浜村渚の計算ノート 5さつめ 鳴くよウグイス、平面上 (講談社文庫) | |
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講談社 |
・青柳碧人
本書は数学を初めとした理数科科目が弾圧される世界を描いた数学ミステリーシリーズの一冊だ。この世界では、数学が学校から放逐されていた。これに反対する数学大好き人間たちが作ったテロ組織、「黒い三角定規」がテロ活動を繰り広げているというなんとも面白い設定である。
これに対抗するために警視庁がかつぎだしたのが、千葉市立麻砂第二中学校2年の浜村渚。数学の天才的な才能を持つ美少女の卵だ。この物語では、渚が相棒役で語り手の警視庁刑事・武藤龍之介やその仲間たちといっしょに、「黒い三角定規」の計画するテロ活動を阻止するために大活躍する。
「黒い三角定規」を率いるドクターピタゴラスこと高木源一郎が病死し、後継者として選ばれたのが、武藤の知り合いである森本洋一郎。しかし組織内部ではかなりごたごたがあるようだ。渚たちと「黒い三角定規」との闘いはいったいどうなっていくのか。
この作品は数学をモチーフにしているため、犯行にも数学が絡んでいるのが特徴だ。コミカルな文体で書かれているのだが、コメディ一色というわけではない。ミステリーとしての性格をもち、テロ組織を相手にしているのだから、当然殺人事件も起きている。ただし結構ヘンな事件が多い。
また、出てくる敵は数学者をもじったような名前を名乗る変なやつばかり。例えばこの巻では、メランコリア星人デューラー、ぽっぽ・ザ・ディレクトリ、キューティー・オイラー、アドミラル・ガウスといった具合だ。中には名前の通り、変人としか思えない奴もいる
彼らの犯罪に対抗できるのは、渚の数学の才能と数学への愛。今回出てくる数学に関するものは、魔方陣、鳩の巣原理、パップス・ギュルダンの定理、円錐曲線、判別式等。ストーリーを楽しみながら、数学に親しむことができるというのは、この作品の大きな魅力だろう。
ところで昨今は、昔に比べて高校での理系課目の扱いがどんどん疎かになっている。それを鑑みれば、このような世界がいくら小説の中のものだと言っても、そう笑ってばかりではいられない。この作品をきっかけに、理数系の科目に興味を持つ子供たち(大人も)が増えてくれればいいと思うのだが。
○出てくる数学問題の解説
・鳩の巣原理
☆☆☆☆☆
※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。