夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『スリー・ビルボード』

2018年02月12日 | 映画(さ行)
『スリー・ビルボード』(原題:Three Billboards Outside Ebbing, Missouri)
監督:マーティン・マクドナー
出演:フランシス・マクドーマンド,ウディ・ハレルソン,サム・ロックウェル,
   アビー・コーニッシュ,ジョン・ホークス,ピーター・ディンクレイジ他

前述の『羊の木』と同じくTOHOシネマズ梅田にて。
同じ劇場でちゃんと間に10分あり、正真正銘余裕ありのハシゴです。

予告編を観て大きな勘違いをしていました。
「7カ月前に殺された娘」ではなくて「7カ月の娘を殺された」と思っていたので、
フランシス・マクドーマンドに生後7カ月の娘がいる設定って無理やろと。
確かに素晴らしい女優ですけれど、なんてったって還暦ですから。
観始めてようやく勘違いに気づきました。よかった、還暦のお産じゃなくて。(^o^;

アメリカ・ミズーリ州の田舎町エビング。
シングルマザーのミルドレッド・ヘイズは、7カ月前に娘のアンジェラを失った。
ティーンエイジャーだったアンジェラは、レイプされたうえに焼かれたのだ。
犯人はいまだ逮捕されず、そればかりか手がかりすら見つかっていない。
業を煮やしたミルドレッドは、あることを考えつく。

何もない道路の脇に立つ大きな広告板3つ。
ミルドレッドはその広告板の所有者レッドのもとを訪ねると、
これから1年、広告板を3枚とも契約したいと前金を払う。
広告板に書かれた文字は、警察の怠慢を揶揄するもの。

名指しで批判されたのは、住民の誰もが敬愛する署長ビル・ウィロビー署長。
ビルは困惑しながらも冷静丁寧に対応しようとするが、
その部下ジェイソン・ディクソン巡査は、ミルドレッドに腹が立って仕方がない。

マスコミにも取り上げられたものだから、広告板は瞬く間に噂に。
ミルドレッドの息子ロビーは学校でいじめられ、
広告板を外すようにと牧師が諭しにくるが、その牧師にも彼女は暴言を吐く。
行く先々で嫌がらせを受けるようになっても、決して広告板を降ろそうとせず……。

たぶん今からいろいろとネタバレします。

冒頭で書いたように勘違いしていたほか、
批判される署長がどうせ嫌な奴で、彼女の広告板をきっかけに町が動き出す、
そんな話を想像していたのですが、甘かった。そんな単純な話じゃなく。

ウディ・ハレルソンハゲ役者のなかで私がかなり好きな俳優。
彼が署長のビル役で、これが実に人徳のある人。
住民や部下一同に敬愛されてしかるべき人物で、しかも末期の膵臓癌
みんながミルドレッドを責めるのは、余命わずかな、
しかもあんなええ人をいじめてどうするねんという理由から。
小さな町のこと、署長が末期癌に冒されていることぐらい彼女だって承知のうえ。
だけど広告板を掲げずにはいられないのです。

彼女にも彼女の事情がある。
その部分を知ると、全面的に彼女の味方はできなくなります。
息子のロビーがこれまたいい子なのだけど、
時折クソババアと言い放ちたくなるほど、ミルドレッドにはクソなところも。
彼女が娘の言い分を聞いていれば、娘は殺されなかったかもしれない。
それを認めたくなくて、ミルドレッドは死にものぐるい。

圧巻はクソ巡査役のサム・ロックウェル。この人は不思議な俳優ですね。
カワイイとも言える男前なのに、悪役のほうが似合う。
今回も、マザコンで、暴力的で、人種差別主義者のろくでなしなわけですが、
署長を慕う気持ちは本当にピュア。
その署長が遺した言葉が彼に変化をもたらします。

なんとも凄い作品でした。
わかりやすいオチの作品を観ることが多い人なら、
「ここで終わるの?」と不満いっぱいのことでしょう。
そこも本作の魅力。

ミルドレッドとジェイソンの旅についていきたい気分。

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