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読書「ウィンWIN」ハーラン・コーベン著2022年小学館文庫刊

2023-06-30 09:18:23 | 読書
 自他共に認める大金持ちウィンザー・ホーン・ロックウッド三世。ウィンと自称している。推定年齢40代半ば。ハリウッド女優との間にイマという娘がいる。後半この娘にメロメロになる場面もあって、男親というのは娘にも異性の匂いを敏感に感じるものなのだろうかと思ったりする。

 そのウィン、どんな男なのか明らかにしてみよう。大金持ちの御曹司だからプライベート・ジェット機、プライベート・ヘリコプター、運転手付きのリムジン、自分で運転するジャガーXKRーS GT。この車のエレガントな乗り心地とスポーティな内装には、サマになる“オトコ”の条件ははるかにハードルが高いとネットの記事。そうウィンのような男にはお似合いだろう。

 ピンストライプの淡いブルーのサヴィル・ロー(ロンドン中心部のメイフェアにある通り。オーダーメイド紳士服店が集まっている)特別仕立てのスーツ、ジョージ・クレバリーのボルドーカラーの誂え靴、リリー・ピュリッツアーの限定販売品であるピンクとグリーンのシルクタイ、それに花びらのように整えて左胸に挿したエルメスのポケットチーフ。しかも頭脳明晰でハンサムあらゆる武術に通じていて、相手次第ではセックスに準ずる愉悦を堪能する。もちろん独身。セックスもこよなく愛する男で、ランデブー・アプリで相手を見つける。身元はお互い明示してあって、もめごとには発展しない。男女を問わずセックスそのものを楽しみたいという時もあるだろう。

 ウィンのお相手はそれなりの身分と地位にある。ある時、親友のマイロンの元恋人ジェシカ・カルヴァーと楽しいひと時を過ごす。そんな折FBI捜査官の訪問を受ける。同道した先はセントラルパークが見渡せる高層マンション。その20階の部屋で男が死んでいて、WHL3ウィンザー・ホーン・ロックウッド3世のイニシャルの入ったスーツケースも見つかる。FBIはウィンに疑いの目を向けている。

 電話は意外なところから掛かってくる。元FBI捜査官のPTからだ。ウィンはPTとしか知らない。本名も住んでいるところも独身か否かもしらない。ウィンが大学を卒業した後、FBIに勤めたことがあって、その時の指導教官がPTだった。かくしてウィンは事件に巻き込まれた。

 その後の展開に読書の醍醐味を堪能したのは言うまでもない。ドイツ系のアメリカ人の父と日本人の母との間に生まれたアン・アキコ・マイヤースのヴァイオリン演奏をBGMに。なお本作は著者の「マイロン・ボライター・シリーズ」からのスピン・オフ作品という。

それでは、アン・アキコ・マイヤースの演奏を聴きましょう。バッハのG線上のアリアです。
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読書「潔白の法則THE LOW OF INNOCENCE」マイクル・コナリー著2022年講談社文庫刊

2023-06-22 08:28:02 | 読書
 有能な刑事弁護士ミッキー・ハラーが殺人容疑で逮捕される。検察側とどのような駆け引きを展開するのか、興味津々で読み進む。

 ミッキー・ハラーは明確に「第三者有責性を狙う」と言った。この第三者有責性というのは、ほかの誰かがやった犯行であり、私は意図的にはめられたか、あるいは警察が無能極まりなく、ろくな論証ができず、その過程で私に濡れ衣着せたという法律的表現という。したがってほとんど法廷場面で推移する。

 アメリカの裁判で重要視されるのが陪審員選びだ。専門のコンサルタントもいるという。テレビドラマでは「NCIS~ネイビー犯罪捜査班」のトニー役で人気だったマイケル・ウェザリー主演の「BULL/ブル 法廷を操る男」が面白い。

 男女、人種、職業、思想などチェック項目が多い。この本のこの部分を引用してみると「陪審員選定はある種の芸術形態である。社会データと文化データの研究と知識が必要であり、最後は直感がものをいう。最終的に望んでいるのは、真実を求めるためにその場にいる注意深い人々の一団だ。見極め、排除したいのは、真実を偏見のプリズムを通してみる人々だ――――人種的、政治的、文化的などなどの偏見プリズムで。そして何かの目的を果たすための隠れた動機を持つ人々だ」

 そんな中でミッキー・ハラーの家族思いが顕著になる。最初の妻で検察官のマギー・マクファーソンも休暇を取ってミッキーの共同弁護人を務める。その行為がミッキーの心の琴線に触れ、ミッキーは再びマギーを愛おしく思い始める。二人の間に生まれたヘイリーもロースクールの学生で両親の後を追っている。ミッキーにとって眼に入れても痛くない愛娘なのだ。ミッキーにとっっては、絶対無実を得なければならない。スリルを伴う法廷劇に時間を忘れる。
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読書「真珠湾の冬FIVE DECEMBERS」ジェイムズ・ケストレル著ハヤカワ・ミステリ2022年刊

2023-05-29 08:46:41 | 読書
 ハワイ ホノルル警察の刑事ジョー・マグレディが辿る過酷な運命から、将来の伴侶と決めた日本人女性サチと厳寒の野沢温泉で再会するまでの長大なドラマなのである。1941年11月26日から1945年12月31日までの5年の歳月は、日本人、アメリカ人を問わず劇的な変化の時代だった。その最たるものは、太平洋戦争だった。

 マグレディ刑事は勤務が終わって、ホノルルのバーでスコッチウイスキーを舐めていた時、上司のビーマー警部の呼び出しを受ける。時間外勤務になり翌日感謝祭も仕事だろうと思いながら、モリーを失望させることになることにも気をもむが、時間外手当を考えるとそれで何とかなりそうな気もする。事件現場を見るとそんなものは、一遍に吹っ飛んでしまった。梁から逆さにつるされて死んでいる男。毛布にくるまれて死んだ女。二人とも全裸だった。二人の関係は不明。

 この事件をきっかけにマグレディの捜査は、香港、東京へと及ぶ。身に覚えのない加重強制わいせつ罪に問われ香港の刑務所に収監されているとき、日本軍の進駐によって日本の統治下におかれる。そしてある日現れたのが、高橋寛成外務省第一書記官だった。高橋書記官の言によれば、ホノルルで殺された女性は、私の姪なのだ。ぜひ犯人を捕えてほしいというものだった。そして安全は保証すると。

 1944年11月から1945年8月までの東京大空襲下において、マグレディは高橋宅で起居していた。その時の様子が克明に描かれるが、著者の取材は全く正しく、私の記憶と寸分違わない。当時私は中学1年生で、大阪市郊外に住んでいた。

 米軍は時々夜間攻撃を仕掛けてきた。主に大火災を発生させる焼夷爆弾攻撃だった。夜空を赤々と染める大空襲を眺めながら、米軍とわが軍の力の差が歴然とするのを唖然として眺める。米軍のB29爆撃機は悠々と飛行し、迎え撃つわが戦闘機の機銃の赤く光る銃弾がB29機に届かず、まるでインポテンツのようにわなわなと落ちていく様子は我が国の末路を暗示しているかのようだった。

 戦争末期には迎撃もなし、地上からのサーチライトもなし、米軍は鍵のかかっていない住宅に押し入る強盗のように傍若無人だった。昼間にやってくる艦載機のお遊びは、歩行者を追い詰め銃弾で威嚇したりする。

 空襲の翌日、電車で大阪市内に行ってみた。電車が動いていること自体が不思議なんだが、そういえば停電がなかった気がする。戦後の検証によれば、皇居、京都・奈良、歴史的建造物などは学者の進言により。戦後日本統治を考慮して破壊しなかったといわれている。それらの一環として市民生活の基幹産業も避けたのかもしれない。

 電車の終点から外へ出ると何もない広々とした焼け野原が見渡せた。道路わきに男の焼死体が転がっていた。まるでガラガラ蛇がかま首をもたげるように、蛇口から水がポタポタと落ちていた。人の姿も見かけない。

 やがて終戦でマグレディはホノルルに帰った。5年も音信不通だったため、恋人モリーはかつてマグレディの相棒だったフィレッド・ボールと結婚していて1児を儲けていた。担当する事件そのものも未解決事件扱いになっていた。それでもマグレディは真相究明に注力する。そして意外な人物が浮上する。一級のミステリーであり恋愛小説でもある。

 ただ一つ気に入らないのは、表紙のデザインだ。日本語版では真珠湾攻撃時の写真だし、原語のキンドル版は男女二人がベッド脇にたたずむという絵柄なのだ。ここから見えるのは、日本では戦争を主題にアメリカではロマンスが主題と見て間違いないだろう。もっとセンスのいい表紙にできないのかと思ったりする。

 著者のジェイムズ・ケストレルは、本作で2022年にアメリカ探偵作家クラブのエドガー賞受賞。現在弁護士。ハワイ在住。
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読書「ジュリアン・ウェルズの葬られた秘密The Crime of Julian Wells」トマス・H・クック著ハヤカワ・ポケットミステリー・ブック2014年刊

2023-05-15 10:55:17 | 読書
 ロレッタは手を伸ばして、私の指に触れた。彼女の手は柔らかくて暖かかった。もう何年も味わっていない感触だった。この文脈から、俄然ロレッタとフィリップとの間に起こる微妙なさざ波を感知した。

 ロレッタはジュリアン・ウェルズの妹で、50代に入ったばかりだが若いころの美しさを脱ぎ捨てたのと引き換えに、洗練された美しさを手に入れ、息をのむほど優雅のしぐさでそれを纏っている。 と著者が言うが、洗練された美しさ? 息をのむほど優雅なしぐさ? となると誰を思い浮かべばいいのか。ハリウッドの女優でもすぐには思い浮かばない。やっとイメージしたのは、今は亡きダイアナ妃なのだ。

 「こんな素敵な人を放っておくのか、トマス」と思いながら読み進む。もともとジュリアンの自殺に伴うどうして自殺したのかという「何故」がテーマのミステリーで、ロレッタとフィリップのロマンスは、サイド・ストーリーの扱いではある。トマス・H・クックの上品な筆致で、さりげなく情熱が内に秘めたような表現が心に残る。

 ジュリアンは殺人事件の現場に赴き殺人者を分析するという異色の作家で、目を覆うような殺戮の現場を文章で再現したりする。なぜ自殺したのか、どうして助けられなかったのかという思いを抱き続ける友人の文芸評論家フィリップ・アンダーズとロレッタが謎を解き進めると、なんとフィリップの元国務省に勤めていた父が最後の扉を開けることになる。

 ミステリーの中でロマンスを強調するのも僭越に思うけれど、後半の大事な取り合わせということで以下文中の引用をしてみたい。
 ロレッタとともに謎を追いかけるのだが、フィリップの内面に変化が起こりつつあった。晴れ渡ったブエノスアイレス。目的地に向かうタクシーの中、フィリップの胸の奥から沸き起こったのは、過ぎ去った時間への懐かしさではなく、今も現在進行形で私の人生に難しい試練と目的を与えている謎めいた出来事への新たな決意だった。もちろん、それらの試練と目的はすでに私だけではなく、隣に座って窓から街路を見つめているロレッタをも巻き込んで、別の局面を迎えているのだった。
「きみはいまも初めて会ったときと変わらないね」私は彼女に言った。
彼女は私を見た「そんなことないわよ」
「いや。本心からそう思っているんだ」私は言った。「前になにかの本で読んだんだが、恐怖というのは人間にとって最後まで断ち切れない反応だそうだ。だが君に限っては違うね。好奇心のほうが勝ちそうな気がするよ」ロレッタは私の顔をまじまじと見た。
「まあ、フィリップ、そんな素敵な言葉をもらったのは生れてはじめてよ。これまで言われた中で一番うれしい言葉だわ」

こんなことがあった後、終盤では
 「今夜は一人でいたくないんだ、ロレッタ」
「もう一人きりじゃないわ。これからは」彼女は言った。
「もう一人きりじゃないね、これからは」私は同じ言葉を繰り返した。ロレッタは微笑んだ。この二人は、人生で最良の時を迎えたのである。

 さて、このような場面での音楽は? やはりクラシック音楽から選んだほうが小説の背景にマッチするだろう。 ということでマスネーの「タイスの瞑想曲」を選んだ。指揮 カラヤン ヴァイオリン ミシェル・シュヴァルベ 演奏 ベルリン・フィルハーモニー・オーケストラで聴きましょう。

 著者トマス・H・クック1947年9月19日 生まれは、アラバマ州デカルブ郡フォート・ペイン出身。1980年コロンビア大学大学院生のとき「鹿の死んだ夜」でデビュー。1997年『緋色の記憶』でエドガー賞 長編賞を受賞。現在75歳ケープコッド在住。著者は文中哲学的な蘊蓄(うんちく)を披露する。
「老いることとはたんに歳を取ることではなく、衰えて不快感が増すこと。今日の夜明けよりも明るい夜明けは来ない」そうだろうとは思うが、明るい夜明けも来ると思う。その人の生き方次第では。

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読書「森から来た少年THE BOY FROM THE WOOD」ハーラン・コーベン著2022年小学館文庫刊

2023-05-07 16:11:34 | 読書
 いじめられっ子の女子高生ナオミ・パインが行方不明になった。ニュージャージー州刑事弁護士ヘスタ・クリムスティーンが知ったのは、ナオミと同級生の孫のマシュウから相談を受けたからだ。

 このヘスタ・クリムスティーンは、70歳を超えた寡婦のやり手の弁護士。70歳を超えてからは自分の年齢を勘定しないという。それでもお色気がなくなったわけでもない。目下独身の警察署長のオーレン・カーマイケルについて、ハンサムで優しくて素敵だと思っている。ディナーに誘われると、まるで青春時代に戻った気分になる。

 そんなおばあちゃんが頼りにしているのがワイルド。ワイルドは34年前の1986年4月18日付ノース・ジャージー・ガゼット紙に「置き去りにされた“野生児“森で発見される」と報じられた、その本人なのだ。そんな過去もあって森を歩き回るのを日課としている。

 時計がなくてもぴったりと時間を当てるという野性的な面と気配りをするという繊細さも持つ。ナオミが通う高校の非常勤美術教師エイヴァ・オブライエンと男女の微妙な関係にもなる。ナオミの失踪からやがてマシュウのクラスメイト、ダッシュ・メイナードも行方が分からなくなる。ダッシュの父親は、成功した大物プロデューサーのダッシュ・メイナードなのだ。

 一人の女子高生の失踪から、やがて政治家のスキャンダル問題へと広がっていく。私はどうして政治家を登場させたのだろうと思ったが、勝手な推測をするとアメリカの国民の分断が背景にあって著者がどうしても言及したかったと。そして著者は政治学の蹄鉄理論を持ち出し、世の風潮を批判しているように見える。

  本作の政治家ラスティ・エガーズが言う「今の社会の仕組みは不公正で、アメリカ国民を裏切っている。それを正すには、まずその仕組みを根本から覆さなければならない」これには右派も左派も同調するだろう。まあ、そんなおまけもあるが、最後の最後に驚きの展開が待っている。最初は読み進むのが遅かったが、中盤以降は怒涛の勢いになった。

 ラスティ・エガーズはニュージャージー州出身のため当地出身の「ブルース・スプリングスティーン」「フランカ・シナトラ」、それにニュージャージーが舞台のテレビドラマ「ソプラノス/哀愁のマフィア」を3Sと呼んで愛着を持っているようなのだ。ここではブルース・スプリングスティーンの「Tougher than the rest」を聴きましょう。
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読書「業火の市」ドン・ウィンズロウ著2022年ハーパーコリンズ刊

2023-04-24 13:05:56 | 読書
 書き出しは「ダニー・ライアンが見ていると、海の中から一人の女が浮かび上がる。わだつみの夢から抜け出した幻の美女のように。けれども、この女は現実だ。トラブルの火種になりかねない。こんな美しい女は、たいてい厄介ごとをひき起こす」

 ブロンドの髪、深いブルーの瞳、黒のビキニが隠すというより強調しているボディ、腹は平らで張りがあり、脚は筋肉質ですべらかだ。その女を見ているダニ-ー・ライアンは、ロードアイランド州の州都プロヴィデンスでイラリア系マフィアと張り合うアイルランド系マフィアの一員だった。

 現在はイタリア系のマフィアと共存共栄の状態だった。これらの組織も、企業間競争と同様弱肉強食の世界である。ダニーは父親マーティ・ライアンから続くファミリーの一員で、妻もドンの娘テリと結婚している。そんな境遇にありながら、大・中・小の商店からのみかじめ料やトラックを襲って積み荷の強奪、売春、賭博などの上りで生きているのが疑問に思っている。しかし、現実は厳しい。

 ファミリーのドンには、長男パット、次男リアム、長女キャシー、ダニーの妻の次女テリという兄弟姉妹がいる。特に次男リアムが問題で、口先だけの男で実行力にかけるが、こいつがかなりハンサムときている。そして問題が起こる。冒頭でダニーが見とれていた美女パム・ディヴィスを連れて突然現れる。結婚したという。しかし、このパム、イタリア系マフィア、ポーリー・モレッティの恋人だったのを横取りしてきたのだ。ついに導火線に火がついた。

 本作は、三部作の第一部となっているらしい。解説によれば、「物語の筋立てがギリシャ神話をなぞっていることである。古代ギリシャの詩人ホメーロスの“イーリアス“と“オデュッセイア“や、古代ローマの詩人ウェルギリウスの“アエネーイス“とある。

 確かに「第一部パスコ・フェリのビーチパーティ」に海辺の写真とともにホメーロス“イーリアス“第二歌さあ、腹ごしらえをせよ。戦は近い。がある。

 ドン・ウィンズロウの作品は、ニール・ケアリー・シリーズを読んでファンになった。ここ最近は裏社会の物が多くなったようだ。かつてのマリオ・プーゾの「ゴッドファーザー」級を狙っているのだろうか。ネットでこんな記事を見つけた。「「エルヴィス」でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたオースティン・バトラーが、ベストセラー作家ドン・ウィンズロウの小説「業火の市」を映画化する新作に主演すると米Deadlineが報じた」これも楽しみではある。
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海外テレビドラマ「パレーズ・エンドParade's End 」イギリスBBC TwoとアメリカHBOが2012年に製作した。

2023-04-22 14:17:15 | 読書
 1908年代に放蕩な妻と謹厳実直な夫の心の動きを織りなすラヴ・ストーリー。統計局に勤める頭脳明晰な貴族のクリストファー・ティージェンス(ベネディクト・カンバーバッチ)は、列車の個室で出会ったシルヴィア(レベッカ・ホール)と結婚した。しかし、シルヴィアは懐妊していた。これを伏せたままシルヴィアの放蕩は治まらない。

 しかもクリストファーの強烈な怒りもない。つまり暖簾に腕押し状態。親友に語ったクリストファーの心境は、「離婚は下品だし紳士である以上しない。浮気もしない。彼女の夫が務まるのはインド総督ぐらいのものだ」ここで言うインド総統は、国王エドワード7世のことと思われる。エドワード7世は、1901年から1910年までインド皇帝を務めたとある。

 シルヴィアの男とのアバンチュールは、夫・子供を残してパリに駆け落ちという事態になった。一方のクリフトファーにも変化があった。統計局では、「統計局は閣僚の主張を支持する義務がある。法案を正当化する数値を出せ! 要望に沿うのが君から出てこないなら、担当を外されるぞ!」と脅される始末。やむなく数値を改変した。

 そんなときの気晴らしはゴルフに限る。そのゴルフ場に乱入してきたのが、ヴァレンタイン・ワノップ(アデレイド・クレメンス)という若い女性参政権活動家だった。クリストファーが追っていた警官から逃がしてやり、徐々に二人は接近していく。ヴァレンタインの心は、妻でなくてもいい愛人でもいいという惚れようなのだ。この心は封建的な空気が横溢していた時代にしても、ヴァレンタインの女性の地位向上を標榜している運動とは相いれない。よく言われる恋は盲目というわけか。

 ヴァレンタインとの関係を知ったシルヴィアは、夫を取り戻そうとするが時すでに遅し。やがて恋のパレードの終わりが見えてくる。

 BBCの作るドラマが大好きで、さがして観ている。品があって出演する俳優もいいしストーリーも面白いからだ。
 1976年ロンドン生まれの ベネディクト・カンバーバッチは、15世紀のイングランド王リチャード3世の血縁で演技力も高く評価されいる。

 1982年生まれのレベッカ・ホールも演技力には恵まれている。本作では憎々しいほどの女を演じた。

 可愛いいアデレイド・クレメンスは、1989年オーストラリア生まれ。 ベネディクト・カンバーバッチと裸のラヴ・シーンを見せてくれる。

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読書「葬られた勲章Gone Tomorrow」リー・チャイルド著2020年講談社文庫刊

2023-04-18 10:35:37 | 読書
 ニューヨーク市の地下鉄6系統。レキシントン・アヴェニュー線各駅停車、川崎重工業製で北のアップタウン行き。時刻は午前2時、ジャック・リーチャーが乗り込んだ車両に乗客5人。
30代から40代に見える古びたレジ袋を手首にかけた小柄なヒスパニック系の女。

 バルカン半島か黒海周辺の出身かもしれない、黒っぽい髪と皺の寄った肌、筋張った体は仕事と気候のせいで肉が落ちている。年齢は50ぐらいだが、イヤに若作りだ。だぶついたジーンズは裾がふくらはぎまでしかなく、大きすぎるNBAのシャツという出で立ち。

 3人目は西アフリカ系かもしれない女だった。やつれて黒い肌は、疲労と照明のせいでくすんだ灰色になっている。色鮮やかなローケツ染めのワンピースを着ている。

 チノパンにゴルフシャツの男。正面をじっと見つめ遠い目になったり鋭い目になったりしている。

 5人目が40代とみられる平凡な白人の女。服装は黒ずくめだ。元憲兵隊指揮官だったジャック・リーチャーの目には、この黒づくめの女が自爆テロリストに見える。そこで警官と偽って「両手を出してくれないか?」と言った。無言の時間が過ぎていく。「片手でもいいから出してくれ」不承不承、女は右手を出した。そこには銃身4インチの古い大型リボルバーで、銃口がジャックに向いている。こんな場面、誰でもハッと息をのむ。女が顎をあげる。その下の柔らかな肉に銃口を押しあてる。引き金を半分ひく、輪胴が回転し撃鉄が起きる。そして自分の頭を吹き飛ばした。

 これがこの物語の衝撃の導入部で、家なし車なし、電車とタクシーと歩きが移動手段のジャック・リーチャーが解き明かすバイオレンス。ニューヨークに精通しているジャック・リーチャーならではの推理が冴える。

 著者のリー・チャイルドが放つ本シリーズは、2020年までで25作あって、うち12作が邦訳されている。トム・クルーズ主演の2012年制作の「アウトロー」、2016年制作の「ジャック・リーチャーNever Go Back」や2022年アマゾン・オリジナル・テレビ「ジャック・リーチャー~正義のアウトロー、シーズン1」もドラマ化されている。気晴らしに読んだり観たりするには格好の題材ではなかろうか。そのリー・チャイルドは、1954年イングランド、コヴェントリ生まれ。1998年アメリカに移り住む。


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読書「最後の審判FINAL RECKONING」ロバート・ベイリー著2021年小学館文庫刊

2023-04-09 11:13:21 | 読書
 肺がんの末期に苦しむ引退した弁護士トム・マクマートリーとその家族に襲い掛かる、殺人鬼の死刑囚ジムボーン・ウィラーとの死闘が描かれる。狂気の殺人者に対しては、法はなんの力もない。あるのは最後までやり抜くという強い心だけなのだ。 と悟った元弁護士トム・マクマートリー。死刑囚監房から仮病を使って市内の救急病棟に移動、そこからやすやすとこの害虫が世間に放たれた。それには刑務所所属の看護師シャーロット・トンプソンの協力があった。

 誰も第一希望の職種でない刑務所の看護師。それを何十年も務めてきたシャーロット・トンプソンの心は、人生に変革を求めた。何十万ドルもの礼金は、嫌な臭いのする刑務所からの離別を意味した。しかし、ガソリンスタンドのトイレで発見されたシャーロット・トンプソンは、鋭利なナイフで首を切られていた。

 この作家の得意とする法廷場面が殆どなく、余命いくばくもないトム・マクマートリーの、まるで西部劇の決闘を思わせるバイオレンスに満ちたものだった。舞台はアラバマ州。物語の背景にあるのは、フットボールとカントリー・ミュージック。トム・マクマートリー自身もアラバマ大学でフットボールを愛好していた。

 アラバマ州タスカルーサ郡地区検事パウエル・コンラッドとタスカルーサ郡保安官事務所の捜査官ウェイド・リッチーの二人も、マール・ハガードの「ママ・トライド」が好きだし、ウィリー・ネルソンの「ウィスキー・リバー」「オールウェイズ・オン・マイ・マインド」も好んで聴く。

 さらに本作でバーボン・ウィスキーの最高級品にも触れてある。「パピー・ヴァン・ウィンクル」で楽天で20年物750ml88万円。いったい誰が飲む? と思ってしまう。量産品でなく希少価値で値段が上がっているように見える。数千円のウィスキーでもオン・ザ・ロックで飲むと美味しい気がするが。では、オン・ザ・ロック片手にマール・ハガードの「ママ・トライド」を聴きましょう。
 著者ロバート・ベイリーは、アラバマ州生まれ。アラバマ大学ロースクールを卒業、地元ハンツヴィルで弁護士として活動。2014年「ザ・プロフェッサー」で作家デビュー。

「Mama Tried」
The first thing I remember knowin'
Was a lonesome whistle blowin'
And a young un's dream of growin' up to ride
On a freight train leavin' town
Not knowin' where I'm bound
And no one could change my mind but Mama tried
One and only rebel child
From a family, meek and mild
My Mama seemed to know what lay in store
Despite all my Sunday learnin'
Towards the bad, I kept on turnin'
'Til Mama couldn't hold me anymore

And I turned twenty-one in prison doin' life without parole
No one could steer me right but Mama tried, Mama tried
Mama tried to raise me better, but her pleading, I denied
That leaves only me to blame 'cause Mama tried

Dear old Daddy, rest his soul
Left my Mom a heavy load
She tried so very hard to fill his shoes
Workin' hours without rest
Wanted me to have the best
She tried to raise me right but I refused

And I turned twenty-one in prison doin' life without parole
No one could steer me right but Mama tried, Mama tried
Mama tried to raise me better, but her pleading, I denied
That leaves only me to blame 'cause Mama tried

最初に覚えたのは、「知っている」ということ。
孤独な笛吹きでした。
そして、若者の夢であるライダーへの成長。
町を去る貨物列車で
行き先がわからない
そして、誰も私の心を変えることはできないが、ママは努力した。
唯一無二の反抗期の子供
家柄はおとなしく、温厚
ママは何が起こるか知っているようだった
せっかくの日曜大工なのに
悪に向かって、私は回り続けた。
"ママが私を抱けなくなるまで

そして21歳になった俺は、仮釈放なしの終身刑の刑務所で
誰も僕を正しく導くことはできなかったけど、ママは頑張った、ママは頑張った
ママは私をもっとよく育てようとしたが、彼女の懇願に私は否定した。
それは、私だけが責められるべきで、ママは努力したのだから

親愛なるお父さん、ご冥福をお祈りします
母に重荷を背負わせた
彼女は彼の靴を埋めるために、とても一生懸命だった
休みなく働き続ける
私に最高のものを持たせたかった
彼女は私を正しく育てようとしたが、私は拒否した

そして21歳になった俺は、仮釈放なしの終身刑の刑務所で
誰も僕を正しく導くことはできなかったけど、ママは頑張った、ママは頑張った
ママは私をもっとよく育てようとしたが、彼女の懇願に私は否定した。
それは、私だけが責められるべきで、ママは努力したのだから

www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。

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読書「警告Fair Warning」マイクル・コナリー著2021年講談社文庫刊

2023-04-05 09:00:04 | 読書
 私ジャック・マカヴォイは新車のSUVレンジ・ローバーのハンドルを握りしめながら、必死で頭を働かせていた。今ロサンジェルスのフリーウェイ101号線を疾走中。後部荷室に連続殺人犯が潜んでいるのを確信していた。元FBIのプロファイラー、レイチェル・ウォリングと咳払いと無言のサインで、スマホで交信しながら事態の収拾を確認していた。ダウンタウンの袋小路で待っているパトカーの一群に引き渡すというものだった。

 「百舌(モズ)」と名付けた殺人犯は、狡猾で頭が切れ腕力の強い男なのだ。この男はDNAを悪用した殺人鬼だ。一般にDNAは、本人確定の有力な手段とされているが、これに細工をしてDNA不一致により楽々と罪から逃れられる。

 DNA検査技師の説明によると「DNAはデオキシリボ核酸の略称です。これは二本の糸がお互いに絡み合って、生物の遺伝子コードを伝える二重らせんを形成している分子です。コードというのは、生命体の発達のための指示という意味です。人間の場合、DNAは我々のすべての遺伝情報を含んでおり、それゆえにわれわれに関するあらゆることを決定しています。目の色から、脳の機能にいたるまで。すべての人間のDNAの99%は、同一です。残りの1%と、その中での無数の組み合わせが、われわれを完全に唯一無二のものにしているのです」

 この唯一無二の根拠は何かと言えば、データー・べースでは13のうしろにゼロが15個つく一京三千兆分の一、これを具体的には地球上の人口が約70億人なので一京三千兆分の一と比較するとはるかに小さい。従って同一のDNAを持つ人間は一人もいないことになる。残り1%の中に、その人の趣味・嗜好・性格などが含まれていると言える。

 これを利用したのが百舌なのだ。直近で殺害したティナ・ボルトレロも男をあさる女だった。それに目を付けたのが百舌。その百舌が車の荷室にいる。カタリと音がしてそいつが出てきた。ヤツは今行動を起こした。腕をジャックの首に回した。ジャックは瞬時に判断した。ヤツはシートベルトをしていない。スピードを上げる。「止めろ」とヤツ。左に急ハンドルを切って両足で急ブレーキ。車は横転、ヤツは車の下敷きになって死んだ。

 指紋は一致しない。歯からの特定もできない。百舌が死んでも謎のままなのだ。傷を負ったジャックが気になるのは、レイチェルのこと。かつて恋人同士だったが、ある気まずいことでメールのやり取りだけで二年が過ぎていた。レイチェル・ウォリングは、ダウンタウンでRAWデータサービスを開業していた。ジャックが勤める調査報道会社フェアウォーニングでティナ・ボルトレロ事件を追っていて、元プロファイラーのレイチェルを訪ねたのがきっかけで再びラヴアフェアとなった。 が、ある一点をしつこく追求したために、再び冷たい風が吹き始めた。

 ジャックの推定年齢58歳。レイチェルが少し若いとして、47~8歳だろうか。もうそろそろ落ち着く年齢かもしれない。次回のジャック・マカヴォイ・シリーズに期待したい。こういうミステリーやアクションの中に、男女の情愛を描くとリアルな雰囲気が加味されると思っている。読んで楽しいのも事実だ。レイチェルは一発の銃弾説を持っている。だれにでも銃弾のように心臓を貫いてくれる誰かがこの世にいると信じている。ジャックにとってレイチェルが正にその銃弾なんだが。

 著者のマイクル・コナリーは、1956年フィラデルフィア生まれ。ロサンジェルス・タイム紙を経て作家に。本作は長編34作目、ジャック・マカヴォイ・シリーズ3作目になる。
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