prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「イカロス」

2020年11月07日 | 映画
ロシアによる国ぐるみのドーピングを追うドキュメンタリー。
それも選手たちにドーピングをしていたキーパーソンのグリゴリー・ロドチェンコフ の証言が軸になっているのだから、生々しい。

そのロドチェンコフが大きく前面に出てくるのもドキュメンタリー製作の過程で自然にそうなったので初めから狙ってのことではないのがドキュメンタリーの面白いところ。

ちょっと煩雑な感じもするくらい徹底してその不正の手口を見せていく。
これだけ大がかりに不正をしてメダルを集めて、結局うやむやになりっぱなしなのだから、今更だがオリンピックの表向きのフェアで平和なイメージとは裏腹のダーティで浅ましい実態に今さらながらげんなりする。

ドーピングによる肉体改造というのは、奇形化した機能主義的人間像の典型であり、スポーツとは今や人間の機械化のことかと思わせる。




「シカゴ7裁判」

2020年11月06日 | 映画
フランク・ランジェラの裁判長が「却下する」や法廷侮辱罪を濫発する、決して公平でも公正でもない、反政府的な連中を十把一絡げに見せしめ的に罰すること自体を目的にした裁判の象徴としてすこぶる強力な敵役ぶりを見せ、前にランジェラがニクソン役をやっていたのをだぶらせているのだろうとも思った。

いきなり裁判から始まり、ジョセフ=ゴードン・レヴィットの検事すらこの裁判にはムリがあると感じるあたり、敵役は検察クラスではなく、もっと上の意思であることをはっきり示す。

そしてもろにもっと大物、現職の大統領が不正義の象徴になっている時期にあっては、法治国家で判事ましてや最高裁判事が政治的にどんな具合に機能するか、よくわかる。

これは「政治裁判」だという不満の言が被告の一部からしばしば漏れ、弁護士たちがたしなめるが、建前としての法の中立性(弁護士はそれに従わなくてはならない)と実態としての政治性との対立をストレートに見せる。

回想シーンの武装した警官隊の怖さが効いている。散弾銃すら持ち出しているのだから、これまた今の(というか、建国以前から今日まで途切れない)アメリカにも当然ストレートにだぶる。

被告たちがもともと立場も組織もバラバラで、政府に批判的という点だけでひとまとめになっているだけ、というか、思想や言論の自由のもとではもとよりまとまらない方が当然ではないかと思わせる。

ばらばらの立場を全体としてのアンサンブルにまとめあげたキャスティングとそれに応えた演技者たちの見事さ。

エディ・レッドメインの一見ひ弱そうな外観を逆手にとったクライマックスが、改めて何のために被告たちは発言したのか思い返されて胸を打つ。

サッシャ・バロン・コーエンは逆に売り物の下品さを抑え代わりに本音の反骨精神をストレートに出した。

ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世扮する黒人があくまで異議を唱え続けると猿轡をはめ言葉を奪う象徴性と暴力の表現は、裁判の目的と性格、アメリカの支配の論理と体質を典型的に示した。

裁判の進行に沿って随所に事件の実景がカットインするが、それが単純な絵解きでなく、さまざまな角度から事態を批評的に照射していく演出の手際が鮮やかで、すこぶる知的でもある。

脚本監督のアーロン・ソーキンは実話ものの名手だが、場面の設定にすぐれて批評的なセンスを示す。技法的に最も徹底していたのが「ジョブス」だったが、今回は実話をドラマ化するのに加えてさらに現実に改めて投げかけた知的な操作を見せる。

これは今作らなくてはいけないという心ある映画人たちの気魄と才能が結集した重要作。






「空に住む」

2020年11月05日 | 映画
両親を交通事故でなくした若い女性が普通住めない高層マンションに叔父夫婦の世話で住むようになるのが、その高さが即、雲の上に住んでいるようなふわふわした感じを出した。

見下ろす位置にある広告看板のモデルの男性タレントが同じマンションにいるのが、位置関係を逆転させた感覚を映画に導入する。
都心に住んで通う勤め先の出版社が田舎とまではいかないが隣の県にあるみたいで、建物も社長も和風というのが通常と逆になっている。

空気感という言葉は曖昧で好きではないのだが、そういうふわっとした曖昧さにひとつの秩序を持たせている。




「エノーラ・ホームズの事件簿」

2020年11月04日 | 映画
シャーロックとマイクロフトのホームズ兄弟に、兄たち同様推理力に恵まれた妹エノーラ(Enola=aloneを逆にした名前)がいて活躍するという設定のパスティーシュ。

エノーラがまだはなはだ若いこともあって、ジュブナイル的なテイストが強く、ホームズものにあるドラッグや犯罪の魔窟がかったおどろおどろしさは薄い。

長男マイクロフト(どうでもいいが、この名前を変換しようとするとマイクロソフトに勝手になってしまう)があからさまに男尊女卑的な態度をとるせいもあって、現代らしくフェミニズム的なテイストも当然入っている。
主演のミリー・ボビー・ブラウンがプロデュースも兼ねているあたりからも来ているのだろう。

ワトスンを女にしたり、ホームズとワトスン両方とも女にしたりと色々なパスティーシュが作られてきたが、もともとのホームズものにホモソーシャルな性格がかなりあるのが突っ込まれている感じ。

ビリー・ワイルダー監督のパスティーシュ「シャーロック・ホームズの冒険」のシャーロックのワトスンに対するセリフで、「君はぼくのことを女嫌いだ女嫌いだとしきりと書くけれどね、ぼくは女性が嫌いなわけじゃない。ただ信用してないだけだ」というのがあったのが典型。

とはいえ、今回のシャーロックは横暴な兄に比べるとヘンリー・カヴィルがやっているせいもあって、かなりまとも。
続きを予感させる作りなので、今後シャーロックの方も変わっていきそう。




「朝が来る」

2020年11月03日 | 映画
子供ができずに養子をもらった夫婦のもとに、子供の産みの母親らしき女が訪れるという通常だったらストーリーが動き出すポイントまでがずいぶん長い。

ここで訪ねてきた女の顔が長くした金髪に隠れてよく見えず、回想に出てくるまだ中学生だった頃と同じ人物なのかどうかよくわからず、何か別人が恐喝まがいの目的で訪ねてきたのかと思った。

幼稚園児になった息子が他の園児をジャングルジムで押して落としてケガさせたと聞かされて養母が青くなる初めのエピソードなど、ストーリーとは関係ないではないかと思えた。

子供ができない夫婦の話なのかと思っていると、途中から望まない妊娠をしてしまった中学生の話になってこれがえんえんと続く。
一種の二部構成になっていると考えていい。

通常のストーリーテリングだったら両者を交錯させるか、経緯を訪問者とのやりとりと絡めた回想を使うかしてバランスをとるだろうが、ここではそういうやり方はしていない。

それが上手くいったかどうか、一概に言えないけれど、結果として実の母の蒔田彩珠と育ての母の永作博美(および父)、および両者をつなぐ浅田美代子がともに同じくらいの比重になって、昔の母もの「母三人」のリアリズム版みたいな感じにもなった。
そのため話の大元である無精子症の養父の井浦新が押し出されたみたいな印象もある。

全体に不安定なアップが多く、ときおり広島、瀬戸内海の風景が出てくるとほっとする。
まったくの偶然ながら広島・宮島に行ってきてホテルにこの映画のロケの記念写真と河瀬監督と浅田美代子のサインが飾られているのを見てきたばかり。














「レベッカ」(2020)

2020年11月02日 | 映画
オリジナルはヒッチコックのアメリカでの第一作で、ゴチックロマンの原作にふさわしく白黒のグルーミーな雰囲気醸成に優れ、ことに亡きレベッカ様に対する妄執の域に達した忠誠心に凝り固まりマンダレー屋敷の新しい女主人になったヒロインを精神的に追い込んでいく家政婦長ダンヴァース夫人役のジュディス・アンダーソンが怖かった。

今回のクリスティン・スコット・トーマスは、メイクから立ち居振る舞いまでオリジナルによく似ているが、この人なら新しい解釈や表現もできたと思うだけにちょっと物足りない。

展開はほとんどオリジナルと同じだが、ベッドシーンが付け加えられたのと、オリジナルのラストで屋敷と共にダンヴァース夫人が焼け死にレベッカのRのイニシャルの刺繍が炎に呑まれていくという切れ味の良さに対して、屋敷を脱出した夫人が二時間ドラマばりに断崖のそばに行き、ヒロインとやり取りするというのはどうも長たらしい。

主演がリリー・ジェームズということもあって、画面の感触は「ダウントンアビー」ばりのファッショナブルなテイストが強い。
屋敷の調度品の豪華さは見もの。





11月1日のつぶやき

2020年11月01日 | Weblog

2020年10月に読んだ本

2020年11月01日 | 
読んだ本の数:18
読んだページ数:3811
ナイス数:0


読了日:10月31日 著者:折口 信夫



読了日:10月31日 著者:さいふうめい,星野泰視



読了日:10月31日 著者:さいふうめい,星野泰視



読了日:10月31日 著者:さいふうめい,星野泰視



読了日:10月31日 著者:市川ヒロシ



読了日:10月18日 著者:笠太郎



読了日:10月18日 著者:網野善彦



読了日:10月17日 著者:神田 たけ志,小池 一夫



読了日:10月16日 


 
読了日:10月14日 著者:ジョージ スタイナー



読了日:10月12日 著者:太田 恒夫



読了日:10月12日 著者:高木 俊朗



読了日:10月09日 著者:



読了日:10月07日 著者:井上堅二,吉岡公威



読了日:10月07日 著者:井上堅二,吉岡公威



読了日:10月07日 著者:井上堅二,吉岡公威



読了日:10月07日 著者:小林 淳



読了日:10月02日 著者:秋月りす