prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「カセットテープ・ダイアリーズ」

2020年07月14日 | 映画
イギリスに住むパキスタン系の青年がアメリカのロックスター、ブルース・スプリングスティーンの歌に(それから歌詞に)雷に撃たれたような衝撃を受けてから物書きの世界に向かっていく。

スプリングスティーンの追っかけになるとか、ロッカー気取りになるとかでなく、自分の才能を生かす道を見つけ、親とも対立するが最終的に否定するのではなくいったん離れてから帰ってくる着地がさわやか。

主演の青年のビベイク・カルラ、頑固だけれど愛情深い父親役のクルビンダー・ギール、上級階級の出だけれどその欺瞞やレイシストに怒りを持つ恋人役のネル・ウィリアムズほか出演者がみな素晴らしい。

スプリングスティーンの一番有名なBorn In U.S.A.が会話のなかには出てきても歌そのものは出てこない。
「星条旗万歳の歌だろ」「バカ、ベトナム帰還兵の歌だ」というのは、あるある話。というか、自分も前はそう思っていた。

スプリングスティーンのライブのチケットを買っても、ライブ自体がドラマで機能することはない。
むしろ家族の問題に帰ってくることに結び付く。

あらかじめ書いた入賞した原稿を朗読していたのが、途中からその時の自分の主に父親、それから仲間に対する気持ちを率直に話すクライマックスがとてもいい。

スプリングスティーンというと、「ブラックレイン」のロケで大阪に来たマイケル・ダグラスが高倉健がおっちゃんたちに大人気なのを見て、ブルース・スプリングスティーンみたいなスターなんだなと思ったと語っていたけれど、そういうものかな、となんとなく納得した。
それにしても、これだけ大々的にスプリングスティーンの曲を使って、そのアイコンを生かした映画が成立するというだけでも驚く。