吉川英治文学新人賞ならびに昨2010年度本屋大賞第1位を取った小説、「天地明察」を読みました。

作者は冲方丁(うぶかた とう)氏ですが、最近はテレビのバラエティでもちょくちょく見かけるようになったイケメン小説家です。
「天地明察」は、江戸時代が安定を始めた1600年代半ばの頃の江戸を舞台に、渋川春海という碁打ちにして数学者という変わった経歴を持つ実在の人物を記します。
この頃の上流階級に属した人たちは結構姓や名前を変えるのでややこしいのですが、最後の名乗ったのが渋川春海という名前なのでそれで通します。
主人公の春海は、江戸幕府で殿の前で御前碁を打つことを仕事とする碁方である安井算哲の長子として生まれ、若くして御城碁に出仕するようになります。
しかし碁を打つことだけに飽き足らず、数学や暦法、天文学、さらには後の水戸学にも影響を与え天皇崇拝の思想をもつ垂加神道や、陰陽道を統括し造歴の権利を持つ土御門神道も師事するなど、多彩な才能を発揮してゆきます。
そして暦を研究してゆく中で気づいたのが、その頃までの日本では貞観4(862)年に唐から伝わった宣命暦という暦をなんと823年もの間使っており、すでに誤差が多く生じて日単位のずれを生じていたということでした。
この頃になると既に地球は丸いということは知られていたようで、太陽や星の角度を観測する技術も少しずつ向上してきて、観測を重ねることで日本独自の暦を作るという意識に目覚めて行ったのでした。
※ ※ ※ ※ ※
さて、春海は当時中国で使われていた授時暦という暦を元に観測でその裏打ちを行い、これに基づいて一度は授時暦による改暦を願い出ます。
改暦の正しさを証明するために春海は、三年間で六回の「蝕」、つまり月が太陽面をかすめるように通過する事象を予言し、それを今までの宣命暦、そして時を同じくして提唱された大統暦、そして春海の薦める授時暦がそれらを当てることができるかどうかを競い合いました。
本のタイトルの「天地明察」とは、それらの予言を春海の授時暦が当てた際に発せられた言葉で、「予言どおりに天地の事象を言い当てた」といったような意味で使われています。
しかしこの第一回目の予言では、他の暦が蝕を言い当てられず受持暦だけがそれを言い当てていったのですが、最後のところで自らも予言に失敗してしまいます。
これを深く恥じた彼は再度暦研究を深め、中国とは経度が違うことや時差などがあることを知り、中国の暦では日本にそのまま適用できないと考え、日本向けに改良を加えたいわゆる大和暦をまとめあげます。
そして様々な紆余曲折を経て、最後にはかれの大和暦を正式に採用することを朝廷に採用してもらうことができ、それを年号にちなんで以後「貞享暦」と呼ぶようになったのです。
※ ※ ※ ※ ※
物語には様々なライバルが登場します。数学の世界では同時代を生きて和算を確立したことで知られる関孝和がおり、なかなか会えない彼との数学による切磋琢磨が描かれます。
また実在した渋川春海の碁の記録は今も残されており、碁の世界でのライバルだった本因坊道策との火花の散るような碁盤上の戦いも見どころだし、またさらには、後に妻として迎える女性「えん」との若き恋話も物語に彩りを添えます。
若くして国家レベルの使命感を背負うことになった彼の苦しみや、それを支えてくれる先輩、同僚、友人たちとの触れ合いなどが物語に深みを与え、志半ばにして倒れる同僚の意志を力強く継いで行く春海の生き方に共感を覚えずにはいられません。
私としては物語の中で交わされる会話のやりとりに重厚感が欠けるような気がしましたし、全体を通じてひたむきに誠実に生きる主人公の性格を物足りなくも思いましたが、それらを差し引いてもまあさわやかな小説に仕上がっています。
※ ※ ※ ※ ※
なおこの「天地明察」は、2012年秋に公開される映画化が決定したそうで、岡田准一と宮崎あおいが夫婦役になるのだとか。
どのような映像美が描かれるかも楽しみです。
夏休みの読書感想文を書くには良い一冊です。

作者は冲方丁(うぶかた とう)氏ですが、最近はテレビのバラエティでもちょくちょく見かけるようになったイケメン小説家です。
「天地明察」は、江戸時代が安定を始めた1600年代半ばの頃の江戸を舞台に、渋川春海という碁打ちにして数学者という変わった経歴を持つ実在の人物を記します。
この頃の上流階級に属した人たちは結構姓や名前を変えるのでややこしいのですが、最後の名乗ったのが渋川春海という名前なのでそれで通します。
主人公の春海は、江戸幕府で殿の前で御前碁を打つことを仕事とする碁方である安井算哲の長子として生まれ、若くして御城碁に出仕するようになります。
しかし碁を打つことだけに飽き足らず、数学や暦法、天文学、さらには後の水戸学にも影響を与え天皇崇拝の思想をもつ垂加神道や、陰陽道を統括し造歴の権利を持つ土御門神道も師事するなど、多彩な才能を発揮してゆきます。
そして暦を研究してゆく中で気づいたのが、その頃までの日本では貞観4(862)年に唐から伝わった宣命暦という暦をなんと823年もの間使っており、すでに誤差が多く生じて日単位のずれを生じていたということでした。
この頃になると既に地球は丸いということは知られていたようで、太陽や星の角度を観測する技術も少しずつ向上してきて、観測を重ねることで日本独自の暦を作るという意識に目覚めて行ったのでした。
※ ※ ※ ※ ※
さて、春海は当時中国で使われていた授時暦という暦を元に観測でその裏打ちを行い、これに基づいて一度は授時暦による改暦を願い出ます。
改暦の正しさを証明するために春海は、三年間で六回の「蝕」、つまり月が太陽面をかすめるように通過する事象を予言し、それを今までの宣命暦、そして時を同じくして提唱された大統暦、そして春海の薦める授時暦がそれらを当てることができるかどうかを競い合いました。
本のタイトルの「天地明察」とは、それらの予言を春海の授時暦が当てた際に発せられた言葉で、「予言どおりに天地の事象を言い当てた」といったような意味で使われています。
しかしこの第一回目の予言では、他の暦が蝕を言い当てられず受持暦だけがそれを言い当てていったのですが、最後のところで自らも予言に失敗してしまいます。
これを深く恥じた彼は再度暦研究を深め、中国とは経度が違うことや時差などがあることを知り、中国の暦では日本にそのまま適用できないと考え、日本向けに改良を加えたいわゆる大和暦をまとめあげます。
そして様々な紆余曲折を経て、最後にはかれの大和暦を正式に採用することを朝廷に採用してもらうことができ、それを年号にちなんで以後「貞享暦」と呼ぶようになったのです。
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物語には様々なライバルが登場します。数学の世界では同時代を生きて和算を確立したことで知られる関孝和がおり、なかなか会えない彼との数学による切磋琢磨が描かれます。
また実在した渋川春海の碁の記録は今も残されており、碁の世界でのライバルだった本因坊道策との火花の散るような碁盤上の戦いも見どころだし、またさらには、後に妻として迎える女性「えん」との若き恋話も物語に彩りを添えます。
若くして国家レベルの使命感を背負うことになった彼の苦しみや、それを支えてくれる先輩、同僚、友人たちとの触れ合いなどが物語に深みを与え、志半ばにして倒れる同僚の意志を力強く継いで行く春海の生き方に共感を覚えずにはいられません。
私としては物語の中で交わされる会話のやりとりに重厚感が欠けるような気がしましたし、全体を通じてひたむきに誠実に生きる主人公の性格を物足りなくも思いましたが、それらを差し引いてもまあさわやかな小説に仕上がっています。
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なおこの「天地明察」は、2012年秋に公開される映画化が決定したそうで、岡田准一と宮崎あおいが夫婦役になるのだとか。
どのような映像美が描かれるかも楽しみです。
夏休みの読書感想文を書くには良い一冊です。