北の心の開拓記  [小松正明ブログ]

 日々の暮らしの中には、きらりと輝く希望の物語があるはず。生涯学習的生き方の実践のつもりです。

交渉学を学ぶ(その2)

2008-08-24 23:58:58 | Weblog
 田村先生の交渉学の続き。お次はロールプレイの演習です。

 ロールプレイというのは、ある状況を想定してその状況のなかの役割を演じる演習です。午前に学んだ交渉学を早速活かしてみようという練習をするのです。

  

    ※    ※    ※    ※

 最初の演題は「日本画をめぐる交渉」です。このロールプレイモデルでは、一人が海外流出した価値の高い日本の障壁画を手に入れた画商になり、もう一人が美術館の理事長を演じます。

 画商の側は、自分の絵を相手にできるだけ高く売りたいのはもちろんですが、これをきっかけに美術館と近づいて中期的なメリットを得たいと考えています。
 また美術館の理事長側は、用意できるお金には限界がありますが少しは調整の余地もあり、できるだけ安く買いたいとは思いつつも海外の日本美術を集めたいという思惑もあります。

 双方には互いが知っている共通情報の紙と、片方だけしか知らない秘密が書かれた紙の二枚が配られます。それを熟読してから双方の立場を演じるのです。

 交渉を始めてみると、相手の思惑がどこにあるのかを探るのに結構時間がかかります。どうしても高くふっかける画商に対して、絵を欲しいと思いながらも「そんなにお金はありませんよ」と牽制するという交渉が続きます。たかがゲームなのですが、結構真剣に立場を守ろうとしてしまいます。

 私は美術館の理事長の役をやりましたが、結局交渉は時間内に合意できませんでした。互いに「相手がどこまで本気なのかが結局読めなかった」という意見で、ゲーム終了後に互いの秘密の紙を見せ合って、それぞれの発言の裏情報を得てみると、相手の立場がよく分かります。
 本当に真剣になるものですね。

    ※    ※    ※    ※

 ロールプレイモデルの二つ目は「三国間人質交渉」という演題です。これは登場人物が三人でそれぞれ日、仏、米の交渉担当者という立場を演じます。

 事態は、政情不安定のA国で、日、仏、米の大使がパーティを開いているところへA国の反政府ゲリラが押し入り、三カ国の大使が人質になってしまったという状況を想定しています。

 ゲリラはアメリカに拘束されている仲間の釈放や人質の身代金、アメリカによるA国への軍事援助の停止などを求めていましたが、突然「1時間以内に建設的な回答がなければフランス大使を殺害する」と脅しをかけてきます。

 そのため、三カ国の代表が集まって、実際に45分以内に互いの立場を考えながら合意をするということが求められるというものです。

 テロには屈しないという原則を掲げすぐに軍の突入を主張するアメリカと、金は出しても武力行使には参加できず血は流して欲しくない日本、それにアメリカに主導権を渡さずに大使の命を助けたいフランスの思惑が複雑に絡みながらも、とにかく45分で三人が合意できる形にたどり着かなくてはなりません。これまた真剣になってしまいます。

 これもまた共通情報と、各国だけの秘密の紙が配られてそれぞれの立場を主張しながらどこまで妥協が出来るのか、というシミュレーションをしました。

 私はフランスの担当者役でしたが、あるときは日本と協調してアメリカの軍事突入を押さえ込み、またあるときはアメリカと協調して事態が膠着したときにはテロを許さないという原則の下に、軍事突入の可能性があることや身代金支払いを日本に納得させたりする主張を繰り返しました。

 こうしたモデルを演じてみると、使える手段を多様に持っているところが強かったり、三カ国の合意が絶対に必要と言うことになると、案外お金を出すことしかできない日本にも立場を尊重しなくてはならず、日本の発言力が合意のための鍵を握っていることなどが分かってきます。

 これもそれぞれの秘密をあとで知ると、予想だったり予想を裏切るような事実も明らかになります。

 これらには正しい答えはないので、お互いがどういう形で納得をしたか、ということが鍵になります。改めて自分の主張だけでは3人を納得させてまとめることが出来ないとよく分かります。

 これもまた力が入りました。

    ※    ※    ※    ※

 田村先生はこのような講義やロールプレイを行う6つのカリキュラムを備えたコースも指導されていて、今日はそのミニ版と言ったところ。

 そういう意味ではあくまでも入門編なのですが、その雰囲気の一端はよく伝わってきました。

 ハーバード大学などではビジネスコースとして教えていたりもしていますが、実に興味深い世界があったものです。これを機会にこの分野も少し勉強を深めてみたくなりました。

 目からウロコの一日でした。
 
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「交渉学」を学ぶ(その1)

2008-08-24 23:32:11 | Weblog
 交渉学の勉強をしてきました。

 講師は、情報戦略企業のIB●さんが伊豆で開催してくださる「夏富士会議」のメンバーで、交渉学を教えていらっしゃる慶応大学の田村次朗教授。
 田村先生の話に興味を持った富士会議の幹事が、「交渉学を勉強してみたい」と講師を田村先生に、また場所提供をI●Mさんに【交渉】し、今日の開催となったものです。

  

    ※    ※    ※    ※

 一口に交渉学と言いますが、ただ自分の言い分だけを通すのが交渉ではありません。実は交渉のポイントは、①勝ち負けにこだわらずに、②自己利益と相手の利益の最大化を目指す、というところにあります。
 自分の利益だけでは相手が納得しなくて、交渉は成立しないことになります。これでは得るものも得られないことになるからね。

 また交渉上重要な単語としては、「二分法の罠」と「合意バイアス」からの脱却ということを教わりました。

 「二分法の罠」とは、「値段を○○円に下げてくれれば買うよ、さあどうする?」という問いかけをされて、自分の判断が「値段を下げて売るか、下げずに売れなくてもかまわないか」という「イエスかノーか」という二つに一つの判断状況に陥ることを言います。
 値段だけではなく、サービスをつけるとか支払い方法を変えるとか、値段を下げること以外に相手の求めるものになにがあるのか、ということをもっとたくさんの会話の中から探るべきで、結論を単純化しすぎないことが重要なのだそう。

  

 また「合意バイアス」とは「とにかく何が何でも交渉をまとめなくてはまずいのではないか」という感情のことで、日本人は特に強いらしく、そのために内心で自分勝手な理屈をつけたりしがち。そういう意味で外国では日本人は与しやすいとみられがちなのだそうですよ、ご用心。

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 そうした交渉上の罠から脱出するためには、相手に対してけんか腰ではなく情報を得るための質問をして、相手の思惑を聞き出す習慣をつけるのが良いとのこと。相手に質問をすると気分を害するのではないか、などと思わずに、相手の情報を得つつ、こちらの言い分の正当性や裏付けを伝えることこそ交渉の基礎なんです。

 そしてさらに交渉を踏み込んだものにするためには、自分の主張が必ずしも全て通らなかったときにどこまでなら我慢できるか、という代替案を常にもつことが大切なのだそう。これを英語で”Best Altenative To a Negotiated Agreement”と言い、頭文字を取ってBATNAと言います。これを日本語に訳すと、「交渉が決裂した時の対処策として最も良い案」というような意味で、常に駄目だったときに対策は用意をしておくことが交渉を有利に働かせます。
 自分が勝つしか結論はない!などというのは下手な交渉の典型だということ。交渉に対する考え方が大きく変わりました。

 交渉とは相手に勝つためのものではなく、互いの利益を最大にするためにどこまでこちらも妥協できるか、ということを探るコミュニケーションの場だと考えるべきなのです。

 こうした講義を午前中に受けて午後はそれを実践的な例題で演習を行いました。

 短時間の講義ですぐに実践に移せるとは思いませんが、よく考えると自分が交渉をするときに何気なく使っていることにも思い当たります。学問として体系的に整理されると、頭に入りやすくなりますね。

 本当はもっと盛りだくさんだったのですが、情報量が多すぎて全部は書き切れません。交渉学というものがある、ということを覚えて、あとは自分で勉強するのも良いかもしれませんよ。  
 
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