晴れ、27度、85%
私の実家の改築を決めたのは、昨年の年明けでした。取り壊して売却するつもりでいた私に主人は改築を薦めます。古い家ですので、寒さや使い勝手の悪さを考えると、改築は億劫になります。私のそんな気持ちを覆したのは、いい仕事をなさっている工務店との出会いでした。
実際に工事にかかってもらってからは、すでに1年2ヶ月が経ちます。皆さんエッと思われるでしょうが、一時期、我家は屋根と柱のみになっていました。まあ、すぐに移り住む家ではありませんが、やっと形になって来て少し先が見えてきました。
一番広い座敷の梁など、私は見たこともありませんでした。だって、天井板が張られていました。主人は、天井板を外し吹き抜けにしたいと言います。でも、冬の光熱費を心配する主婦の私は、反対でした。ところが天井板が外され、その梁の姿を見たら、なんとまあ素敵なことか、 一番高いところは4.5メーターあるそうです。 今、そう書いた途端、掃除はどうしよう?と頭をよぎりました。いくらの私でも、この高さよじ上れません。まあ、ゆっくり策を練りましょう。この座敷は、廻り縁になっています。縁側の外には小さな蟹がいる池がありました。お手洗いから出てすぐの池でしたから、蹲いが置かれています。手水を使うための石です。この蹲いも場所を移して使われることになっています。
いよいよ、建具の段取りに入りました。ありがたいことに我家の古い建具を工務店の方は取って下さっています。基本は、この古い建具を使いたいと思っています。夏障子なんて、今はあまり見られないものもあります。 この板の引き戸、くり抜かれたところには磨りガラスが入っています。手洗い、風呂場に使われていた板戸です。こんな板戸、他所でも見たことがありません。
天井との境の長押にもこうしてガラス戸が入っています。こうした作りも、見れば見るほど良く出来ています。主人が取り払いたかった床の間横の欄間は、残してもらいました。 手彫りの松に鶴の欄間です。実は玄関脇の松の木が、昨夏急に枯れました。切り株だけを残してもらうつもりですが、徒長する前のその松はうつくしい形をしていました。この欄間の松は、きっとあの松の木の写し絵だと思います。
どこにはどんな建具を入れるそんなことを思いながら、家を外から見ると、サッシの部分はいささか見劣りがするものです。それでも外回りだからと割り切ってみます。
今一番の懸念が、玄関の引き戸です。母が、モダンにと作り変えた真四角なガラス戸もいいのですが、まだ私が子供だった頃の引き戸は、千本格子といわれるものでした、その千本格子を誂えてもらおうか、なんといっても玄関は顔ですから、考えます。
庭周りも造作が終わり、預けてある家具がこの家に納まるのは、秋口になるかもしれません。
家を扱いはじめて、母が逝きました。その母を追うように松の木が枯れました。でも、新しくこの家にもう一度命を吹き込んでやるつもりです。