雨、26度,90%、シグナル1
ベトナム、ハノイの郊外バッチャンという村で焼かれる素朴な絵付けの焼き物があります。ろくろは使わず鋳型で形成,手書きの絵付けです。安南(ベトナム)焼きと言われる物にはこのバッチャン焼きの他に白磁、青磁が含まれるそうです。
このバッチャン焼きの絵の面白さは,トンボではないかと思います。主な絵柄は,トンボに菊に蓮に金魚です。トンボ柄,日本では蜻蛉手として日本の絵付けにも使われています。トンボも菊も金魚も蓮もベトナムでは、縁起のいい絵柄だそうです。
私が持つ唯一のバッチャン焼きは,お丼とレンゲのセットです。求めたのはここ香港のフランス人が経営するお店です。 正確には蓮とトンボ柄。トンボの伸びやかな姿に魅かれて求めました。バッチャン焼きには、青い呉須の染付け以外に赤の染付け,ややピンクに近い染付けがあります。レンゲには、
もちろんレンゲ置にも、
トンボのオンパレードです。もう10数年前に求めたトンボのお丼です。
友人が赤い花柄のバッチャン焼きのティーセットを持っていました。ティーセット,カップ&ソーサーにポットが付いた物です。その赤の具合、大きさ,土の温もりが好きで好きで欲しくて仕方ありません。4年ほど前でしたか主人がホーチミンに仕事で行く事になりました。私の頭の中は,この赤いティーセットとベトナム刺繍。随いておいでとのお言葉にホイホイとホーチミンに。行く前にはバッチャン焼きのいい物が置いている店,刺繍のいい物が置いてある店を調べて出かけました。それともう一つ,蓮のお茶。狙いはったた3つです。
ホーチミンのお土産屋さんではあまり質の良くないバッチャン焼きを見ました。いいといわれている店でも友人がバッチャン村で買い求めたようなティーセットはありません。刺繍にいたっても同じ事,香港で見るベトナム刺繍の繊細さはかけらも見えない荒い手仕事の物ばかりです。非常にがっかりする私、折角だからと何か買いなさいと主人に言われますが,結局,何も買わないで帰って来ました。
こんな残念な思いはベトナムばかりではありません。インドでも同じ思いがしました。ベトナムは元フランス領,インドは元イギリス領。バッチャン焼きにしても,ベトナム刺繍にしても,フランス人が一番いいものはベトナム以外で高く売っているのだと思います。インドの刺繍も見事です。我が家のクッションカバー,お店はロンドンのチェルシー,つまりここでも一番出来の良い物は,インドの外で売られているのです。まだまだ残る植民地時代の構図です。
友人の持つ赤いバッチャン焼きのティーセット,いつも心の片隅で疼いています。でも,あの華やかな赤は私の色ではないような気もします。
ベトナムでは、幸せを運んで来るトンボさん。一足先に日本の家に送り返したこのお丼、一つ一つ絵付けするベトナムの人の様子を思い浮かべて使います。