天久鷹央の推理カルテシリーズなどで知られるミステリー作家であり、現役の医師でもある著者による本書。知念さんは、最近ワクチンに関する事項をツイッターで発信しているので、私も読ませてもらっている。
水木千早は外科医である。純正医大を卒業後2年間の初期研修後純正医大第一外科医局に入って3年間外科医として勤務し、今は慣例に従い、病理部で1年間の修行中。彼女の指導医が、大学の同級生だった刀祢紫織。
千早の父・穣は末期がんのため、彼女の勤める病院に入院中だが、千早とは微妙な関係だった。その穣がある時見舞いに来た千早に言った言葉。
「たんに血が繋がっているからといって、親子になれるわけじゃない」(p26)
穣の血が繋がった子供は、自分しかいないはず。千早はそれを自分に対する拒絶の言葉だと思い落ち込む。
さらに、穣は奇妙な遺言を残していた。自分が死んだら解剖してくれというのだ。穣の胃には、内視鏡で暗号が刻まれていた。千早は、警備員とばかり思っていた穣が、元刑事だったことを、彼女に接触してきた警視庁捜査一課の刑事である桜井公康から知らされる。穣が追っていたのは、「千羽鶴」と呼ばれる連続幼女殺人鬼。28年前のことだ。そして、穣の胃に刻まれた暗号の示す場所には、千羽鶴の5番目かつ最後の被害者となる1歳になったばかりの陣内桜子と目される遺骨が埋まっていた。穣の死後千羽鶴は28年の時を超えて犯行を再開する。ただし、今度のターゲットは幼女ではなく大人の女性だ。
なぜ、穣は陣内桜子の遺骨の場所を知っていたのか?彼の「たんに血が繋がって・・・」と言う発言の真意は?なぜ千羽鶴は28年の時を超えて再び犯行を重ね始めたのか。
現役の医師らしく、豊富な医学的な知識が散りばめられている。もちろん、本筋のミステリー部分も意外性満載。読みだしたら止まらなくなる良質の医学ミステリーだろう。もうひとつ、事件を通じて、大学の同級生だったとはいえ、さほど親しくもなかった千早と紫織が鉄壁のコンビになっていく。これは二人を主人公にしたシリーズ化の予感。
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