文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:決算書の9割は嘘である

2016-05-09 11:29:17 | 書評:ビジネス
決算書の9割は嘘である (幻冬舎新書)
クリエーター情報なし
幻冬舎

・大村大次郎

 著者は、国税局に10年勤務した元国税調査官のフリーライターということだ。本書は、著者の国税調査官時代の経験から生まれたものである。

 「国税調査課の調査事績」によれば、2008年度の調査で、86.5%の大企業で、決算書が間違っていたという。この数字は、追徴課税できるような過小申告が主だという。利益を水増ししている粉飾決算の場合は、税金を払い戻ししないといけなくなるために、調査官は黙認する傾向があるというから驚く。これって、広く国民に奉仕する立場である公務員の姿勢としてどうなんだろうと思うのだが。

 ところで、決算書は、嘘があるという前提で読まなければならないというのが本書の主張だ。そのうえで、嘘に惑わされることなく重要な情報を読み取る必要があるというのである。

 どうして決算書で嘘がつけるのか。実は決算書にはかなりの恣意性が入るということは、企業経営に詳しい方ならご存知だろう。合法的な範囲でもある程度は数字の調整ができるのである。

 そのうえ、本書で述べているように、決算書には、嘘をつきやすい勘定科目がけっこうある。決算書に騙されないためには、どんな勘定科目が嘘をつきやすいかを知り、数年分の流れをみることが必要だと著者は主張する。

 本書では、粉飾決算や脱税の手口について、それぞれ1章を割いて解説してある。これらを参考にすれば、決算書の嘘は見破りやすくなるだろう。

 また、危ない会社の見分け方も記載されているので、株式投資などを考える際には参考になる。勿論、最後は自分の頭で考え、自己責任で行うということは、言うまでもないことだが。

 最後に、冒頭の86.5%という数字に戻るが、これだけ間違いが多いとなると、この数字が果たして企業側だけのせいだろうかという疑問が湧く。税務制度はころころと猫の目のように変わる。必要もないのにやたらと制度を変えて、仕事をしているアピールをする「困ったちゃん」が一般企業にはよく見られる。税務側にもそんな人物がいるのではないかと、つい勘ぐってしまうのだが。

 加えて、現在の制度はルール自体が複雑だ。ルールというものは、誰がみても分かるようにシンプルであることが望ましい。税制度にはあいまいさがあるので、課税された中には、いわゆる「見解の相違」ということも多いのだろうと思う。税務署側の担当者も、人によって言うことが違うという話を聞いたことがある。すべてが企業側の責任とも思えない。

 日本人は、「泣く子と地頭には勝てない」という考え方をする民族だ。争うよりは、お手柄を持たせて帰らせようといった事例も多いのではないか。見解の相違などがでるようでは、ルール自体があまり良くないということなのだろう。

 本書を精読すれば、決算書に騙されることは少なくなりそうだ。しかし税務制度自体にも課題が多そうである。そんなことを考えながら、本書を読み終わった。

☆☆☆☆

※本記事は、書評専門の拙ブログ「風竜胆の書評」に掲載したものです。

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