今では、山間地の田畑は、周囲に電気柵が張り巡らしてあります。そうしなければ、作物が作れなくなったのです。
獣害のために、耕作を放棄してしまったところも多く、
耕作放棄地はたちまち藪になり、獣の隠れ場所や通り道となり、さらに被害が拡大するという悪循環が起きています。
イノシシは、増えているのでしょうか、昔とどこがかわったのでしょう。
図書館で猪の本を2冊借りてきました。
面白かったので紹介します。
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『猪変』
中国新聞取材班 編
本の雑誌社 2015年
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『泳ぐイノシシの時代 ーなぜ、イノシシは周辺の島々にわたるのか?ー』
びわ湖の森の生き物・6
高橋春成 著
サンライズ出版 2017年
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イノシシは、餌を探して、あるいは人に追われて、川を、湖を、海も巧みに泳いで渡るそうです。
(猪の仲間のバビルサ(インドネシアのイノシシの仲間)は潜ることもできるそうです。
イタチがラッコになったように、いつか見たことも無い生き物が生まれるかもしれません。)
琵琶湖の沖ノ島(漁業と石材業の島)は、滋賀県近江八幡市の沖合1、5キロの所にある、標高最高220メートルの小さな島です。
2009年に対岸から泳いでやってくるイノシシが目撃されて以来、
小さな畑で作られる、豆やサツマイモや里芋が、被害を受けています。
同様に、琵琶湖に浮かぶ竹生島(観音菩薩の霊場・札所)や瀬戸内の島々や、
九州の壱岐周辺の島々、天草諸島などで、以前は猪がいなかった島に、猪が上陸しているそうです。
(イノブタの飼育場から逃げ出した猪が野生化して増えてしまった、という島もあるそうです。)
↑ イノシシが泳いで渡った島々(アンケート調査より「泳ぐイノシシの時代」)
近年の猪の被害の拡大には様々な理由があります。
かつて、薪や山菜などを採るために絶えず人が入って手入れしていた(奥山と人里との間の)里山が失われたこと、
田畑に人の姿がない。(農村人口の減少)
犬の放し飼いが無くなった。天敵(狼)がいない。
集落全体の結束が失われたこと(個人で田畑を守らなくてはならない)
雑木林がスギやヒノキに変わり、獣の餌の木の実が少なくなったこと。
暖冬も影響があると考えられています。
ヨーロッパ(フランス・ポーランドなど)では、日本とは狩猟の伝統が違うようです。
今でも、狩猟は楽しみであり、社交の場でもあり、かつ、耕作地を守るためという責任もあり、
また、ビジネスでもあるそうです。
野性動物の研究者も多く、調査も進んでいるそうです。
フランスへ「猪変」の取材班が訪れた時、ドゴール空港の売店には、狩猟雑誌が並び、
なんと3種の狩猟雑誌の表紙が、すべてイノシシの写真だったそうです。イノシシは人気らしいです。
日本でも、イノシシやシカの肉は、山間部では、ご馳走だったと思いますが、
それを「楽しい、美味しい」と大きな声で言えない、
むしろ後ろめたい気持ちにさせられた時代が長く続いたことも、
今の状況に影響しているのかもしれません。