雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

花の木ならぬは

2015-01-18 11:00:58 | 『枕草子』 清少納言さまからの贈り物
          枕草子 第三十七段  花の木ならぬは
 
花の木ならぬは、
楓。
桂。
五葉。
     (以下割愛)


花を鑑賞するものではない木としては、楓、桂、五葉の松。

たそばの木(かなめもち)は、気品に乏しい気がしますが、花咲く木々が、すっかり散ってしまって、あたり一面新緑になってしまった中で、時節にお構いなく、濃い紅葉がつやつやした感じで、思いもかけない青葉の中からさし出でているのは、目新しくていいものです。
まゆみ(ニシキギ)の良さは、いまさら言うまでもありません。

特定の木を指すのではありませんが、宿り木という名前は、とてもしみじみと胸にしみいる感じがします。
榊は、臨時の祭の御神楽の時など、たいへん風雅なものです。世の中に木はたくさんありますが、その中で特にこの木は神の御前に奉る物として生育し始めたそうであることも、とても興味がわきます。

楠の木は、植木の多い邸でも、めったに他の木に混じって植えていることはなく、たくさんの木が生い茂っているような楠の木が生えている場所を思い浮かべると気味が悪いのですが、「千の枝に分かれて」いて、恋する人の千々に乱れる心の引き合いとして歌に詠まれていますが、「誰がその数を知っていて言い始めたのだろう」と思うと可笑しくなります。

檜の木は、これも身近にはない木ですが、「三つ葉四つ葉の殿造り」と、めでたい謡に歌われているのもおもしろい。「五月に、その雫で五月雨の音のまねをする(漢詩からの連想か)」とかいわれるのも、なかなか趣があります。

楓の木は、小さく萌え出ている、葉の先の方が赤らんでいて、同じ方向に広がっている葉の様子がおもしろいし、また花もとても頼りなさそうに見えて、まるで虫などが干からびているようで可笑しい。

あすはひの木は、この近辺では見も聞きもしないのですが、、ただ、吉野金峰山に参詣して帰って来る人などが、持ってくるようです。その枝ぶりなどは、とても手で触れられそうもないほど荒々しいけれど、どういうつもりで「あすはひの木」と名付けたのでしょうか。あてにならない約束ごとですこと。
「誰と約束したのだろうか」と思うにつけ、その相手の名前をを聞きたくて、興味がわきます。

ねずもちの木は、一人前の木として扱うほどでもありませんが、葉がたいへん細かくて小さいのが、おもしろいのです。

おうちの木。山橘。山梨の木。

椎の木。常盤木はどれでも落葉しないものですのに、椎の木を特に「葉を替えない」例として歌に詠まれているのに興味があります。

白樫などという木は、深山の木の中でもとりわけ親しみの薄いもので、せいぜい三位や二位の袍を染める時くらいに、葉だけを見る程度なので、情緒があるとか、すばらしいこととして取り立てていうほどの木ではありませんが、あたり一面に雪が降り積もっているように見間違えられ、須佐之男命が出雲の国にお出かけになったことを思って、人麻呂が詠んだ歌などを考えて見ると、とてもしみじみとした感じがするのです。
その折々にふれて、何か一つしみじみ心をうたれたり、興味深く聞いて心にとめておいたものは、草も、木も、鳥も、虫も、とてもおろそかには思えないものですねぇ。

譲り葉のたいへんふさふさとして光沢があり、茎がとても赤くきらきらとしているのは、少し品がありませんが、ちょと良いものです。
この譲り葉は、「ふだんの月には、見かけませんのに、十二月の末日になると幅をきかせて、亡き人の精霊に供える食べ物に敷くのに使われるのだ」と、しみじみと思っていますと、一方で、寿命を延ばすおめでたい歯固めの食膳の品としても使っているのですよ。
いったいどういう世をいうのでしょうか、「紅葉せむ世や」と歌に詠まれているのですから、頼もしいことです。
(「旅人に宿かすが野のゆづる葉の紅葉せむ世や君を忘れむ」の和歌からの引用。譲り葉は紅葉しないので使われている)

柏木は、とてもおもしろい。葉を守る神さまがいらっしゃるようなのも、たいへん尊いことです(大和物語からの引用)。兵衛の督、佐、尉などを柏木というのも、おもしろい。

木の格好は良くありませんが、しゅろの木は、中国風で、身分の低い家の植木には見えません。



第三十四段の「木の花は・・・」と対をなす形の章段ですが、それぞれに和歌などからの引用や、風習などが織り込まれていて、少納言さま得意の章段の一つではないでしょうか。

なお、しゅろの木というのは少々意外に感じられるのですが、清涼殿東庭に植えられたという記録があるようです。

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