『美晴に傘を』
監督:渋谷悠
出演:升毅,田中美里,日高麻鈴,宮本凜音,和田聰宏,上原剛史,井上薫,
阿南健治,織田あいか,菅沼岳,和田ひろこ,徳岡温朗他
イオンシネマ茨木にて。
本ブログを書くときに参考にしている映画のデータベースには映画のタイトルと監督の名前、
キャストわずか3名の情報しか記載されていませんでした。
これって、ご当地ムービー的な要素の強い作品なのかと訝る。
ご当地ムービーはどれもそれなりに味があるものの、内輪で盛り上がっている感が強いのも事実。
で、スルー寸前だったのですが、イオンにコーヒーを買いに行くついでに観ようかと。
後から調べたことですが、渋谷悠監督は日本語と英語に堪能なバイリンガルで、どちらの言語でも本を書くそうな。
劇作家であり脚本家であり、舞台演出家でもあって、劇団も主宰。多才な人のようです。
結論から言って、スルーせずに観てよかった。
詩人なんて食べて行けるわけがない、何を馬鹿なことをと腹を立てた善次は、光雄を家から追い出す。
上京した光雄は透子(田中美里)と結婚、2人の娘に恵まれる。
時折、光雄から善次のもとへ手紙が届いていたが、善次が返事を書くことはなかった。
そして、光雄は癌で亡くなってしまう。
透子から訃報を受け取りながらも、東京で執りおこなわれた葬儀に参列しなかった善次。
漁師仲間から声をかけられても陽気に返すことはできず、沈んだままのところへ、
息子の妻とはいえ、善次が意地を張っていたせいで一度も会ったことはなく、「はじめまして」。
しばらく滞在させてもらうと言って上がり込んできた3人に善次は戸惑うのだが……。
美晴は聴覚過敏の自閉症。
突然やってきたそんな孫にどう接してよいかわからない善次は、つい「知恵遅れ」などと口走ってしまいます。
透子と娘たちはとても良い親子関係を築いてはいるものの、透子は美晴のことを心配しすぎ。
何も自分でやらせてもらえない心の裡を美晴は口に出すことができません。
凜がめちゃめちゃ良い子なんですよね。見た目はイマドキの子で、口も良くはない。
善次を訪ねることになったときも「会ったことのないお爺ちゃんなんて、ただの爺ちゃんじゃん」。笑いました。
けれど、姉の美晴のことをよくわかっていて、彼女の思いを尊重します。
まさか漁師の町でワイナリーの話が出てくるとは思わず、それも楽しかったところ。
いちばん心に刺さったのは、善次と書道の先生(井上薫)とのやりとりです。
光雄に返事をしなかったのは、実は善次が上手く字を書けなかったから。
詩人になるような息子なのだから、父親はちゃんとした字を書けなければ手紙を書くのは恥ずかしいと善次は思っていました。
書道を習いはじめたのに、手紙を書く前に息子が亡くなってしまった。
先生は「漢字の書き順が大事だ」と言っていた。人の場合も同じではないのか。
親より先に子どもが死ねば、めちゃくちゃになるのではないかと言う善次に、先生は答えます。
確かに順序は大事だと言ったけど、たとえ順序が変わっても、意味は変わらないと。
そう思いたいです。