prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「プレシャス」

2010年05月15日 | 映画
モニーク扮する母親がすさまじい。夫がこともあろうに実の娘を犯して子供を生ませたのを黙認するばかりか、娘を自分の男を奪ったライバルとして敵視し、面倒をみるどころか生活保護をもぎとってこいと酷使する。
これでアカデミー助演女優賞を獲得したわけだが、オスカーをもらったから偉いのではなく、オスカーの方でこの演技を歴史に刻み込めたのを名誉とすべき名演。
ひどさを含めた人間そのものをつかんで、「鬼母」といった男社会目線のステレオタイプを葬った。娘に対する態度とはうって変わって「お上」相手となると掌を返したように下手に出るあたり、「赤ひげ」の杉村春子ばり。

性的虐待、というのはもはやテレビドラマで取り上げられることも珍しくないモチーフだが、たいてい虐待する側の人ぶりをドラマを支える底板にしている のに対して、水が入ってくるのを恐れずその板を破った。

全般に完全に女たちのドラマで、悲惨さの一番の元凶である父親がすでにエイズで亡くなっているという設定もあって、男はまるで影が薄い。

まったくの素人だったというプレシャス役のガボレイ・シティベ(朝青龍を黒くしたみたい)をはじめ、コメディエンヌから、ミュージシャンから、出自の違うキャストをまとめ、クラスのひとりひとりに至るまで目が行き届いたアンサンブル演技を生んだ演出は見事。

マライア・キャリーが知らないで見たら絶対にわからないスッピンで福祉局員を演じていたり、オプラ・ウィンフリーが製作総指揮をつとめたりと、アメリカのセレブは、一方でその地位と力を社会に還元するのを求められるし、実行もしているみたい。
(☆☆☆★★★)


本ホームページ


プレシャス - goo 映画