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映画「告発のとき(‘07)」

2010-02-17 12:47:21 | 映画

 元軍警察の軍曹ハンク(トミー・リー・ジョーンズ)に息子のマイクが軍規違反の無断離隊したという連絡が入る。おまけにイラクから四日前に帰国したというのに。
 ハンクの同僚だった男に連絡するが「そんな名前の人はいません」と言われ除隊したことが分かる。息子を探すためにフォート・ラッド基地に向かう。基地でも確かな情報がない。 仕方なく地元警察へ捜索願いに赴くが、ここでも軍関係は軍警察へととりつく島もない。そんな時、マイクのばらばらにされ焼かれた死体が発見される。ここで軍警察と地元警察の縄張りが邪魔をする。何とか警察の刑事エイミー(シャリーズ・セロン)の協力を得て核心に迫っていく。
 クリント・イーストウッドとコンビを組んで製作したアカデミー受賞作品‘04「ミリオンダラー・ベイビー」や自身の監督作品’04「クラッシュ」で成功したポール・ハギスは、戦場の狂気を丁寧に描出する。
 フォート・ラッド基地への途中、星条旗が星の部分を上下逆さまに掲揚されているのを見て、係りの男に注意する。国旗を逆さまに掲揚するのは「救難信号だ。助けてくれということだ」といって掲揚し直す。
 これは息子マイクの悲痛な助けを呼ぶ意味合いが込められている。エンディングでマイクが自身に送った擦り切れた星条旗を、ハンクが死んだマイクの霊を慰めるように掲揚してガムテープで固定してしまう。
 係りの男は、「夜、とり入れなくてもいいのか?」
 「そうだ」
 「楽でいい」
 しかし、ハンクには息子は永遠に生き続ける。それに妻ジョーン(スーザン・サランドン)との息子の死を知らせる電話での会話は、端的に父と子の関係を明らかにする。
ジョーン「息子といたいの」
ハンク「何も残っていないんだ」
ジョーン「どういうことなの?」
ハンク「ジョーン、一度くらい私に従え」
ジョーン「一度くらい? 一度? 私は入隊に反対したけど、あなたが賛成した。誰の考えに従った?」
ハンク「本人の意志だ。私が勧めたんじゃない」
ジョーン「あなたのようになろうとしたからよ」
 息子は父親のようになろうとして、軍に入りイラクに行った。そして狂気によって死亡した。母親の気持ちが痛いほど分かる場面。
 もっと面白いのは、エイミーに対する男の刑事たちの嫌みったらしい態度だ。つまらない事件をエイミーに与え、抗議すると「交通課からカラダで得た刑事だろ」文句を言うなと言う。エイミーも負けていない「カラダで取った刑事だから、この事件は荷が重いわ」と反論する。ポール・ハギスはフェミニストではないかと思うし、いまだに女性を蔑視する男の後進性を揶揄しているのかも。
 それからもう一つ、これは日米地位協定を連想してしまうが、要するに警察が犯人と目星をつけて引渡しを要求するが、軍の管轄権で抵抗してくる。国内でも軍は自分たちの地位を守ろうとする。ましてや外国と、となればおいそれと妥協しないだろう。こんなことを考えさせられた。
 管轄権を主張した軍にエミリーは反逆する。「非番兵士の外出は何人ぐらいいるの? 二千人?三千人? 警察は基地の入り口でそれらの兵士を飲酒運転で拘束してもいいわよ」これには効果覿面だった。
 いずれにしても、戦争がもたらす悲劇は後が絶えない。第二次世界大戦後アメリカが参戦したものに朝鮮戦争(1950.6.25~1953.7.27)、ベトナム戦争(1965.2.7~1975.4.30)、湾岸戦争(1991.8.2~1991.1.17~1991.2.28)。イラク戦争(2003.3.9~継続中)があり、数多くの映画も製作されているがアカデミー賞を受賞するほどの作品は何故かベトナム戦争に多い。
 主なものに‘78「ディア・ハンター」アカデミー作品賞、監督賞、助演男優賞、音響賞、編集賞を受賞している。監督マイケル・チミノ、キャストロバート・デ・ニーロ、メリル・ストリープほか。ジョン・ウォリアムズのギターで叙情的なテーマ曲が印象に残る。
 コッポラ’79「地獄の黙示録」、オリバー・ストーンのアカデミー受賞作‘86「プラトーン」’87「グッドモーニング・ベトナム」、‘89「7月4日に生まれて」などがある。本作はそこまでの評価はないが、重いテーマを持った作品だ。ベテラン俳優で難なくこなしたというところ。
 製作・監督・脚本ポール・ハギス1953年カナダ・オンタリオ生まれ。
 トミー・リー・ジョーンズ1946年テキサス州生まれ。ハーバードでのルームメイトがゴア前副大統領は有名。’93「逃亡者」でアカデミー助演男優賞受賞。
 シャリーズ・セロン1975年南アフリカ生まれ。‘03「モンスター」でアカデミー主演女優賞受賞。
 スーザン・サランドン1946年ニューヨーク生まれ。’95「デッドマン・ウォーキング」でアカデミー主演女優賞受賞。
        
        ポール・ハギス