曇り、25度、78%
小さい頃からアイロンをかけるのが好きです。母が家事をしない人でしたから,制服にアイロンをかけるのは自分の仕事です。失敗もいっぱいしています。焦がしてしまって,母に叱られました。
自分のためのアイロンを買ったのは,家を出て一人暮らしを始めたときですから18のときです。横浜の高島屋ので家電売り場で買いました。GEのスチームアイロンです。他のアイロンと比較した記憶もありません,目に付いて、これっと買ったアイロンです。つまり一目惚れです。がっしりして重く、コットン、ウールと書かれた小さな文字盤もスチームのためのボタンもどれもこれも凄く洒落ていました。GEの飾りマークがポツンと付いていました。日本製が丈夫だなんて言いますが,びくともせずにいい仕事ぶりでした。もちろん香港にも連れて来ました。電圧が違いますから変圧器を通して使います。変圧器を通すと,電気製品の持ちが悪くなるそうです。日本から連れて来た電気製品のうち一番始めに壊れたのがこのアイロンでした。アイロン掛けは毎日のルーティーンです。すぐに新しいのを買ったのですが,壊れたGEのアイロン捨てきれずにいました。引っ越しの時、辛い思いをして分かれたアイロンです。
新しく買ったアイロンは,軽いアイロンでした。アイロン自体が重さで伸して行く物ではなくなって来ていました。重みと熱さでグッグと伸ばして行くのではなく,軽くなどるようなアイロンに変わっていました。このアイロンどうしたものか温度調節がうまくいかずに今のアイロンに替えました。2つ目のアイロンは,アメリカのブラック&デッカーの物でした。香港では日本製のアイロン,フィリップやティファールの物が主流です。3台目のアイロンは,パナソニックのスケルトン。今やアイロンは世界中スケルトンタイプの物です。しかも軽い素材で出来ています。もう10年以上,問題なく使っています。
でも忘れられない,GEのアイロンでした。何かのグラビアの写真の一部に小さく写っているアイロンが,懐かしいGEのアイロンにそっくりなのを発見したのは、数年前の事、ウェッブで調べると,ドイツの会社が昔のGEのアイロンの復刻版を作っています。しかも,日本でも売られているとの事。香港で探しますがありません。日本に帰ったら,この復刻版のアイロンを買うのだと心に決めていました。
日本の家に電化製品を徐々に買い揃えています。今回の帰国ではオイルヒーターとアイロン。もちろん,思い焦がれた例のアイロンです。箱から出て来たアイロンを見て,やっと会えたね,と涙が出ました。重い重いアイロンです。水の注ぎ口もそのまま。水を注ぐための小さなカップも昔のアイロンと同じく付いてます。
欲をいえばキリがありません。持ち手の黒い色もインディケーターのブルーもスチームのボタンの赤い色もGEのアイロンはもっと深い色でした。コードの色はブルーでした。写真が無いのに,目を瞑っただけでも,あのアイロンの姿が思い出されます。
アンティークで古いGEのアイロンは売られているそうですが,アイロンはお飾りではありません。使う物です。どんなに懐かしくてもお飾りのアイロンは不要です。このアイロンが,私の最後のアイロンになりますように。