チクチク テクテク 初めて日本に来たパグと30年ぶりに日本に帰ってきた私

大好きな刺繍と大好きなパグ
香港生活を30年で切り上げて、日本に戻りました。
モモさん初めての日本です。

小津安二郎を観る

2014年06月09日 | 映画

雨、25度、86%

 テレビの前に2時間近くもじっと座っているなんて、普段はなかなか出来ません。主人でもいれば15分座っているのがせいぜいです。やれ、お茶だ、やれ、眼鏡だ。自分一人のとき、時間を作ってテレビの前にドンと座ることがあります。年に2回ほど、小津安二郎のDVDを観るためです。出来たら、外は雨降りの方がいいですね。

 小津安二郎という映画監督の名前は知っていましたが。私が2、3歳の時にすでに他界した監督です。実際に映画を見たことはないままでした。十年ほど前でしょうか、何かの映画書評に小津の「彼岸花」のことが書かれていました。この映画が小津のカラー作品の第一作目です。その書評は、小津のカラー映画全般にいつも書かれる色彩の妙について書かれています。ご存知の方も多いでしょうが、必ずといいていいほど、赤がうまく使われているのです。昭和30年代初期の日本の家庭の中に赤という色は稀な色として写し出されています。朱の利いた湯のみ、赤い薬缶など。そこで、片っ端から小津の手に入る作品をDVDで買い求めました。そのうち、日本でも小津ブームが復活したかのようにいろいろな企画が催されていました。香港にも、小津の一連の作品が紹介されたのはその頃です。

 よく小津の作品は同じようなものばかりでと聞きます。これだけ繰り返し観ているのに、未だに作品名と作品の区別がつきません。あまりにも、カラー作品の赤のことが取沙汰されるので、最近観るのは専ら白黒映画ばかりです。白黒だと自分で想像して、色を映画の上にのせることが出来ます。老夫婦が見上げる空に高く高く舞い上がって行く風船の色を、やはり赤かしらと思うこともあれば、青かなと思うことも出来ます。カラー映画だと、明らかに誰々の手になる湯のみだと分かるものでも、白黒映画だと土瓶に描かれた大きな丸は焦げ茶かしら?鉄赤もいいわといった具合です。

 ただ、女優たちの着る着物に関していえば、やはりカラーに越したことはありません。山本富士子が着る紅型の色合い、杉村晴子が着る琉球がすり、上物ではない普段着の着物のよさを何処までも見せてくれます。白黒映画でもはっきり分かるのは白い色。あの頃は男も女も子供も大人も、白いシャツ白いブラウスを着ています。いえ、小津が衣装に白のシャツ白のブラウスを選んだに違いありません。白のシャツ白のブラウスの持つ意味を、何処までも知り尽くした監督のなせる技です。

 携帯電話も出てこない、テレビすら出てこない、私が産まれる以前の日本の映画。香港の忙しない外の空気と裏腹に、たまの雨降りの日、私には、ゆっくりした時間が流れます。

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