に限ることとされたため,その間は,衆議院小選挙区選
出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙はその対象とならない(本件改正後
の公職選挙法附則8項)。
- 2 -
 3 本件において,在外国民である別紙当事者目録1記載の上告人らは,被上告
人に対し,在外国民であることを理由として選挙権の行使の機会を保障しないこと
は,憲法14条1項,15条1項及び3項,43条並びに44条並びに市民的及び
政治的権利に関する国際規約(昭和54年条約第7号)25条に違反すると主張し
て,主位的に,①本件改正前の公職選挙法は,同上告人らに衆議院議員の選挙及び
参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において,違法(上記の
憲法の規定及び条約違反)であることの確認,並びに②本件改正後の公職選挙法は
,同上告人らに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙に
おける選挙権の行使を認めていない点において,違法(上記の憲法の規定及び条約
違反)であることの確認を求めるとともに,予備的に,③同上告人らが衆議院小選
挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙において選挙権を行使する権
利を有することの確認を請求している。
 また,別紙当事者目録1記載の上告人ら及び平成8年10月20日当時は在外国
民であったがその後帰国した同目録2記載の上告人らは,被上告人に対し,立法府
である国会が在外国民が国政選挙において選挙権を行使することができるように公
職選挙法を改正することを怠ったために,上告人らは同日に実施された衆議院議員
の総選挙(以下「本件選挙」という。)において投票をすることができず損害を被
ったと主張して,1人当たり5万円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払
を請求している。
 4 原判決は,本件の各確認請求に係る訴えはいずれも法律上の争訟に当たらず
不適法であるとして却下すべきものとし,また,本件の国家賠償請求はいずれも棄
却すべきものとした。所論は,要するに,在外国民の国政選挙における選挙権の行
使を制限する公職選挙法の規定は,憲法14条,15条1項及び3項,22条2項
,43条,44条等に違反すると主張するとともに,確認の訴えをいずれも不適法
- 3 -
とし,国家賠償請求を認めなかった原判決の違法をいうものである。
 第2 在外国民の選挙権の行使を制限することの憲法適合性について
 1 国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は,国民の国政
への参加の機会を保障する基本的権利として,議会制民主主義の根幹を成すもので
あり,民主国家においては,一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられる
べきものである。
 憲法は,前文及び1条において,主権が国民に存することを宣言し,国民は正当
に選挙された国会における代表者を通じて行動すると定めるとともに,43条1項
において,国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定
め,15条1項において,公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有
の権利であると定めて,国民に対し,主権者として,両議院の議員の選挙において
投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を保障している。そ
して,憲法は,同条3項において,公務員の選挙については,成年者による普通選
挙を保障すると定め,さらに,44条ただし書において,両議院の議員の選挙人の
資格については,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によ
って差別してはならないと定めている。以上によれば,憲法は,国民主権の原理に
基づき,両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加する
ことができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており,その趣旨を確た
るものとするため,国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解す
るのが相当である。
 憲法の以上の趣旨にかんがみれば,自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選
挙権について一定の制限をすることは別として,国民の選挙権又はその行使を制限
することは原則として許されず,国民の選挙権又はその行使を制限するためには,
そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないと
- 4 -
いうべきである。そして,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保し
つつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる
場合でない限り,上記のやむを得ない事由があるとはいえず,このような事由なし
に国民の選挙権の行使を制限することは,憲法15条1項及び3項,43条1項並
びに44条ただし書に違反するといわざるを得ない。また,このことは,国が国民
の選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為によって国
民が選挙権を行使することができない場合についても,同様である。
 在外国民は,選挙人名簿の登録について国内に居住する国民と同様の被登録資格
を有しないために,そのままでは選挙権を行使することができないが,憲法によっ
て選挙権を保障されていることに変わりはなく,国には,選挙の公正の確保に留意
しつつ,その行使を現実的に可能にするために所要の措置を執るべき責務があるの
であって,選挙の公正を確保しつつそのような措置を執ることが事実上不能ないし
著しく困難であると認められる場合に限り,当該措置を執らないことについて上記
のやむを得ない事由があるというべきである。
 2 本件改正前の公職選挙法の憲法適合性について
 前記第1の2(2)のとおり,本件改正前の公職選挙法の下においては,在外国民
は,選挙人名簿に登録されず,その結果,投票をすることができないものとされて
いた。これは,在外国民が実際に投票をすることを可能にするためには,我が国の
在外公館の人的,物的態勢を整えるなどの所要の措置を執る必要があったが,その
実現には克服しなければならない障害が少なくなかったためであると考えられる。
 記録によれば,内閣は,昭和59年4月27日,「我が国の国際関係の緊密化に
伴い,国外に居住する国民が増加しつつあることにかんがみ,これらの者について
選挙権行使の機会を保障する必要がある」として,衆議院議員の選挙及び参議院議
員の選挙全般についての在外選挙制度の創設を内容とする「公職選挙法の一部を改
- 5 -
正する法律案」を第101回国会に提出したが,同法律案は,その後第105回国
会まで継続審査とされていたものの実質的な審議は行われず,同61年6月2日に
衆議院が解散されたことにより廃案となったこと,その後,本件選挙が実施された
平成8年10月20日までに,在外国民の選挙権の行使を可能にするための法律改
正はされなかったことが明らかである。世界各地に散在する多数の在外国民に選挙
権の行使を認めるに当たり,公正な選挙の実施や候補者に関する情報の適正な伝達
等に関して解決されるべき問題があったとしても,既に昭和59年の時点で,選挙
の執行について責任を負う内閣がその解決が可能であることを前提に上記の法律案
を国会に提出していることを考慮すると,同法律案が廃案となった後,国会が,1
0年以上の長きにわたって在外選挙制度を何ら創設しないまま放置し,本件選挙に
おいて在外国民が投票をすることを認めなかったことについては,やむを得ない事
由があったとは到底いうことができない。そうすると,【要旨1】本件改正前の公
職選挙法が,本件選挙当時,在外国民であった上告人らの投票を全く認めていなか
ったことは,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反す
るものであったというべきである。

 3 本件改正後の公職選挙法の憲法適合性について
 本件改正は,在外国民に国政選挙で投票をすることを認める在外選挙制度を設け
たものの,当分の間,衆議院比例代表選出議員の選挙及び参議院比例代表選出議員
の選挙についてだけ投票をすることを認め,衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参
議院選挙区選出議員の選挙については投票をすることを認めないというものである。
この点に関しては,投票日前に選挙公報を在外国民に届けるのは実際上困難であり
,在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達するのが困難であるという状況
の下で,候補者の氏名を自書させて投票をさせる必要のある衆議院小選挙区選出議
員の選挙又は参議院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認
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めることには検討を要する問題があるという見解もないではなかったことなどを考
慮すると,初めて在外選挙制度を設けるに当たり,まず問題の比較的少ない比例代
表選出議員の選挙についてだけ在外国民の投票を認めることとしたことが,全く理
由のないものであったとまでいうことはできない。しかしながら,本件改正後に在
外選挙が繰り返し実施されてきていること,通信手段が地球規模で目覚ましい発達
を遂げていることなどによれば,在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達
することが著しく困難であるとはいえなくなったものというべきである。また,参
議院比例代表選出議員の選挙制度を非拘束名簿式に改めることなどを内容とする公
職選挙法の一部を改正する法律(平成12年法律第118号)が平成12年11月
1日に公布され,同月21日に施行されているが,この改正後は,参議院比例代表
選出議員の選挙の投票については,公職選挙法86条の3第1項の参議院名簿登載
者の氏名を自書することが原則とされ,既に平成13年及び同16年に,在外国民
についてもこの制度に基づく選挙権の行使がされていることなども併せて考えると
,【要旨2】遅くとも,本判決言渡し後に初めて行われる衆議院議員の総選挙又は
参議院議員の通常選挙の時点においては,衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議
院選挙区選出議員の選挙について在外国民に投票をすることを認めないことについ
て,やむを得ない事由があるということはできず,公職選挙法附則8項の規定のう
ち,在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に
限定する部分は,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違
反するものといわざるを得ない。

 第3 確認の訴えについて
 1 本件の主位的確認請求に係る訴えのうち,本件改正前の公職選挙法が別紙当
事者目録1記載の上告人らに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙
権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えは,過去の
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法律関係の確認を求めるものであり,この確認を求めることが現に存する法律上の
紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要な場合であるとはいえないから
,確認の利益が認められず,不適法である。
 2 また,本件の主位的確認請求に係る訴えのうち,本件改正後の公職選挙法が
別紙当事者目録1記載の上告人らに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙
区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であること
の確認を求める訴えについては,他により適切な訴えによってその目的を達成する
ことができる場合には,確認の利益を欠き不適法であるというべきところ,本件に
おいては,後記3のとおり,予備的確認請求に係る訴えの方がより適切な訴えであ
るということができるから,上記の主位的確認請求に係る訴えは不適法であるとい
わざるを得ない。
 3 本件の予備的確認請求に係る訴えは,公法上の当事者訴訟のうち公法上の法
律関係に関する確認の訴えと解することができるところ,その内容をみると,公職
選挙法附則8項につき所要の改正がされないと,在外国民である別紙当事者目録1
記載の上告人らが,今後直近に実施されることになる衆議院議員の総選挙における
小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙
において投票をすることができず,選挙権を行使する権利を侵害されることになる
ので,そのような事態になることを防止するために,同上告人らが,同項が違憲無
効であるとして,当該各選挙につき選挙権を行使する権利を有することの確認をあ
らかじめ求める訴えであると解することができる。
 選挙権は,これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず
,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない
性質のものであるから,その権利の重要性にかんがみると,具体的な選挙につき選
挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求め
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る訴えについては,それが有効適切な手段であると認められる限り,確認の利益を
肯定すべきものである。そして,本件の予備的確認請求に係る訴えは,公法上の法
律関係に関する確認の訴えとして,上記の内容に照らし,確認の利益を肯定するこ
とができるものに当たるというべきである。なお,この訴えが法律上の争訟に当た
ることは論をまたない。
 そうすると,【要旨3】本件の予備的確認請求に係る訴えについては,引き続き
在外国民である同上告人らが,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議
員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外
選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあるこ
との確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる。

 4 そこで,本件の予備的確認請求の当否について検討するに,前記のとおり,
公職選挙法附則8項の規定のうち,在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議
院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は,憲法15条1項及び3項,43条
1項並びに44条ただし書に違反するもので無効であって,【要旨4】別紙当事者
目録1記載の上告人らは,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の
選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙
人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあるという
べきであるから,本件の予備的確認請求は理由があり,更に弁論をするまでもなく
,これを認容すべきものである。
 第4 国家賠償請求について
 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の
国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに
,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したが
って,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,
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国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違
背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題と
は区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反
するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに
違法の評価を受けるものではない。しかしながら,【要旨5】立法の内容又は立法
不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白
な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立
法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が
正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立
法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受け
るものというべきである。最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月2
1日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁は,以上と異なる趣旨をいうもの
ではない。
 在外国民であった上告人らも国政選挙において投票をする機会を与えられること
を憲法上保障されていたのであり,この権利行使の機会を確保するためには,在外
選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず
,前記事実関係によれば,昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案
が閣議決定されて国会に提出されたものの,同法律案が廃案となった後本件選挙の
実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったので
あるから,このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり,このような場
合においては,過失の存在を否定することはできない。このような立法不作為の結
果,上告人らは本件選挙において投票をすることができず,これによる精神的苦痛
を被ったものというべきである。したがって,本件においては,上記の違法な立法
不作為を理由とする国家賠償請求はこれを認容すべきである。
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 そこで,上告人らの被った精神的損害の程度について検討すると,本件訴訟にお
いて在外国民の選挙権の行使を制限することが違憲であると判断され,それによっ
て,本件選挙において投票をすることができなかったことによって上告人らが被っ
た精神的損害は相当程度回復されるものと考えられることなどの事情を総合勘案す
ると,損害賠償として各人に対し慰謝料5000円の支払を命ずるのが相当である。
そうであるとすれば,本件を原審に差し戻して改めて個々の上告人の損害額につい
て審理させる必要はなく,当審において上記金額の賠償を命ずることができるもの
というべきである。【要旨6】そこで,上告人らの本件請求中,損害賠償を求める
部分は,上告人らに対し各5000円及びこれに対する平成8年10月21日から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容
し,その余は棄却することとする。

 第5 結論
 以上のとおりであるから,本件の主位的確認請求に係る各訴えをいずれも却下す
べきものとした原審の判断は正当として是認することができるが,予備的確認請求
に係る訴えを却下すべきものとし,国家賠償請求を棄却すべきものとした原審の判
断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。そして,以上に説
示したところによれば,本件につき更に弁論をするまでもなく,上告人らの予備的
確認請求は理由があるから認容すべきであり,国家賠償請求は上告人らに対し各5
000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し
,その余は棄却すべきである。論旨は上記の限度で理由があり,条約違反の論旨に
ついて判断するまでもなく,原判決を主文第1項のとおり変更すべきである。
 よって,裁判官横尾和子,同上田豊三の反対意見,判示第4についての裁判官泉
徳治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。な
お,裁判官福田博の補足意見がある。
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 裁判官福田博の補足意見は,次のとおりである。
 私は,法廷意見に賛成するものであるが,法廷意見に関して,在外国民の選挙権
の剥奪又は制限に対する国家賠償について,消極的な見解を述べる反対意見が表明
されたこと(泉裁判官)と,在外国民の選挙権の剥奪又は制限は基本的に国会の裁
量に係る部分があり,現行の制度はいまだ違憲の問題を生じていないとする反対意
見が表明されたこと(横尾裁判官及び上田裁判官)にかんがみ,若干の考えを述べ
ておくこととしたい。
 1 選挙権の剥奪又は制限と国家賠償について
 在外国民の選挙権が剥奪され,又は制限されている場合に,それが違憲であるこ
とが明らかであるとしても,国家賠償を認めることは適当でないという泉裁判官の
意見は,一面においてもっともな内容を含んでおり,共感を覚えるところも多い。
特に,代表民主制を基本とする民主主義国家においては,国民の選挙権は国民主権
の中で最も中核を成す権利であり,いやしくも国が賠償金さえ払えば,国会及び国
会議員は国民の選挙権を剥奪又は制限し続けることができるといった誤解を抱くと
いったような事態になることは絶対に回避すべきであるという私の考えからすれば
,選挙権の剥奪又は制限は本来的には金銭賠償になじまない点があることには同感
である。
 しかし,そのような感想にもかかわらず,私が法廷意見に賛成するのは主として
次の2点にある。
 第1は,在外国民の選挙権の剥奪又は制限が憲法に違反するという判決で被益す
るのは,現在も国外に居住し,又は滞在する人々であり,選挙後帰国してしまった
人々に対しては,心情的満足感を除けば,金銭賠償しか救済の途がないという事実
である。上告人の中には,このような人が現に存在するのであり,やはりそのよう
な人々のことも考えて金銭賠償による救済を行わざるを得ない。
- 12 -
 第2は,-この点は第1の点と等しく,又はより重要であるが-国会又は国会議
員が作為又は不作為により国民の選挙権の行使を妨げたことについて支払われる賠
償金は,結局のところ,国民の税金から支払われるという事実である。代表民主制
の根幹を成す選挙権の行使が国会又は国会議員の行為によって妨げられると,その
償いに国民の税金が使われるということを国民に広く知らしめる点で,賠償金の支
払は,額の多寡にかかわらず,大きな意味を持つというべきである。
 2 在外国民の選挙権の剥奪又は制限は憲法に違反せず,国会の裁量の範囲に収
まっているという考えには全く賛同できない。
 現代の民主主義国家は,そのほとんどが代表民主制を国家の統治システムの基本
とするもので,一定年齢に達した国民が平等かつ自由かつ定時に(解散により行わ
れる選挙を含む。以下同じ。)選挙権を行使できることを前提とし,そのような選
挙によって選ばれた議員で構成される議会が国権の最高機関となり,行政,司法と
あいまって,三権分立の下に国の統治システムを形成する。我が国も憲法の規定に
よれば,そのような代表民主制国家の一つであるはずであり,代表民主制の中核で
ある立法府は,平等,自由,定時の選挙によって初めて正当性を持つ組織となる。
民主主義国家が目指す基本的人権の尊重にあっても,このような三権分立の下で,
国会は,国権の最高機関として重要な役割を果たすことになる。
 国会は,平等,自由,定時のいずれの側面においても,国民の選挙権を剥奪し制
限する裁量をほとんど有していない。国民の選挙権の剥奪又は制限は,国権の最高
機関性はもとより,国会及び国会議員の存在自体の正当性の根拠を失わしめるので
ある。国民主権は,我が国憲法の基本理念であり,我が国が代表民主主義体制の国
であることを忘れてはならない。
 在外国民が本国の政治や国の在り方によってその安寧に大きく影響を受けること
は,経験的にも随所で証明されている。
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 代表民主主義体制の国であるはずの我が国が,住所が国外にあるという理由で,
一般的な形で国民の選挙権を制限できるという考えは,もう止めにした方が良いと
いうのが私の感想である。
 裁判官横尾和子,同上田豊三の反対意見は,次のとおりである。
 私たちは,本件上告をいずれも棄却すべきであると考えるが,その理由は次のと
おりである。
 1 憲法は,その前文において,「日本国民は,正当に選挙された国会における
代表者を通じて行動し,・・・ここに主権が国民に存することを宣言し,この憲法
を確定する。そもそも国政は,国民の厳粛な信託によるものであつて,その権威は
国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民がこれを
享受する。」として,国民主権主義を宣言している。
 これを受けて,「公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利
である。」(憲法15条1項),「公務員の選挙については,成年者による普通選
挙を保障する。」(同条3項)と規定し,公務員の選挙権が国民固有の権利である
ことを明確にしている。
 一方,国会が衆議院及び参議院の両議院から構成されること(憲法42条),両
議院は全国民を代表する選挙された議員で組織されること(憲法43条1項)を規
定するとともに,両議院の議員の定数,議員及びその選挙人の資格,選挙区,投票
の方法その他選挙に関する事項は,これを法律で定めるべきものとし(憲法43条
2項,44条,47条),両議院の議員の各選挙制度の仕組みについての具体的な
決定を原則として国会の裁量にゆだねているのである。もっとも,議員及び選挙人
の資格を法律で定めるに当たっては,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育
,財産又は収入によって差別してはならないことを明らかにしている(憲法44条
ただし書)。
- 14 -
 そして,国会が両議院の議員の各選挙制度の仕組みを具体的に決定するに当たっ
ては,選挙人である国民の自由に表明する意思により選挙が混乱なく,公明かつ適
正に行われるよう,すなわち公正,公平な選挙が混乱なく実現されるために必要と
される事項を考慮しなければならないのである。我が国の主権の及ばない国や地域
(そこには様々な国や地域が存在する。)に居住していて,我が国内の市町村の区
域内に住所を有していない国民(在外国民。在外国民にも二重国籍者や海外永住者
などいろいろな種類の人たちがいる。)も,国民である限り選挙権を有しているこ
とはいうまでもないが,そのような在外国民が選挙権を行使する,すなわち投票を
するに当たっては,国内に居住する国民の場合に比べて,様々な社会的,技術的な
制約が伴うので,在外国民にどのような投票制度を用意すれば選挙の公正さ,公平
さを確保し,混乱のない選挙を実現することができるのかということも国会におい
て正当に考慮しなければならない事項であり,国会の裁量判断にゆだねられている
と解すべきである。 
 換言すれば,両議院の議員の各選挙制度をどのような仕組みのものとするのか,
すなわち,選挙区として全国区制,中選挙区制,小選挙区制,比例代表制のうちい
ずれによるのかあるいはいずれかの組合せによるのか,組合せによるとしてどのよ
うな方法によるのか,各選挙区の内容や区域・区割りはどうするのか,議員の総定
数や選挙区への定数配分をどうするのか,選挙人名簿制度はどのようなものにする
のか,投票方式はどうするのか,候補者の政見等を選挙人へ周知させることも含め
て選挙運動をどのようなものとするのかなどなど,選挙人の自由な意思が公明かつ
適正に選挙に反映され,混乱のない公正,公平な選挙が実現されるよう,選挙制度
の仕組みに関する様々な事柄を選択し,決定することは国会に課せられた責務であ
る。そして,そのような選挙制度の仕組みとの関連において,また,様々な社会的
,技術的な制約が伴う中にあって,我が国の主権の及ばない国や地域に居住してい
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る在外国民に対し,どのような投票制度を用意すれば選挙の公正さ,公平さを確保
し,混乱のない選挙を実現することができるのかということも,国会において判断
し,選択し,決定すべき事柄であり,国会の裁量判断にゆだねられた事項である(
この点,我が国の主権の及ぶ我が国内に居住している国民の選挙権の行使を制限す
る場合とは趣を異にするといわなければならない。我が国内に居住している国民の
選挙権又はその行使を制限することは,自ら選挙の公正を害する行為をした者等の
選挙権について一定の制限をすることは別として,原則として許されず,国民の選
挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ない
と認められる事由がなければならず,そのような制限をすることなしには選挙の公
正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると
認められる場合でない限り,上記のやむを得ない事由があるとはいえず,このよう
な事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは,憲法に違反するといわざるを
得ない,とする多数意見に同調するものである。)。
 2 両議院の議員の各選挙制度の仕組みについては,公職選挙法がこれを定めて
いる。従来,選挙人名簿に登録されていない者及び登録されることができない者は
投票することができないとされ,選挙人名簿への登録は,当該市町村の区域内に住
所を有する年齢満20年以上の国民で,その者に係る当該市町村の住民票が作成さ
れた日から引き続き3か月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者につ
いて行うこととされており,在外国民は,我が国のいずれの市町村においても住民
基本台帳に記録されないため,両議院議員の選挙においてその選挙権を行使する,
すなわち投票をすることができなかった。
 平成6年の公職選挙法の一部改正により,それまで長年にわたり中選挙区制の下
で行われていた衆議院議員の選挙についても,小選挙区比例代表並立制が採用され
ることになった。そして,平成10年法律第47号による公職選挙法の一部改正に
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より,新たに在外選挙人名簿の制度が創設され,在外国民に在外選挙人名簿に登録
される途を開き,これに登録されている者は,両議院議員の選挙において投票する
ことができるようになった。もっとも,上記改正後の公職選挙法附則8項において
,当分の間は,両議院の比例代表選出議員の選挙に限ることとされたため,衆議院
小選挙区選出議員及び参議院選挙区選出議員の選挙はその対象とならないこととさ
れている。このように両議院の比例代表選出議員の選挙に限って在外国民に投票の
機会を認めたことの理由につき,12日ないし17日という限られた選挙運動期間
中に在外国民へ候補者個人に関する情報を伝達することが極めて困難であること等
を勘案したものであると説明されている。
 3 上記のとおり,我が国においては,従来,在外国民には両議院議員の選挙に
関し投票の機会が与えられていなかったところ,平成10年の改正により,両議院
の比例代表選出議員の選挙について投票の機会を与えることにし,衆議院小選挙区
選出議員及び参議院選挙区選出議員の選挙については,在外国民への候補者個人に
関する情報を伝達することが極めて困難であること等を勘案して,当分の間,投票
の機会を与えないこととしたというのである。
 国会のこれらの選択は,選挙制度の仕組みとの関連において在外国民にどのよう
な投票制度を用意すれば選挙の公正さ,公平さを確保し,混乱のない選挙を実現す
ることができるのかという,国会において正当に考慮することのできる事項を考慮
した上での選択ということができ,正確な候補者情報の伝達,選挙人の自由意思に
よる投票環境の確保,不正の防止等に関し様々な社会的,技術的な制約の伴う中で
それなりの合理性を持ち,国会に与えられた裁量判断を濫用ないし逸脱するもので
はなく,平成10年に至って新たに在外選挙人名簿の制度を創設し,それまではこ
のような制度を設けていなかったことをも含めて,いまだ上告人らの主張する憲法
の各規定や条約に違反するものではなく,違憲とはいえないと解するのが相当であ
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る。
 4 私たちは,本件の主位的確認請求に係る訴えは不適法であり,予備的確認請
求に係る訴えは適法であるとする多数意見に同調するものであるが,公職選挙法附
則8項の規定のうち在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選
出議員の選挙に限定している部分も違憲とはいえないと解するので,本件の予備的
確認請求は理由がなく,これを棄却すべきものと考える。本件の予備的確認請求に
係る訴えを却下すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明ら
かな法令の違反があることになるが,本件の予備的確認請求を求めている上告人ら
からの上告事件である本件においては,いわゆる不利益変更禁止の原則により,こ
の部分に係る本件上告を棄却すべきである。
 また,在外選挙制度を設けなかったことなどの立法上の不作為が違憲であること
を理由とする国家賠償請求については,そのような不作為は違憲ではないと解する
ので,理由がなく,その請求を棄却すべきであるところ,原審はこれと結論を同じ
くするものであるから,この部分に関する本件上告も棄却すべきである。
 判示第4についての裁判官泉徳治の反対意見は,次のとおりである。
 私は,多数意見のうち,国家賠償請求の認容に係る部分に反対し,それ以外の部
分に賛同するものである。
多数意見は,公職選挙法が,本件選挙当時,在外国民の投票を認めていなかったこ
とにより,上告人らが本件選挙において選挙権を行使することができなかったこと
による精神的苦痛を慰謝するため,国は国家賠償法に基づき上告人らに各5000
円の慰謝料を支払うべきであるという。しかし,私は,上告人らの上記精神的苦痛
は国家賠償法による金銭賠償になじまないので,本件選挙当時の公職選挙法の合憲・
違憲について判断するまでもなく,上告人らの国家賠償請求は理由がないものとし
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て棄却すべきであると考える。
 国民が,憲法で保障された基本的権利である選挙権の行使に関し,正当な理由な
く差別的取扱いを受けている場合には,民主的な政治過程の正常な運営を維持する
ために積極的役割を果たすべき裁判所としては,国民に対しできるだけ広く是正・
回復のための途を開き,その救済を図らなければならない。
 本件国家賠償請求は,金銭賠償を得ることを本来の目的とするものではなく,公
職選挙法が在外国民の選挙権の行使を妨げていることの違憲性を,判決理由の中で
認定することを求めることにより,間接的に立法措置を促し,行使を妨げられてい
る選挙権の回復を目指しているものである。上告人らは,国家賠償請求訴訟以外の
方法では訴えの適法性を否定されるおそれがあるとの思惑から,選挙権回復の方法
としては迂遠な国家賠償請求を,あえて付加したものと考えられる。
 一般論としては,憲法で保障された基本的権利の行使が立法作用によって妨げら
れている場合に,国家賠償請求訴訟によって,間接的に立法作用の適憲的な是正を
図るという途も,より適切な権利回復のための方法が他にない場合に備えて残して
おくべきであると考える。また,当該権利の性質及び当該権利侵害の態様により,
特定の範囲の国民に特別の損害が生じているというような場合には,国家賠償請求
訴訟が権利回復の方法としてより適切であるといえよう。
 しかしながら,本件で問題とされている選挙権の行使に関していえば,選挙権が
基本的人権の一つである参政権の行使という意味において個人的権利であることは
疑いないものの,両議院の議員という国家の機関を選定する公務に集団的に参加す
るという公務的性格も有しており,純粋な個人的権利とは異なった側面を持ってい
る。しかも,立法の不備により本件選挙で投票をすることができなかった上告人ら
の精神的苦痛は,数十万人に及ぶ在外国民に共通のものであり,個別性の薄いもの
である。したがって,上告人らの精神的苦痛は,金銭で評価することが困難であり
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,金銭賠償になじまないものといわざるを得ない。英米には,憲法で保障された権
利が侵害された場合に,実際の損害がなくても名目的損害(nominal damages)の
賠償を認める制度があるが,我が国の国家賠償法は名目的損害賠償の制度を採用し
ていないから,上告人らに生じた実際の損害を認定する必要があるところ,それが
困難なのである。
 そして,上告人らの上記精神的苦痛に対し金銭賠償をすべきものとすれば,議員
定数の配分の不均衡により投票価値において差別を受けている過小代表区の選挙人
にもなにがしかの金銭賠償をすべきことになるが,その精神的苦痛を金銭で評価す
るのが困難である上に,賠償の対象となる選挙人が膨大な数に上り,賠償の対象と
なる選挙人と,賠償の財源である税の負担者とが,かなりの部分で重なり合うこと
に照らすと,上記のような精神的苦痛はそもそも金銭賠償になじまず,国家賠償法
が賠償の対象として想定するところではないといわざるを得ない。金銭賠償による
救済は,国民に違和感を与え,その支持を得ることができないであろう。 
 当裁判所は,投票価値の不平等是正については,つとに,公職選挙法204条の
選挙の効力に関する訴訟で救済するという途を開き,本件で求められている在外国
民に対する選挙権行使の保障についても,今回,上告人らの提起した予備的確認請
求訴訟で取り上げることになった。このような裁判による救済の途が開かれている
限り,あえて金銭賠償を認容する必要もない。
 前記のとおり,選挙権の行使に関しての立法の不備による差別的取扱いの是正に
ついて,裁判所は積極的に取り組むべきであるが,その是正について金銭賠償をも
って臨むとすれば,賠償対象の広範さ故に納税者の負担が過大となるおそれが生じ
,そのことが裁判所の自由な判断に影響を与えるおそれもないとはいえない。裁判
所としては,このような財政問題に関する懸念から解放されて,選挙権行使の不平
等是正に対し果敢に取り組む方が賢明であると考える。
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(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 福田 博 裁判官 濱田邦夫 裁判官 横尾
和子 裁判官 上田豊三 裁判官 滝井繁男 裁判官 藤田宙靖 裁判官 甲斐中
辰夫 裁判官 泉 徳治 裁判官 島田仁郎 裁判官 才口千晴 裁判官 今井 
功 裁判官 中川了滋 裁判官 堀籠幸男)
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