初めのうち今現在である2013年の話かと思っていたらPHSなんて出てきたのに始まり、だんだん20世紀終りから21世紀初めにわたる時期であることがわかってくる。
字幕を出したりしていっぺんに解説的に描かず電話ボックスが背景に映ったり固定電話を使っているのが普通だったりする描写からだんだん時代が浮かび上がってきて、それが今の目から時代を回顧的に描いているのではなく当時の人間の今を生きている感覚で描かれていて、「言葉」は常に生きているものだというモチーフを現わしている。
出てくる「チョベリバ」とか「ルーズソックス」とかいう当時新しがられた言葉は、今聞くとギャーと叫びだしたくなるような気恥ずかしさを感じます。
デジタル機器がほとんどまったくといっていいくらい出てこない。第一、辞書自体が現在はデジタル化されているわけだし。しかし、内容はやはり長い長い手づりの作業の積み重ねであることに変わりはないだろう。
下宿に積んである本の題名などを見ると、特にこれといって好みや個性のない古本屋のような品揃えで、そういうニュートラルな方が辞書作りには向いている気はする。ただもう一歩、好みがわかったらもっとキャラクターの彫りが出たとは思う。
エンドタイトルにフィルムの文字が見えるところみると、フィルムで撮っているのでしょうね。本で埋め尽くされた空間の陰影や湿り気とか、宮崎あおいが最初に登場するカットの髪の毛がちょっと逆光で光っているリアルな中にも一種神秘的な調子を出したトーンなど、これがデジタルでできたのなら大したものだと思った。最近、上映はデジタルに決まっているが、撮影はどちらなのかわからなくなってきた。
松田龍平が下宿している大家の婆さん(渡辺美佐子)の部屋の仏壇に安い焼酎のカップボトルなんてお供えしてあるので何かと思ったら、後でオダギリジョーと池内千鶴が泊り込む時にビールと日本酒を出すが自分は安い焼酎カップを握っている。
酒好きなのだけれど、いい酒をお客用にとってあるのかな、などと想像して見ていた。小道具一つに至るまでに神経の使った作り方は、映画自体のモチーフにも関わってくる。
欲を言うと、日本酒の銘柄が何なのかはっきりした方がどこの出身なのかとかどんな好みなのかといった性格の描写になるのだが。
松田龍平は最近は「まほろ駅前」とか「探偵はBARにいる」などのシリーズでぼーっとしている相棒役でいいところを見せているけれど、今回はピンでぼーっとしていて全編を支えている。おもしろい立ち位置になってきた。
辞書ではなく漢字字典だが、前に読んだ紀田順一郎の「『大漢和辞典』を読む」で諸橋轍次が『大漢和辞典』を編纂した時は30年の歳月、6億円の巨費(発売された昭和30年の大卒の初任給が7800円)、関わったのべ人数222,682人を費やしたという途方もない話を知ってはいたので、どれほど辞典作りがとんでもない手間隙を要するかは知らないではなかったが、映画でそれに関わる人間たちを通して見るとまた別の感慨がある。
余談だが、この諸橋大漢和を作る困難の一つは使われる活字のほとんどを新しく作らなくてはならなかったということで、これをデジタル化しようとするとまた改めてとんでもない手間がかかるため、今のところ実現しそうにないそうです。デジタルに移行するのも簡単ではない。ATOKの作成とか、国や地域によって漢字も微妙に違うし割り振られたコードも違うといったデジタル辞書ならではの問題もこれから色々ドラマを生んでいくことだろう。
(☆☆☆★★★)
本ホームページ
舟を編む@Movie Walker
舟を編む@ぴあ映画生活
字幕を出したりしていっぺんに解説的に描かず電話ボックスが背景に映ったり固定電話を使っているのが普通だったりする描写からだんだん時代が浮かび上がってきて、それが今の目から時代を回顧的に描いているのではなく当時の人間の今を生きている感覚で描かれていて、「言葉」は常に生きているものだというモチーフを現わしている。
出てくる「チョベリバ」とか「ルーズソックス」とかいう当時新しがられた言葉は、今聞くとギャーと叫びだしたくなるような気恥ずかしさを感じます。
デジタル機器がほとんどまったくといっていいくらい出てこない。第一、辞書自体が現在はデジタル化されているわけだし。しかし、内容はやはり長い長い手づりの作業の積み重ねであることに変わりはないだろう。
下宿に積んである本の題名などを見ると、特にこれといって好みや個性のない古本屋のような品揃えで、そういうニュートラルな方が辞書作りには向いている気はする。ただもう一歩、好みがわかったらもっとキャラクターの彫りが出たとは思う。
エンドタイトルにフィルムの文字が見えるところみると、フィルムで撮っているのでしょうね。本で埋め尽くされた空間の陰影や湿り気とか、宮崎あおいが最初に登場するカットの髪の毛がちょっと逆光で光っているリアルな中にも一種神秘的な調子を出したトーンなど、これがデジタルでできたのなら大したものだと思った。最近、上映はデジタルに決まっているが、撮影はどちらなのかわからなくなってきた。
松田龍平が下宿している大家の婆さん(渡辺美佐子)の部屋の仏壇に安い焼酎のカップボトルなんてお供えしてあるので何かと思ったら、後でオダギリジョーと池内千鶴が泊り込む時にビールと日本酒を出すが自分は安い焼酎カップを握っている。
酒好きなのだけれど、いい酒をお客用にとってあるのかな、などと想像して見ていた。小道具一つに至るまでに神経の使った作り方は、映画自体のモチーフにも関わってくる。
欲を言うと、日本酒の銘柄が何なのかはっきりした方がどこの出身なのかとかどんな好みなのかといった性格の描写になるのだが。
松田龍平は最近は「まほろ駅前」とか「探偵はBARにいる」などのシリーズでぼーっとしている相棒役でいいところを見せているけれど、今回はピンでぼーっとしていて全編を支えている。おもしろい立ち位置になってきた。
辞書ではなく漢字字典だが、前に読んだ紀田順一郎の「『大漢和辞典』を読む」で諸橋轍次が『大漢和辞典』を編纂した時は30年の歳月、6億円の巨費(発売された昭和30年の大卒の初任給が7800円)、関わったのべ人数222,682人を費やしたという途方もない話を知ってはいたので、どれほど辞典作りがとんでもない手間隙を要するかは知らないではなかったが、映画でそれに関わる人間たちを通して見るとまた別の感慨がある。
余談だが、この諸橋大漢和を作る困難の一つは使われる活字のほとんどを新しく作らなくてはならなかったということで、これをデジタル化しようとするとまた改めてとんでもない手間がかかるため、今のところ実現しそうにないそうです。デジタルに移行するのも簡単ではない。ATOKの作成とか、国や地域によって漢字も微妙に違うし割り振られたコードも違うといったデジタル辞書ならではの問題もこれから色々ドラマを生んでいくことだろう。
(☆☆☆★★★)
本ホームページ
舟を編む@Movie Walker
舟を編む@ぴあ映画生活