この型の認知症の初期症状は幻視を見ることなのだそうで、ここでは大昔飼っていた犬のシロの幻視を見ることになる。
母娘の関係にこの実在しない犬が絡んでくるのが映画的な工夫で、幻視の表現のセンスがオープニングの草原の固定ショットに犬が飛び込んでくる「地獄の黙示録」のミニチュアみたいなカットとか、赤ん坊を抱きあげてあやすところで強いバックライトが入るなどなかなかいい。
ただドラマの追い込み方が正直淡泊すぎて、介護をおどろおどろしく描きたくないのはいいとして、母親がやらかすトラブルというのも内容も描き方も腰がひけているみたいな印象を残す。
こういう性格だから役者として芽が出なかったということなのかもしれないが、もう少し板挟みの間で無理してジタバタしてみないと話として十分に膨らまない。犬の絡ませ方もやはり淡泊。
最初の方の演技クラスでしきりと生徒に「反射してますか」と問いかけるが、これは溝口健二が俳優に絶えず問いかけていた言い方で、要するにセリフをいう順番を待っているのではなくてその役の人物になって相手のセリフを聞いて反応するアメリカの演劇クラスだったら当然受ける訓練だそうだけれど、その反射している芝居とそうでないのとを並べて違いを見せるというのは至難の業で言葉だけが上滑りしていて今ひとつ実感がない。
つみきみほ、今いくつだろうと思ったら45歳。「櫻の園」から27年経つのだな。
(☆☆☆)
映画『話す犬を、放す』 - シネマトゥデイ
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