夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『チャイルド44』を読みました。

2015年08月09日 | 映画(番外編:映画と読み物)
7月に観た『チャイルド44 森に消えた子供たち』
サスペンスフルでとても面白かったけれど、
主人公の行動は説得力に欠け、犯人もただのイカレたオッサン。
ミステリーとしてはイマイチでしたから、
トム・ロブ・スミスの原作ではどうなっているのだろうと興味津々。
いまや積み上げた未読本が200冊になっているというのに、
通りすがりの鶴橋の老舗・高坂書店にて文庫上下巻を購入。

『このミス』にランクインしたときに読んだという友人は、
かなりとっつきにくかったと教えてくれました。
確かに、『卵をめぐる祖父の戦争』といい、
旧ソ連が舞台の話は重苦しくてとっつきにくい。
上巻は冒頭シーンが大きく異なるものの、まぁまぁ映画に忠実と言ってもよく、
こりゃ映画を先に観ていなければ、読み進めるのに苦労しただろうと思いました。

「ふ~ん、フツー」と思いながら下巻へ。
そうしたら、冒頭シーンの意味がわかる後半から、もう怒濤の面白さ。

完全ネタバレなので、原作をお読みになるご予定の方はご注意を。

原作の冒頭では、まだ少年の兄弟が森へ出かけます。
飢餓の時代、猫の鳴き声を聞いた兄のパーヴェルは、
弟のアンドレイを連れて、猫を捕らえるために森へ。
暗闇で猫を捕獲したかに思えたそのとき、パーヴェルの姿が見えなくなります。
実はパーヴェルはある夫婦に襲われて連れ去られたのです。

その夫婦は飢え死にしかけている自分の息子を助けるために、
パーヴェルを殺して息子に食べさせようとしていました。
しかし、意識を失ったパーヴェルを袋に詰め込んで帰ったときには息子はすでに死亡。
パーヴェルを殺す必要がなくなった夫婦は、パーヴェルに食糧を与え、
「帰ってもよいし、自分たちと一緒に来てもよい」と告げるのです。
以後、パーヴェルは夫婦の息子だったレオの名前で生きます。

大好きだった兄に見捨てられたと思ったアンドレイは、
パーヴェルのことを片時も忘れませんでした。
あるとき、戦争の英雄としてパーヴェルが掲載された新聞記事を目にします。
兄が軍の重要機関に勤めていることを知り、
アンドレイはパーヴェルにメッセージを送ることに。
そのメッセージというのが数々の猟奇殺人でした。

映画を観たときに原作は決してこうではなかったはずと感じたとおり、
犯人はただのイカレたオッサンではなかったし、
遺体の様子を見たレオが何かに突き動かされて、
事件に異様な執着を見せることも、原作を読めば納得。

レオとライーサの逃走劇に何の見返りもなく手を貸す人々。
このくだりには胸が熱くなります。
あきらかな狂人ながら、兄が気づいてくれるのをひたすら待つ弟、
その弟を自らの手で殺さなければならなくなった兄。

本作はロシアでは発禁処分になっているそうです。
理想国家では殺人事件など起こらない。
そう人々に言わせていたゆえに実際に起きたアンドレイ・チカチーロ事件。
著者はチカチーロ事件に着想を得たとのこと。
犯人の名前もここから来たものだったのですね。

下巻途中からはかなり興奮しました。
『このミス』も海外編のランキング1位は侮れず。

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